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争えないのは血か業か01


「そんなわけで!」


 興奮しているらしい。


 アイナの声は弾んでいた。


「アイナ研究室史上初の生徒です」


「…………」


「…………」


 クロウと生徒は途方に暮れていた。


 無理もない。


 互いに久方ぶりだ。


 語ることも多々あろうがリアクションが浮かばないのも事実。


 セントラルは広い。


 都市国家であるため膨大というわけでもないが、少なくとも学院に限って云っても見知らぬ人が見知る人より多い程度には広い。


 気風としては大学のソレに近い。


 個人で講義を受け、研鑽する。


 魔術学院ではそれが魔術だと云うだけだ。


 結果、クロウと生徒……ローズ=ヴィスコンティが学院に於いて今初めて顔を合わせたとしてもまったく不条理なことでもないのであった。


「どうぞよろしく御願いします」


 とメイド服を着ているクロウが一礼した。


 対してローズはクシャッと表情を歪めて紅の瞳から涙をこぼすと、


「……っ!」


 クロウに抱きついた。


 身長はローズの方があったためローズの胸に顔を埋めるクロウ。


「?」


 一人状況を把握していないアイナだった。


 さもあらんが。


「久しぶりですね」


 クロウは慈愛の言葉を口にしながら優しくローズの紅髪を撫でる。


「お兄ちゃん……ですよね……?」


「だね」


 何の因果でアイナがローズを研究室に招いたのかは知りようがないとしても、何とも皮肉な邂逅であった。


 ローズの誰何も無理なからぬ。


「知り合いですか?」


 そうも云わざるをえない。


 イヤリングを通したテレパシーによる念話だ。


 としてもアイナは特に意識してのパフォーマンスではないのだから仕方ない。


 チョンボといえばチョンボだろう。


 気にするクロウでもないが。


「ローズ=ヴィスコンティ。小生の愛妹です」


 クロウも念話で答える。


「そうなんですか?」


「言っていませんでしたね。小生は元々クロウ=ヴィスコンティ……先生と暮らすにあたって家名を棄てましたが……一応のところ貴族の出です」


「魔術貴族ヴィスコンティ家ですか。道理で……」


「それとは少し違うのですけど……」


 転生者であることはアイナにも伏せている。


 信頼や信用とは別次元の話だ。


「語ったところでカードの価値が変動しないため、今は切る必要が無い」


 そんな感じ。


「お兄ちゃん……お兄ちゃん……!」


 ローズはボロボロに泣きながら強くクロウを抱きしめた。


 慟哭。


 無理もない。


 慕っていた兄がいきなり蒸発したのだ。


 なおクロウがヴィスコンティの家の中で重要視されていないが故に肩身が狭かったのも事実だ。


 それ故ローズは奮起したのだが、それが徒労に終われば途方にも暮れるというものである。


「ごめんなさい」


 クロウもその辺りは察せざるをえないが、自身の判断の正当性については疑っていない。


「仮にローズが魔術を覚えるなら小生のためではなく自分のために」


 そう思ったからこそ出奔したのだから。


 結果としてセントラル魔術学院のアイナ研究室で再会というのは皮肉にしてもからすぎる。


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