金なる明星より降りし者参17
清澄な音が響いた。
スライムは金属化していた。
超常圧力の物だ。
呼吸が合わない。
超神速の剣が弾かれる。
薄緑。
甲高い悲鳴。
そしてスライムの反撃。
マグマに変質し、粘体が触手のように。
「さすが」
一旦クロウは退いた。
空中に。
灼熱が場を温める。
「それではもう少しやりますか」
チンと薄緑を納刀する。
マグマの触手が伸びて、頭上のクロウへ。
それらは溜抜で断ち斬られた。
マグマの熱量すら問題にならない超神速の抜刀術。
速度は疾風迅雷の二乗。
体さばきはアクロバティックだが、そもそも足場に困らないので、クロウは何処ででも最速の居合いを放てる。
「無茶苦茶だぜあの野郎」
「同意でしょう」
イズミにしろムサシにしろ思うところがあるらしい。
気にするクロウでもない。
タタンと宙を蹴る。
神速。
スライムは追いつけない。
演算能力はある。
混沌も脅威だ。
だが、戦いにあたっての戦闘勘を、モンスターが持ち得るはずがない。
そこが有利不利の境目だ。
また金属になって、防御に回る。
「疾」
言葉は背後に流れる。
音波より速く。
衝撃波を背負って。
「疾ぃーい!」
全力でクロウは突き出した。
薄緑。
空中。
神速。
刺突。
「――――」
スライムの硬化した体に突き刺さる。
「浅い!」
イズミが逸る。
が、クロウの剣は終わりでは無かった。
声の聞ける速度ではない。
だが確かにイズミとムサシは聞いた。
「京八流」
その名を。
「打抜」
京八流の抜手の一つ。
剣術だ。
浅く突き刺さった薄緑の柄。
その柄頭に掌底が当てられる。
勁を練る京八流は、無剣でも剣を振るえる。
あるいはその証明だったか。
ドクンとスライムが痺れた。
京八流が抜手。
打抜。
刺突で刺した相手に、その剣の柄から掌底を放って気を送り込む。
波動が剣を通じて、刺さっている敵に伝播し、内部からズタズタにする一種の剣と拳の複合技。
それは超硬金属すら例外ではない。
スライムの核まで衝撃は透き通り、
「――――」
人声ではない悲鳴を上げて、スライムは無力化された。
「何をした?」
「普通のことを」
禅の境地では至れぬ技だ。
勁を練るからこそ出来る抜手。
それにしても一撃でSクラスのボスを屠るのだから瞠目にも値するが。
「ふ」
呼吸を通常に戻す。
四十一階層への扉は開いた。
ボス攻略の証だ。
「それでは」
そんなわけで……幼年三人でSクラスの階層を突破する異常事態が発生した。
「ドロップアイテムは?」
「グラビメタルでしょうね」
「?」
「重力を発生させる魔金属でしょう。軽くしたり重くしたりと自由自在に扱える金属でございましょう」
例えば剣に使えば、
「剣を振るときは軽く」
して、
「敵を斬る瞬間に重く」
出来、速度と威力を両立するとのこと。
三人の剣の術理には無駄としか言えないが、一般人には、
「喉から手を」
だ。
当然、値段も青天井。
王属騎士の類に下賜されるアーティファクトの素材として有名らしい。
「へ~」
と全く興味を惹かない相槌はクロウの口から零れた。




