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金なる明星より降りし者参02


「千両千両」


 ムサシが小気味よく言葉を綴る。


「ふい」


「ほい」


 クロウとイズミも似たような物だ。


 砦近くの温泉。


 そこで憂き世の垢を落としている三人であり、ロリコンの概念が飽和してしまうほどの状態だった。


「覗いたら終身刑」


 と申し添えてある。


 幼年とは言え愛らしさは天井知らずだ。普通に鬼……オーガであるが故に、その神秘性は増し増し。


 風呂場にコトンと鬼丸と虎徹が置かれていた。


「不思議ですね」


 とはクロウの言。


「肉体に剣がありません」


「今は魔術師でしょうからに」


『二重技術者』


 そう呼ばれる特性だ。


 此方が立てば彼方が立たず。


 それ故、双方を限界まで極める。


 二天一流の求むる処だ。


「代わりに」


 スッと風呂から腕を上げて、指鉄砲を作る。


 詠唱は無しだ。


 爆音が鳴り響いた。


 指差した先で、兵士たちの悲鳴。


 覗いていたらしい。


 クロウもイズミも知っていたが、あえてスルー。


 というか剣の間合いではなかったので、風呂に肩まで浸かることで、貞操を守っていたのだが、


「うーん。デリシャス」


 ムサシには射程圏らしい。


 無詠唱。


 しかも魔術に於いて奥義とも呼ばれる、


「遠隔干渉系」


 の技術だ。


 たしかにクロウやイズミとは、また別の形で、「異常」と評せよう。それほどまでに突出していた。あるいは変質していた。


「ところで裏切って良かったので?」


「別に文句を付けるなら殺すだけでしょう」


 そうらしい。


 たしかにムサシなら叶うだろう。


 新免武蔵守藤原玄信しんめんむさしのかみふじわらはるのぶ


 歴史に太字で残る剣豪だ。


「二天一流……ですか」


「お二方は有名でしょう」


「そなんですか?」


「照れるな」


 少し笑んでしまう二人だった。


 クロウの方は深刻なトラウマだが、剣そのものに罪はない。


 あくまで罪悪なのは、クロウの生き方だ。


 とはいえ瘡蓋越しにジクリと出血も呼ぶ物だが。


「鞍馬天狗の剣。静謐止水の剣」


 京八流。


 そして愛洲陰流。


 高らかと天下に名乗る大剣豪。


 まして源義経ともなれば時代を作った寵児でもある。


 千剣の弁慶との戦いは後刻まで広まっている。


「いい飲み仲間だったんですけどね」


 苦笑を閃かせるクロウだった。


 自分の自刃のために最後まで尽くした武勲。


 それは浄瑠璃で再演されるほどらしい。


「たしかに逸れ者よな」


 はクロウをして思わせる。


「他にも話を聞きたいのでしょう」


「そうは言われましても」


 と云いつつ、


「御大が」


 やら、


「先生が」


 やらポツポツと話す。


「ついで剣護法を覚えたわけです」


 と話題は魔術にまで及んだ。


「剣鎧……」


「ですね」


「ここで使えますでしょうか?」


「まるごと串刺しになります」


「でしょう」


 無念のようだ。


「俺は構わんぞ」


 イズミはアンチマジックを持っているので護法も通じない。


「それより天翔教えてくれよ」


「それは拙もそうでしょう」


 二人はズイと距離を縮める。


「とは言われましても……」


 実際にやるには時間がかかる。


 練習方法だけを教えるクロウだった。


 また爆発。


 ムサシの魔術だ。


 今度は指鉄砲すら作っていない。


「魔術も度を超すとテロリズム」


 とは魔術学院で話題に上るが、


「ムサシが良い教師」


 クロウにはそう思えた。


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