チートなサムライ三度14
丁々発止。
丁々発止。
空間的にクロウは剣を振るう。
弾かれる。
既にムサシの方は鍔迫り合いを諦めている。
膠着した瞬間、蹴撃が襲う。
その蹴りを切り払おうにも、空中で足場を構築し、次なる剣が襲う。
単純に、地面に足を付けて振るうムサシの剣は、空間上に無尽蔵に足場を造れるクロウの剣とは、隔たりがあった。
蹴りや跳ねといった、
「剣に於ける悪手」
が、クロウには意味を為さない。
全身が剣であり、得物を選ばない二天一流とは別の意味で、意味不明な剣ではあった。
「喝」
ムサシの薙ぎ。
クロウは跳ねて避ける。
普通なら空中から落下するだけの得物と成り下がるが、
「疾」
クロウの場合、空中に足を引っかけて、落ちないどころか、勁の練られた剣を振るう。
発勁。
剛剣がムサシを襲った。
「マズ……っ!」
受け止めるムサシ。
肉体制御の緻密さたるや、既に其方も常識の埒外。
ミシィと地面が鳴いた。
ムサシが踏ん張っている両足から、蜘蛛の巣状の地割れが起きた。
クロウの剛剣を剣で受け、その衝撃を腕から肉体……足へと逃がしたのだ。
ムサシ自身は無事だが、
「わお」
その地面のヒビを見れば、クロウの剣の破壊力が窺える。
イズミも驚くほどだ。
クロウは更に加速。
縦に一回転して、上段斬り。
躱すには足に衝撃が残る。
受ければおそらく追撃が来る。
躱すか。
受けるか。
あるいは牽制するか。
「喝!」
剣気を放った。
がクロウには通じない。
剣気にあてられるのは御大との修行で慣れていた。
尋常とは思えない上段がムサシを襲う。
「ち」
受けるムサシ。
さらに、
「ふ」
踵落としが、追撃で送られる。
「……っ!」
受け止めきれず、剣が欠けた。
元々和刀では無いのだ。
錬鉄。
芯金。
研刃。
それらの揃っていない量産の剣。
金属系のモンスターすら切り伏せるクロウやイズミの剣に、それで対抗できたのは、偏にムサシの剣の術理。
されどそれにも限度はある。
此度の回転斬りが、ソレだった。
カキンと受けた刃から先が切り取られる。
「――――」
ムサシは死を想起した。
剣が無ければ剣には対抗できない。
二天一流なら出来るが、それにも限界はある。
少なくとも伝説の武将、
「源義経」
を素手で相手に出来ると自惚れるほど、愚鈍なムサシでもない。
――死ぬ。
言葉にすれば二文字。
だが確かに、その覚悟はあった。
「ふむ」
そのクロウの剣はピタリと止まったが。
寸尺。
「斬らないのでしょうか?」
「必要ないでしょう」
サラリと言って、クロウは薄緑の維持を解除した。
トンと地面に降り立つ。
「如何でしたか?」
「伝説は伊達ではあり申さないでしょう」
「恐縮です」
ヒラリと笑みを作るクロウ。
「けれど、ムサシの得物が日本刀ならまた違っていたのでは?」
「此方の世界にはありませんでしょう」
言ってしまえば、
「クロウとイズミが例外」
ではあるのだ。
和刀の技術は、転生先には存在していない。
「それで」
クロウが傍観していた兵士たちを見やる。
「やりますか?」
「「「「「…………」」」」」
威勢の良い言葉は出ないらしい。
そうだろう。
オーガのムサシですら勝てない相手だ。
「纏めて掛かっても傷一つ残せるか?」
そこから演算せねばならない。




