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イース皇国の難08


 自爆。


 爆発が起こり、イズミを巻き込む。


 閃光。


 熱波。


 衝撃。


 灼炎。


 暴音。


 連続して膨れあがる。


 最後にもうもうと爆煙が残り、


「やれやれ」


 そこから、『何一つ傷も埃も付いていない』イズミが軽やかに現われた。


「仕事熱心は良いが、二階級特進とかあるのか?」


 ――自分らが何を目にしているのか?


 そこに敵も味方もなかった。


 Sランクの傭兵と、その連れ。


 特級と呼んで良い戦力の、それは発露。


「ま、狙われるのも今更ではあるが」


 さらりと結論づける。


「馬車を狙われては溜まらんからな」


 長曽根虎徹は水平に。


「さっさと終わらせるか。こっちの都合を優先して悪いが……まぁ穏やかに死んでくれ。そっちの方が肩の荷も下りる。あくまで形而上で語ればな」


 瞬間、イズミがブレた。


 画質の悪い映像のようだ。


「消え――!」


 た、と評するより斬撃が早い。


 クロウは鬼丸を鞘に収めている。


 魔術さえ防げるなら、特に切る必要を認めない。


 既にイズミと暗殺者――彼我の戦力は計算できている。


 狂いがあっても寸分だろう。


 まこと心配事がない。


 杞憂の一寸ていどしか存在し得ないのは、イズミへの信頼、敵方の脆弱さ……戦力差のどちらに比重しているのか?


「遅い」


 暗殺者の俊敏性は、一般の傭兵には脅威だが、


「射」


 イズミには欠伸もの。


 一瞬の判断。


 敵側のアキレス腱が断ち斬られる。


 悲鳴が轟いた。


「しぃ!」


 毒矢を弓につがえる最後の一人。


「かかってこい」


 イズミが虎徹を肩に、挑発する。


 その言っている御言の葉の全てが、イズミの精神に乗ったような……挑発にも近い口調にして文脈とでも言うのか。


 射出。


 矢の速度。


 よく比喩される表現だ。


 この場合は明喩よりの事実だが。


 そして無力化される。


「中々ではあるが」


 襲い来る矢を切って捨てたイズミ。


 その怪物性は……たしかに人間を止めているともとれる……少なくとも人の範疇に収まる程度の能力では有り得なかった。


「俺を襲いたいなら強弓を持って来い」


「あー」


 とクロウ。


「多分強弓でも無理でしょう」


 と言いたいのだが、


『ここで否定しても意味がない』


 とツッコまなかった。


「――――」


 暗殺者は弓を棄てて、馬車に駆けた。


「こっちで自爆する気か!」


 乗合の傭兵が、悲鳴を上げる。


「頑張れ」


 穏やかなイズミの応援。


 邪気無く。


 皮肉無く。


 嫌味無く。


 それにしてもジョークが黒かったが。


「――――」


 爆発。


 後の爆縮。


「え?」


 傭兵たちの困惑。


 クロウの鬼丸だ。


 鞘から放たれた、居合い。


 京八流の一手、溜抜。


 ソレによる抜刀が、自爆を切り裂いた。


 正確には、アンチマジックの妙で自爆の魔術を無かったことにした……が正しいのだが、どちらにせよクロウの鬼丸の前にはあらゆる自己犠牲すら問題にならない……と称したも同然ではあった。


 無論、そこまで読んで、暗殺者の処置をイズミに任せたのだから。


「ご苦労さん」


「クロウだけに」


「因果な名だな」


「誠以て」


 肩をすくめる二人だった。


 チンと鬼丸と虎徹が鞘に収められる。


「何者だ?」


「知ってるだろ」


 外見年齢一桁の幼女。


 そして人外の御手。


 イズミ。


 剣聖と呼ばれる一種の究極だ。


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