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イース皇国の難06


「~~~♪」


 クロウは鬼丸の手入れをしていた。


 さすがにアーティファクトだけあって、折れも錆びもしない……その上で持ち手の通りに物を切る。


 少し斬殺について、興味を覚えることはありますれど、それでも扱うクロウが並みでは無いため、呪剣とは相成っていない。


 故に愛情を向けると、少し大人しくなった。


「ではもうすぐ首都に」


 イヤリング。


 念話だ。


「皇都……といいましたか」


「イース皇国ですからね」


 アイナの言葉も尤もだ。


「なにか皇族に用があるとか」


「さすがにトップの傭兵となれば政治的すぎますし」


「そんなものですか」


「そんなものです」


 嘆息まで聞こえる始末。


 シャッと油紙で磨く。


「ふにゃー」


 その政治的人間は、ベッドで転がっていた。


「問題も無いでしょう」


「何を根拠に」


「邪魔だったら切って捨てるだけです」


 ――例え皇族でも。


 その内包する意図は、存分にアイナにも聞こえた。


 寸分の違いも無く。


 邪魔ならば切って捨てる――――それを本気で口に出す辺りがクロウの異常性の証明ではあるのだが、まず順当に御本人が認識していない。


「正気ですか?」


「八幡に誓って」


「はちまん?」


「何でもありませんよ」


 サラリと躱す。


「お兄ちゃんは……心配掛ける……」


「ですね」


 別にクロウも否定はしない。


 前世も前世なら、現世も現世だ。


「沢山の人を傷つけました」


 それに違いはないわけで。


「でも想う人がいてくれるのは忘れていませんよ」


「勝手に出て行った……」


「ローズには家庭の事情があるでしょう」


「お兄ちゃんのため」


 本当に「お兄ちゃん大好き」だけでSランクの傭兵に勝るとも劣らない能力を獲得した御仁の声は、あまりに重かった。


 端的に申してブラコン。


「責任は感じますけど」


 シャッと鬼丸を磨く。


「言い訳に利用されるのは癪ですね」


「…………」


 ローズは沈黙した。


「ご厚意だけ有り難く」


 さらにトドメを刺す。


「クロウ様は、どうして着いていったのです?」


「別に理由はありませんよ」


「流されただけと?」


「イズミの世界も興味深いですし」


「オリジン様に告げ口しますよ」


「構いませんが」


 別に操の問題でも無い。


 自覚しているように精通もまだだ。


 少年趣味には需要あろうが、


「自殺行為」


 とイコールの方程式でもある。


「楽しみですね」


 軽やかにクロウは思念を紡ぐ。


「源平合戦とどれほど違うのか」


 サラリと物騒なことを。


「げんぺいがっせん……」


「ところでもう寝なくて宜しいので? 睡眠不足は肌の対敵ですよ」


「エルフはその辺、実は問題ないんです」


「亜人でしたね。そう言えば」


 ロリババアだ。


「ということはローズも?」


「ええ」


「そうなんだ……」


 当人も知らなかったらしい。


「ついでに命の水も飲んでいますし。ちょっとやそっとの大病すらはね除けるレベルに達しておりますよ」


「それは心強い」


 忍び笑いが漏れた。


「無事に帰ってきてくださいね」


「ええ。お約束しましょう」


 実はペテンだった。


 別に心配されても無益なので、安請け合いしただけ。


 もっとも逆境に陥るなら……それはそれで興味深くもあり、なお自分を追い詰めるという点に於いて、クロウとイズミは欲するところだろう。


 無論、言葉にはしない物の。


「小生の強さは知っていらっしゃるでしょう?」


「そうですけど」


 胡乱げな瞳が幻視できる。


 ありありと不満が乗っていた。


「別にイズミに絆されませんから」


「本当に……?」


「先生がおりますし」


「先生」


「一度会ってみれば良いですよ。食われても責任は持てませんが」


 サラリと毒を吐く。


 中々いい根性と言えた。


「乗合馬車は大変では?」


「色んな意味で、ですね」


 実際、情欲の視線は受けた。


「さりとて脅威にはなりませんから」


 サラリとクロウは言ってのけた。


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