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セントラル国家共有都市領域06


 先述のやりとりの後、幾つかの書類を整理してクロウは正式にアイナの使用人になった。


 学院生ではなく研究室に所属するでもなく、単なるお茶くみ係。


 なお立場を明確にするためアイナはクロウにメイド服を着せたのだが、過不足無く似合っていた。


「可愛い!」


 とアイナがクロウを抱きしめたのは一度や二度ではない。


 アイナ研究室は棟ごと借り切っており、研究室と生活空間を同居させている。


 結果二人は屋根を同じくする事になる。


 クロウとしては慣れるまではアイナのお茶くみ係であった。


 ダンジョンに挑戦したいという気持ちも偽らざる本音だが、特に焦る事も無いのだ。


 色々と初めてなのだからアイナについていきセントラル魔術学院にて見聞を広めるを良しとする。


「アイナ研究室のメイドさん」


 と学院の一部では噂になっていた。


 ブラックシルクにも似た濡れ羽色のロングヘアーに、ちょっと見ない美貌を持ち合わせ、なおかつメイド服を着ていれば、青少年の性欲の的にもなる。


 クロウ自身も幾度か口説かれたがけんもほろろだ。


 想い人は既に居るし操を誓っている。


 結果としてその他の知性体を恋慕の対象とは見られない呪縛の持ち主だった。


「アイナ。チョコレートです」


 ミルクと砂糖ありありのチョコレートをクロウは魔術儀式中のアイナに差し出す。


 この世界はまだチョコレートの固形化には成功しておらず、薬用飲料として飲まれている。


「ん。ありがとうございます」


 受け取って飲むアイナ。


 机には鉱石が置いてあって、魔法陣が展開している。


 アイナはその鉱石を魔術的に加工しているのである。


「それは何でしょう?」


 とクロウが興味本位に聞く。


「感応石」


「?」


「人の意識と知性を反映して出力する特殊な金属です。ダンジョンで取れる希少な金属……まぁセントラルの名物でもありますね」


 そういう事だった。


 そしてその感応石を加工および変質させているのだという。


「何のために?」


 とはクロウの疑問だが、数日後には知れた。


「はい」


 と感応石で出来たイヤリングがアイナから渡される。


「これは……耳飾りですか?」


「ですです」


 頷くアイナ。


「付けてくだされば幸いです」


 そんな嘆願。


「はあ」


 とぼんやり唸ってクロウは耳飾りを付けた。


 対となる耳飾りをアイナが付けている。


「聞こえますかクロウ様?」


 言葉ではなく思念でアイナが語りかけてくる。


 テレパシーの一種だ。


「なるほど」


 とはクロウの言。


 要するに感応石の特性を使って何時でも何処でも意思疎通を図れるようにしたのが此度のイヤリングと云う事だ。


 クロウも魔術の心得はあるため使用に不便はきたさなかった。


「これで何時も一緒ですね」


 アイナが破顔する。


「恐縮です」


 クロウは困った顔で苦笑した。


 メイド服を着て茶を淹れる。


 時に書類を運んだり、アイナの講義を拝聴したり。


 その愛らしいご尊顔は見る者全てを魅了するが、クロウにしてみればしがらみの一種だろう。


「わたくしとお茶しませんか?」


 紳士を装って男子学生が粉を掛ける。


 クロウもオリジンという女性に操を誓っているため、ある側面では人の事を言えないがオリジン以外に体を許すつもりも毛頭無かった。


「申し訳ありません」


 と慇懃に謝絶する。


「クロウ様のメイド服姿は愛らしいですから」


 とはアイナの言だ。


 事実を捉えているためクロウとしても因果だと諦めるしかない。


「とはいえオリジン様以外にクロウ様が心を許すとも思えませんけど」


 事実その通りである。


「そろそろ研究室配属の時期ですね……」


 クロウの淹れた茶を飲みながらぼんやりとアイナが云った。


「そういえばアイナの研究室には生徒が居ませんね」


 クロウとしてもそこは疑問らしい。


「クロウ様なら諸手を挙げるのですけど」


「謹んでごめんなさい」


「まぁそう云いますよね」


 事情はともあれ思念はわかっているらしい。


「研究室に所属させたい生徒がおりませんので」


 恭しく不遜な事を言うアイナだった。


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