イース皇国の難01
イース皇国は西。
最初の街で、護衛は終了した。
報酬が渡され、ホッと一息。
何もしていないのに、Aランクの数倍の報酬が貰えるのだ。
そして、
「これでも良心的」
とイズミは言う。
本当にSランクの雇用条件は厳しい。
馬車を足代わりにしているため、妥協の余地が在り、
「単なる護衛なら商人では赤字になる」
は既述の如し。
給料を貰って、ホテルに向かう。
「国境紛争は?」
至極尤もなクロウの意見。
むしろ必定に値する疑問ではあり、『聞かざる』……となるほど放置して良い議論でもないだろう。
「イース皇国の東。共和国とのソレだ」
ちなみに今は西側。
セントラルとの国境線だ。
まず中央に皇都があり、西側がセントラルからの遺産が運ばれ、東側は共和国との国境紛争が絶えない……とのこと。
「はあ」
とクロウ。
要するに、イース皇国を突っ切る必要があったのだ。
ヒュンと鬼丸が振るわれる。
演舞だ。
仮想敵をイメージして戦う。
結果はそこそこ。
「うーん」
和刀ほど上手く行かないのは業だ。
薄緑がしっくりきすぎているとも。
「大丈夫なんですか?」
ホテルで訓練しながら念話。
「とりあえず無事ですよ」
イース皇国には入った。
こうなると付き合うしかない。
「お兄ちゃんは苦労性……」
耳が痛かった。
実際厄介事は良いお付き合いだ。
此度はソレが顕著に表れた例だろう。
一閃。
躱される。
呼吸。
息継ぎ。
剣を殺さない。
少しずつ、攻め入る。
「おお」
とイズミが驚いていた。
神速の相手を、その一段下のギアで迎え撃っているのだ。
技術だけで、速度の差を埋める。
職人だ。
それをサムライと人は呼ぶ。
「ふ」
チンと鬼丸を鞘に収める。
ホテルのチェックインはイズミが済ませた。
案の定ここでもランクが利いてくる。
基本イズミは根無し草だ。
固定資産税と縁が無い。
そのため、ギルドも最適な環境を用意する。
そのギルドで、クロウとイズミは茶を飲んでいた。
「んー」
クエストを見ながら悩むイズミ。
馬車の護衛も飽きてきたところだ。
とはいえ、足の確保は必要で。
「いっそギルドに馬車を手配して貰うか」
その程度の融通は利く。
「乗合馬車ですか」
「そんなところだな」
スッと茶を飲む。
二人揃って、幼年なので、注目も集める。
無論、虎児どころの話でもないが。
「よう」
とガラの悪い傭兵が絡んだ。
――中略。
叩き伏せた傭兵から、賃金をかっぱらう。
「授業料だ」
とはイズミ談。
実際にその側面は有った。
ギルド側は、
「自業自得」
でファイナルアンサー。
イズミに喧嘩を売る方が悪い。
「容赦在りませんね」
「キャンペーンだ」
厚顔。
無知は出血の友。
「殺さないだけ有り難く思え」
とは言うに、まず以て殺してもいいのだが、ここで手を汚してしがらみに囚われることを嫌った面もある。
「うんうん」
とギルドの職員が頷いていた。
穏やかに乗合馬車のスケジュールを提示して、状況を話す。
「皇都に行かねば」
がイズミの意見。
「東の国境では?」
クロウが首を傾げる。
「皇族に呼ばれてなぁ」
実際クエスト発注は皇族だった。




