そんなわけでこんなわけ18
「ふい……」
街でのこと……あるいはそれ以上に、根本的な生活の糧としてのことか、と思わざるを得ないこと。
馬を休める。
ホテルに泊まる。
商人には都合があった。
それがまして……護衛人の都合とも為れば、なるほどクロウやイズミには関知や認識の出来ない事ではあろう。
南無三。
傭兵らは、最低限の宿に泊まったが、
「良い湯だな」
クロウとイズミは最上級。
これもランクが活きてくる。
イズミが剣気を放つ。
受け止めるクロウ。
「こんなところでしなくとも」
「いや、これが存外……」
「存外?」
「面白くて」
「…………」
いい迷惑だ。
ソレが言えないクロウであった。
事実として、クロウもまた――ある種の肯定的な敵対者として――イズミを求めている点は、確かに有るのだ。
「国境的にはそろそろなんだがな」
「行ったことがあるので?」
「傭兵だし」
東と西は物騒だ。
セントラルのダンジョン攻略も大切だが、
「戦場の花」
とはイズミを指す。
イズミは、いるだけで在る意味、『混沌』と称される人物で、敵も味方もありはしない最上級の戦力でもある。
「いいんですけど」
サラリとクロウ。
二連撃。
打ち払う。
「商人の護衛は良いのですか?」
「他の傭兵がするだろ」
まず以て、そこまでSランクに求めると、商人としては赤字らしい。
イズミは金食い虫とのこと。
地表ギリギリの斬撃。
クロウは跳んだ。
「ま、いいんですけど」
パシャッと肩に湯を掛ける。
空中で器用に回転。
イズミの頭上へ鬼丸を振り下ろす。
打ち払い。
「手強い」
「互いにな」
忍び笑いが漏れた。
「相手方の国も傭兵を雇うのでは?」
「だろうな」
「同業者で潰し合うのも」
「そこはまぁ傭兵の業だな」
生産性がない。
その極めつけだ。
だからこそダンジョン探索が、推奨されるのだが。
そっちなら生産性がある。
「夜は何するか?」
「寝る」
「エッチな感じで?」
「無理でしょう」
形而上。
形而下。
共に。
「先生は今頃何をされてるやら」
くしゃみ一つは人の噂。
正確に、
「人です」
と言えるかは議論になろうが。
「御大は何してんだ?」
「多分小生を見ながら酒の肴に」
「スーパークロウにはならないのか?」
「その必要も無いでしょう」
「稽古を付けて欲しいんだがな」
「基本世捨て人ですので」
月を見て、花を愛で、詩を謳い、酒を飲む。
その上で不老不死と来るのだから、
「不条理の生きた見本」
は大げさでも何でも無い。
「超神速をあそこまで鮮やかに制御されたらな」
「言えてます」
クロウ当人にも無理だ。
遥か天地の差があった。
まるで、御本人が完結している様な……あるいはそれ当人にしか理解能わないような領域とでも言えるのか……。
「ふにゃ」
剣が閃く。
速度は上々。
だが勁は練っていない。
然程でもないのだ。
イズミの知らない技術である。
「よ」
「ふ」
イズミの剣を、クロウが受け取る。
「ぶっちゃけ傭兵のレベルで言えば、クロウは泥中の蓮だな」
「光栄です」
「鬼丸はもうちょっと時間が必要か」
「扱いはどうしても薄緑に分がありますし」
あくまで、
「究極的には」
と注釈が付くが。
「それでこの剣閃か?」
「問題が?」
「ま、達人は得物を選ばんか」
「然りです」
クスッとクロウは笑った。




