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金なる明星より降りし者弐29


 ナイトゴーレムと丁々発止をしながら、


「提案があるんだけど良い?」


 クロウは尋ねた。


「話すだけならタダだな」


 然りだ。


「アイナとローズを連れて逃げてください」


「クロウはどうするんだ?」


「此処で食い止めます」


「却下だ」


「しかし消耗戦ですよ」


 既に、速度の領域は、神速に到っている。


 幾らオーガの体力でも、そう長くは持つはずもない。


 全力を出し切って、なおナイトゴーレムに、刃が届かないのだ。


 魔術を切り裂く。


 剣をいなす。


 驚くほどレベルの高いモンスターだった。


「はぁ……! はぁ……!」


 段々と、イズミの剣の精度が、落ちてきている。


 それは、クロウにも、手に取れた。


 クロウの方はまだいけるが、それとて時間の問題だろう。


「後から追いますので無理せず逃げてください」


「お前を置いていけるか」


 幼女が言うのだから、救い難い。


 間断なく、金属音が響く。


 神速の領域で対峙する、クロウとナイトゴーレム。


 イズミは、既に、限界一歩手前だ。


「血路を開きます」


「俺の責任だ」


「そういうのはせめて小生より強くなってから言ってください」


 事実だ。


 が、イズミにも、意地はある。


「全員で生きて帰る。それ以外は全て却下だ」


 ゾクリ、と寒気の奔る眼光が、イズミから発せられた。


「止水」


 時が止まったかのようだ。


 ただ動いているのが、イズミだけ。


 一瞬だけ、剣の高みに到る技術。


 止水。


 あるいは死水とも。


 ナイトゴーレムの、手首の先から伸びている剣を、断ちきる。


「……っ!」


 さすがに驚くクロウ。


 超神速。


 刹那であれど、その領域に到ったのだから。


「がはっ!」


 喀血するイズミだった。


 オーガの体を持ってさえ、負担の大きい御業だ。


 当然の因果ではある。


「良くやりました」


 そして、さらにギアを上げるクロウ。


「もう無理」


 イズミは、大の字に寝転んだ。


 片手になったナイトゴーレムの剣と、クロウの御ニューが、激突する。


 優性は、ナイトゴーレムの方だった。


 元がゴーレム。


 体力は底無しだ。


 対するクロウは、神速を維持し続けているために、少しずつ剣の精度が落ちてきている。


 じり貧。


 その様に、言ってよかった。


 丁々発止。


 丁々発止。


「くっ」


「――――」


 人智を越えた、超速の戦い。


 もはや、アイナとローズには、理解不能だ。


 クロウは、思念で語りかける。


「イズミを回収してこのフロアから逃げてください!」


「でも……!」


「お兄ちゃん……!」


「正味な話、あと数刻保ちません」


 リアルな現状だった。


 このままでは、全員死ぬ。


 少なくとも、ボスフロアに留まり続ければ。


 クロウをして、決定打を与えられないというのは、もはやSクラスですらないだろう。


 クロウがSランク相応の剣士としても、その上をナイトゴーレムは行っている。


「とりあえずイズミを回復させます」


 位置をずらして、ナイトゴーレムを引き離す。


 アイナとローズがイズミを回収し、アイナの治癒魔術で、イズミを回復させる。


「元気が出たら逃げてくださいね」


「断る」


 とはいうものの、他に手段は無いわけで。


「何がお前を其処までさせる!」


「大切な人を守るために死ねるなら……これ以上はありませんよ」


 あるいは、それこそがクロウの真にして魂かもしれなかった。




――正義の味方――




 その言葉は知らなくとも、クロウの標榜だ。


 他者のために、剣を振るう。


 栄誉も見返りも必要ない。


 単に、大事な人が守れれば、ソレで良い。


 クロウにとって、剣を振るうというのは、そういうことだった。


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