金なる明星より降りし者弐17
「南無三」
なんのことか、といえば、ランク試験だ。
「あまり大仰にしないように」
とは言う物の、
「幼い少女がSランク評価」
は、セントラルを、激震として伝播させた。
「アイナ研究室は化け物か」
とは今更な評価だが。
「教授の血を貰ったんじゃねえの」
とも噂された。
噂も何も事実だが、黙秘権は、この際、矛だ。
単純に、才能だけで、ヴィスコンティでも過去最高レベルの地金に、デミエルフとしての昇華も加わって、
「手がつけられない」
の状況となった。
ギルドも動き、
「Sランク冒険者として優遇します」
と言ってきたが、
「遠慮します……」
とけんもほろろ。
兄であるクロウは、ほんと~~~~~~うに今更ながら、栄光や名誉を嫌うので、
「単なるバイトのお茶くみ係」
と自称している。
セントラルの全容を把握しているわけでもないので、アイナが導き手でもある。
最難関ダンジョンを、無傷で攻略する度に、噂が突拍子もなくなっていくが、
「あまり気になさらないでください」
とは当人の談。
「実際に実力は怪しい」
とは一部の声。
ギルドマスターとの決闘を見ていない冒険者にしてみれば、義暗にかられるのも、いっそ順当だろう。
何しろ、喧嘩を振っても応じないのだ。
ソレ自体が、法度になっていることもあって、
「後衛が強いだけでは?」
も一部の評価。
特に、騎士としての矜持が強い人間ほど、その意見を支持する傾向にある。
閑話休題。
そんなわけで、ローズのSランク相応は、セントラルで共有されることとなり、悪しなり良しなり、干渉を受けた。
あるいはギルド的。
あるいは政治的。
あるいは学院的。
アイナ研究室の門前市は、日に日に度合いを増していく。
アイナの精査する書類も増え、
「はぁ。お茶が美味しいですねぇ」
「だよ……」
兄妹は、研究室で、お茶を嗜んでいた。
クロウの男の娘メイド服姿は、紅の美少女ローズに負けないほど愛らしい。
その研究室で、仕事をしているアイナ。
それから、天翔の魔術を会得しようとしているイズミ。
外から、研究室の扉をガリガリ引っ掻いている、セントラル魔術学院の生徒一同。
「平和ですね」
――何処がだ。
そうツッコむ輩はいない。
とはいえ状況は整った。
クロウ。
アイナ。
イズミ。
加えてローズ。
全員が公式あるいは非公式に、Sランクの実力者だ。
クロウとイズミが前衛。
アイナとローズが後衛。
バランスの取れた戦力であるため、Sクラスのダンジョンに挑戦するつもりだった。
当然Sクラスのダンジョンともなれば、
「人間には攻略不可能」
とも言われているため、クエストは存在しない。
無理クラス。
そんな別称を持つダンジョンだ。
攻略要素が、
「そもそも人間の臨界点を超えている」
と言われている。
月の光が届かないのに、どういうわけか、ルナウルフやルナベアーが出る、とも言われ、
「ははぁ」
と、興味深げなクロウだった。
茶を一口。
一応、数少ないとは言え、Sランクの冒険者も存在しないわけではない。
少ないながら、ギルドの保有するダンジョンの情報は、手に入れているため、色々と思惑の余地はあった。
「なぁ。本当にどうやるんだ?」
これはイズミ。
『宙を蹴る』というのが、イメージとして固まらないらしい。
こればっかりは、伝えるのが難しい。
Sクラスのダンジョンの資料を読みながら、
「日々修行」
と切って捨てる。
クロウの場合は、まず鞍馬山の樹々を蹴って、縦横無尽に駆け巡るところから始めたわけだが、異世界のセントラルには、樹林の類は少ない。
全く無いわけではないが、少し遠いのだ。
あるいは義経……転生したクロウが、鬼ヶ山で、そうしたように、其処を使えば良いのかも知れないが、今はまずSクラスのダンジョンへの挑戦が第一義。
とはいえ、アイナの仕事に一区切り付いてから、と相成るが。




