金なる明星より降りし者弐08
「宙を蹴る感覚と言われもな……」
イズミは、アイナ研究室で、クロウから天翔を習っていた。
基本的に、剣を振るう場が違うのだ。
クロウ……遮那王は、山で樹々を駆けながら、剣を振るう……天狗の剣法。
であればその体験のないイズミ……上泉信綱には難しい。
そんなこんなをしていると、
「うーがー!」
アイナが、吠えた。
ローズは講義に出ている。
「何か?」
「ついに狂ったか?」
クロウとイズミが問う。
「うちは便利屋じゃありませんよ!」
そういうことだった。
クロウにしろアイナにしろイズミにしろ、Sランク相当の戦力だ。
当然、
「ダンジョンを攻略して欲しい」
との旨が、直接依頼として、やってくる。
「あー……」
なるほど。
頷くクロウだった。
ゴミ箱代わりの一斗缶に、書類を放り込んで、魔術で燃やす。
「いいんですか?」
「いいんです!」
良くはないが、クロウにも気持ちは分かる。
クロウと直接交渉が出来ない場において、アイナに負担のしわ寄せが行くのも、不思議なことではない。
「そういうイズミは依頼とか来ないのでしょうか?」
「ばんばん来てるぞ?」
ちなみに、ホテル住まい、と云うことになっている。
昨今は、アイナ研究室の客分として入り浸っているが、書類上はギルドの用意したホテルに滞在中……とある。
そのホテルに、イズミへの要請が、ドカドカ届いているらしい。
本人は、
「まぁ別に」
で済ませていたりして。
「いいんですか?」
「いいだろ。別に」
「傭兵稼業とか……」
「俺一人いなくても戦局は変わらんよ」
変わるのだが、そこまではクロウも察してやれない。
「お疲れ様です……」
ローズだ。
講義が終わったらしい。
声には、疲労が滲んでいた。
「お疲れ様です」
ニコリと笑うクロウ。
「お茶を淹れましょうか」
「その前に……」
ローズは、クロウを、ムギュッ、と、抱きしめた。
「お兄ちゃん……」
腕の中の兄を、想っているらしい。
「愛されてるな」
「愛しい妹ですから」
御大に頼んでまで、救った命だ。
とても貴重で、大切な物。
しばし時を置く。
「はい。お茶です」
ローズに、紅茶を振る舞うクロウ。
Sランク相当の騎士でありながら、メイドまで達者となれば、
「何やってんのか」
がイズミの本音だった。
一応クロウは、バイトの身分だ。
背中に負う物は、日に日に肥大化していくが、根幹としてメイド稼業が先にある。
――それもどうだろう?
とりあえずは、天翔の修得に、精を出すイズミであった。
「あう……」
ローズは、紅茶を一口。
「…………」
アイナは、論文を書いている。
「ふむ」
茶をしばきながら、ふと思うクロウ。
「アイナ」
「何でしょう?」
念話だ。
「このメンツなら以前言っていた無理クラス……Sクラスのダンジョンもいけるのでは?」
「否定はしませんよ」
前衛二人に後衛二人。
バランスも丁度良い。
「ただアイナが結果を残していないので……」
「ふむ」
思案するクロウ。
「ローズ」
とアイナが、ローズを呼んだ。
「何でしょう……?」
「ランク試験を受けてください」
「いいん……ですか……?」
オドオドとローズ。
「構いませんよ」
アイナは、破顔した。
色々と思惑の透ける声で。




