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金なる明星より降りし者弐04


 決闘当時。


 クロウとイズミが、相対していた。


 円形のコロシアム。


 客は満杯。


 王侯貴族も観戦している。


「下手なことは出来ませんね」


 苦難如何ばかりか。


 特別プレッシャーを覚えるでもないとしても。


 長い黒髪は、シュシュでポニーテールに。


 何時もの勝負服たる狩衣姿。


 手にも腰にも……剣はない。


「素手か?」


 と観客たちは思案していた。


 事実その通り。


 無刀ではある。


 それが、


「剣を握っていない」


 には繋がらないが。


 剣気は充溢。


 今のクロウなら人体くらいは切り裂ける。


「刀を持つばかりが剣ではない」


 その術理に則るならば。


「少し心配だったが十全だな」


 相対するイズミがヒマワリの様に笑った。


「ですか」


 クロウの言葉は端的だ。


 すでにイメージが先行している。


 会話はするが、気持ち的には明鏡止水だ。


 凪の如き精神。


 何にも揺さぶられない心の有り様。


「集中しているようで何より」


 イズミは、嬉しそうだった。


 衣服は作業着。


 血に濡れても良いような服装。


 血は流れるだろう。


「どちらが?」


 かは、まだ結果でしか語れない。


「…………」


 コンセントレーション過多。


「っ」


 その黒瞳は、イズミをゾクリとさせる。


 殺気……とはまた違う。


 武威。


 あるいは重圧か。


「不気味な」


 との、イズミの感想も、自然だろう。


 クロウは、然程気にしていないが。


 視線で会話した後、


「では離れて」


 審判が言う。


「…………」


 クロウは、ホケーッとしていた。


 イズミは、剣を振って、調子を確かめる。


「大丈夫でしょうか?」


 審判が問う。


「はあ」


「まあ」


 ぼんやりと二人。


「では始めます」


 その言葉に、


「――――」


 ワッと歓声が襲った。


「互いの尊厳を賭け……!」


 興奮のるつぼ。


「始め!」


 試合開始の合図。


 同時に、ゾクリと、イズミに濃霧が襲った。


 濃霧。


 イメージの残骸だ。


 反射的に、剣で斬って捨てる。


 そこにクロウは居ない。


 開始位置だ。


 単なるプレッシャーで、イズミに剣を抜かせるクロウだった。


 当然、観客たちは、理解していない。


 先の一瞬のやりとりを。


「さすが」


 鍵盤を叩くような、イズミの感心。


 面白がっているらしい。


「さて」


 イズミの武威が、跳ね上がる。


「こちらも行きますかね」


 心底嬉しそうだ。


 まるで、聖誕祭に、欲しかった玩具をプレゼントされた子どものよう。


 誰と戦っても、満たされない。


 その思いが、今、晴れる。


 相手は、剣に名高き源義経。


 相手にとって不足は無かった。


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