金なる明星より降りし者弐03
決闘当日。
「…………」
クロウは、ホケーッと茶を飲んでいた。
午前中だ。
死合いは午後からである。
特別だらけているわけではない。
精神を無の境地に追いやるに、茶を飲むのが、適切なだけだ。
アイナとローズは心配してくるから、一人で茶を飲んだ方がマシと言った具合。
イズミはイズミで別行動。
今更訓練もなかろうが、それにしてもと言ったところ。
ヒュンと刀を振る。
イメージだ。
理想は御大。
現実では、ひたすら遠い目標だ。
鬼の血が馴染んでいるのに、それですら届かない領域。
何を食べれば、そうなるのか。
クロウの思慮の埒外だ。
イメージの御大と、剣を重ねる。
腰。
十字に剣を抑える。
其処から滑るように斬撃。
躱される。
更に斬撃。
もう一度。
全て切り払われる。
「不条理ですね」
茶を飲みながら苦笑した。
本当に、
「イメージの御大にさえ敵わない」
のだ。
「現実の御大如何ばかりか?」
途方も無いとはこのことだろう。
「ま、いいんですけどね」
茶を飲む。
クロウの、お気に入りの店の一つだ。
時折、茶葉を買って帰る。
今日は関係ないとしても。
「クロウ様?」
「お兄ちゃん……」
念話が聞こえてきた。
「そうなりますよね」
とクロウ。
嫌ならイヤリングを外せば良いのだが、
「それもどうかと」
と憂慮する辺り、クロウは人が良い。
「大丈夫ですか?」
「あう……」
「特に気後れはしておりませんが」
事実だ。
あえて重荷に感じるとすれば、この決闘に名誉が付くことくらいか。
勝っても負けても。
既に斬り合った身だ。
手加減すれば、即座にバレる。
仮に逆なら、クロウも気付くだろう。
「本当に大丈夫なんですか?」
「小生の実力は知っているでしょう?」
「ええ」
肯定が返ってくる。
「イズミの実力もですね」
皮肉と一緒に。
「お兄ちゃんは……」
「何でしょう?」
「剣を使わないの……?」
「ですね」
正確にはフェアじゃないだけだ。
ある種の全力という意味では、アンチマジックも一種の鬼札となる。
であれば是を想定しないのは、天に対する冒涜だ。
「大丈夫……?」
「何度も言いますが大丈夫です」
「あう……」
「他に何か?」
「薄緑は……売ってないの……?」
「あれば万歳でしょうけど」
「そもそも」
とはアイナ。
「何処の武器です」
「企業秘密です」
他に言い様もない。
少し声が尖った。
「む……?」
そこにローズが、気付いたらしい。
「お兄ちゃんは……何を……?」
「本で読んで知っただけですよ」
大嘘をぶっこく。
京八流。
日本最古の剣術。
そう言えれば、負担も減るはずでは、あったが。




