Ⅷ
「ふあぁ。おはよう、オーリ」
「おはよう。ちゃんと寝れたか?」
「うん。身体が楽になったよ」
あの後ネオがエネルギー切れを起こしたので、送電中に俺らも寝ることにした。
鳥たちの賑やかな囀りで目覚めた頃には、すでに日が昇っていた。
「おはよう、ニコル!」
「おはよう、ネオ。元気そうだね」
「うん! 元気いっぱい!!」
「そっか。エネルギーを使い果たさないようにね」
「はーい」
そんなやり取りをしている二人は、まるで兄妹かの様だ。
ニコルが面倒見がいいのか、または、ネオが見た目より幼いのか。おそらくその両方だろう。
この国に来てからこういう日常のやりとりを見なかったから、とても新鮮な気分になる。
ネオが特別人間に近いだけかもしれないが、機械と人間でも交友関係は成り立つのかもしれない。
(その人間臭さが、ネオが処分されかけた理由だったりしてな)
機械達は、ネオの様な機械を感じさせないものが嫌なのだろうか。
あくまで憶測にすぎないが、命令に忠実ではない機械を廃棄しているのかもしれない。
まあ、それもデータベースに接続すればわかるはずだ。
「よし、データベースに繋いでみるか」
「その前に朝食にしようよ。パンと水があるはずだから」
「おお、朝食があるのはいいな。そういや、ニコルはどうやって食いつないでい
たんだ? 街に食べれるものなんてなかっただろ」
「事件が起こって一週間ぐらいだったけど、朝にパンを焼いてた人が居るんだ。機
械化した今でも焼いてるから、そこから拝借してるよ」
「まじか。非常食しか見つけられなかったのに」
「ちょっと外れた所にあるしね。パン屋、見なかったでしょ?」
「……確かに見てないな。あらかた探索したつもりだったんだけど甘かったか」
「あそこ、夜は電気ついてないし廃屋だと思うよね。僕は元の人間を知っているか
ら機械の行動はある程度把握出来るけど」
「なるほどな。この国を知ってるからこそか」
確かに、この国に詳しいニコルなら普通にやりくりできそうだ。
食品のみならず、例えば”ネオに接続していた機械も何処かから持ってきた”と言われても納得してしまう。
「ねえまだー?」
「ちょっと待てって」
「むー……なんでそんなかかるかなぁ」
「お前だって夜中寝っぱなしだっただろが」
「オーリ達も寝てたじゃない。私はそれで十分だもん」
「そりゃ機械はな。人間はちょいちょい休まないと駄目なんだよ」
「その時間がもったいないと思うんだけどな」
「人間は精神的にも休息を取らないと大変なんだよ。ネオには難しいことかもしれ
ないけど」
「うーん……よくわかんない」
確かに、機械にとっては無意味な事だと思っても仕方がないのかもしれない。
しかし、ニコルの言った通りだ。休まずに動き続ける人間は、そのうち精神が壊れ始める。
そうならない為に休息が必要なのだ。不確かな感情ではあるが、それが要らないものと切り離すことは出来ない。
そういう感情の有無が、機械と人間の明確な違いなんだろう。
(ネオも人間らしい行動をするが、根本的には機械なんだな)
さっきのやり取りで機械らしい所が少し垣間見えた気がする。
ネオの事を別段知ってるわけではないが、機械らしい思考を持っているのが驚きだった。
彼女はとても人間に近かったから。それでも、やはり機械だと認識させられた。
(まあ、機械だからって彼女を無下には扱わないけどな)
そんな彼女の事もわかればいいな、と思いつつパンを食べ始めた。