Ⅶ
「それで機械をもらったって……どう考えても怪しいよね、それ」
「……他の機械は居なかったし、しょうがないだろ」
ニコルの家(でいいのだろうか?)に戻り、事情を話したら疑いの目で見られた。
それが普通の反応だと思うし、俺だってあいつ……マキナの事を信じている訳ではない。
「まあ、他の機械が居なかったというのは引っかかるけども。この子を回収できただけよかったのかな」
「処分予定とは言ってたが、解析できそうか?」
「うん。大丈夫だと思うよ」
ニコルが指示した場所へ機械を寝かせる。その機械に流れる動作で機材を付けていった。
そんなニコルの邪魔をしても悪いと思い、別の部屋で待つことにする。
それにしても、処分する理由は何だったんだろうか。
所々汚れてはいたが、廃棄される程だとは思えない。
単に寿命が訪れたのだろうか。それか、廃棄せざる負えなかったのか。
『わっ!!』
「どうした!?」
ニコルが作業していた部屋へ駆け寄る。ニコルは尻もちをついていた。
辺りの機材も乱雑になっているし、肝心の機械が居ない。
やはり罠だったのか? 機械に逃げられたとなると相当まずい。折角の手がかりが消えてしまう。
いや、まずはニコルの無事を確認か。と考えた瞬間だった。
『つかまえた~!』
「え……?」
『あれ、さっきの人とはまた別の人だ』
背中に何かが乗っかかる。持ってきた機械と同じぐらいの重さだ。
と言うより、機械そのものだ。向こうに敵意は無いらしい。
「重い。降りてくれ」
「えー!」
「降りろ」
「ぶーぶー」
いかにも渋々といった感じだが、言うことは聞くらしい。おとなしく背中から降りていった。
よくよく見てみると、スレンダーな身体にくりっとした瞳。小さめの可愛らしい口唇に、肩まで伸びてる青色のポニーテール。
動いてると活発的な、明るい印象を感じさせる機械だ。
……しかし、俺の事が見えているとなると、こいつも特殊な機械なのか?
なら何故処分されたのだろう。何らかの役割を持っているなら捨てられることは無いはずだ。
「壊れてるもんだと思ったけど、ピンピンしてるな」
「動くためのエネルギーが無かっただけだもん」
「エネルギーか。機械も動く為に必要なんだな」
「動くのに何もいらずなんてことはないからねー。機械にも必要なものはあるのです」
「街に機械が居なかったのはそういうことか」
「そうなんじゃないかな。私はよくわからないけど」
「……お前、どうして処分されそうになったんだ?」
「んー。よくわからない」
「わからないって……」
「目が覚めたら廃棄だって……それで捨てられたの」
目が覚めたら廃棄と言うことは、意図的に作られたわけじゃないのか?
そうだとすると、一体誰が何のために作ったんだ。
「いてて……飛び出すとは思わなかったよ」
「ニコル、大丈夫だったか?」
「大丈夫だよ。びっくりしたけどね」
やれやれ、といった感じで乱れた機材をまとめるニコル。
怪我とかは特にない様で、一先ず安心した。
「えーっと、ごめんね。電源が入ったからつい」
「安直に繋げた僕も悪かったから気にしないで」
「うー……」
「大丈夫だから。それより、まるで感情を持ってるようだけど、作ったのは誰?」
「……あれ、おかしいな。思い出せない」
「思い出せない?」
「うん。機械なのになんでだろう。捨てられた事しかわからないや」
機械がしゅんと俯いてしまった。その仕草が怒られた子犬を連想させる。
目が覚めたら何も思い出せないというのは、機械も辛いのだろう。
「この子を渡したやつが処分予定って言ってたなら、メモリを消されたのかな」
「廃棄予定なのにそんな事するのか?」
「普通ならしないね。そもそも、廃棄というのが珍しいんだ。
大抵の物は部品を変える事で長続きするし、致命的な壊れ方をしても使える部分は流用出来るからね。
一機丸々捨てるなんて機械達が行うとは思えない」
「つまり、この子は奴らにとって都合が悪い存在ってことか」
「私は作られたのに、捨てられちゃう事しちゃったのかな……」
「何をしたのかはわからないけど、大事なのは今だよ。これからを楽しめばいいじゃないか」
「そうだぜ。過去に何があっても、生きてるならいくらでもやり直せる」
そう、生きてる限り何度でもいいことは訪れるんだ。
過去に捕らわれてもいいことなんてない。シノも、それをわかってくれてればいいんだが……。
「ありがとう。えっと……」
「僕はニコル」
「オーリだ」
「ニコルにオーリね。ありがとう! 私は……」
「ああそっか。記憶がないってことは名前もわからないんだ」
「なら、ニコルが名付けてやれば?」
「え、僕?」
「私も、ニコルに付けてほしいな」
機械にも頼まれ腕組みをするニコル。
折角の名前だし、よく考えているのだろう。ニコルにとっても機械は大事なものだろうからな。
「うーん……”ネオ”っていうのはどうかな?」
「新しいもの、か。いいんじゃないか」
「新しいもの……ネオ。素敵な名前だね!」
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