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汝、眼前の純白を愛せよ  作者: 狼子 由
第三章 Gotta Be You
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4 【いつか】の崩壊

 誰よりも信じていた友がいた。

 距離を越え、種族の垣根を越え、共に歩めると信じていた。


 誰よりも愛していた、恋人がいた。

 時を越え、文化の差を越えて、共にあることを愛していた。


 そして、誰よりも――当てにしていた部下が、いた。

 黒衣を纏って傍へ侍る男。

 真夜中の闇に潜む者。


 捧げると、言った。

 その心を、愛を、命を。

 だからこそ、私もまた彼らに応えたのだ。


 永久を生きる魔王の、その力の源を。

 他に誰も知らぬ、その在りかを。


 ならば、その力が止まる時は、いずれかが裏切った時であろう。

 そして、いずれが裏切ったとしても、残る二人はきっと私と手を携え、裏切り者を誅すであろう。

 私を中心に、固く結ばれた正三角形。

 どの一点も欠かせず求められる関係。


 だから――これは、違う。

 止まる訳はない。ないのだ。

 神の与えし宝玉。

 魔の王にのみ下されし大いなる時の欠片。

 神の羽根。


 その羽根の、真っ二つに折れた音が響いた。

 私に流れ込む永久を支える力が、軋んで動かなくなっていく。

 パラパラと零れ落ちた留め具が散らばる。

 そして今――崩壊を告げる、甲高い金属音が――



●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●



 目が覚めた。

 頭の中でぐわんぐわん響いてたような気がする。


 起き上がって周りを見回したけれど、とりあえず音の出るようなものはなかった。

 どちらかと言うと、誰もいなくて静か過ぎるくらい。

 えらく狭い石壁の部屋だ。じめじめするし妙に暗い。よく見たら、灯りとりの窓が上の方に小さくついてるだけで、風がほとんど通ってこない。

 気温はそこそこあるから寒くはないけれど。

 壁の隅に一つだけ、小さな木の扉があったが、予想通り鍵がかかっていて開きはしなかった。


「……捕まった、のか」


 思い出せば、追っかけてきた(偽)正規兵に変な光線銃で撃たれたんだった。

 撃たれたにしては、どこもケガもしていない。身体を確かめながら思い出してみるけれど、当たった瞬間に突然くらりときた。

 意識とか、脳波に作用する何かなのだろうか。

 そんな変なもの、ゲームの中――つまり千年前にはなかったと思う。

 千年の間にできたのか、それとも。


 どちらにせよ、アルセイスに直接は当たってなかったはずだ。

 ここにアルがいないということは、一人で逃げてくれたのか。もしかしたら、別の場所に捕まってるのかもしれないけど……。

 アルだったらどっちもありそうだ、と思う。

 絶対こっちだ、って言えるほどにはまだ、あいつのことよく分からない。


 まあ、だけど……『逃げた』が7で、『捕まってる』が3くらいかな、とは思う。

 どっちかと言うと、逃げてくれてそうな気がしてる。

 何てっか、あの人、現実的なタイプなんだよ。殉死とかあんま選びそうにない。

 希望的観測込みでそんなことを想像しつつ、オレも逃げる方法を探すことにした。


 この部屋にあるものは、床に転がってる薄っぺらくて汚い布。

 あと何かあんまり近づきたくない汚い桶。

 扉。窓。終了!

 何だこれ、どうしろっていうんだよ。

 脱出ゲームだったら詰んでるわ。


 あれか? 布を裂いて繋いで縄にするとかか?

 そんな強度あるように見えないんだけど。

 まあ……そもそも、脱出ゲームじゃないからな、これ。


 幸いにして、オレには魔術が使えるのだ。

 転移魔術でばびゅんっと……は、魔族にしか使えないんで却下。

 空を飛ぶ魔術はフェアリーにしか使えないんでこれも却下。

 誰でも使えるものだと、飛ぶ――まではいかない、微妙に浮かぶっていう魔術がある。

 あれだ、毒の沼を避けたり、湖の上を島まで渡ったりするのに使うヤツ。


 しかし、ちょっと浮かんだくらいで、あの窓、手が届くかなぁ。だいぶ高いとこにあるんだけど。

 ため息をついたところで、丁度良く扉が開いた。

 扉の向こうから姿を現したのは、例の偽正規兵の鎧を着た男だった。


「……ちっ起きてんじゃねぇか。来い」


 無造作に近づいてきて、ぐっと服の襟元を掴まれた。


「うあっ!?」

「てめぇの連れてたエルフのせいで、大損害だ! こんなクソガキ1人じゃ補填にもなりゃしねぇが、おい」

「な、何だよ……!」

「てめぇがもしも、人族に擬態したエルフなら、多少はマシだ」

「擬態?」


 聞いてる間にも、襟を引きずられるように小部屋を連れ出され、暗い廊下を無理やり進まされる。


「なっ……お前ら、やっぱりアルセイスの言う通り、エルフ狩りなんてしてたのかよ!」

「てめぇあの状況で仲間の言うことも信じてなかったのか?」

「や、信じてなかったワケじゃ……ない、けど……」


 圧倒されてた、っていうのはあるかも知れない。

 本当かどうか納得しない内に、何もかんも進んでっちゃう。

 オレはまだ、何も選んでないのに。

 自分で選んだことと言ったら、ぱんつ作ることと、アルを守ることだけだ。


「ま、もしてめぇが擬態人族なんだとしたら、先に言っとくがひでぇ目にあうぞ。てめぇの仲間はおれらの仲間を3人も殺しやがった」

「3人……」


 倒れる前に俺が覚えてるよりも1人多い。

 それに、オレ(・・)がひどい目にあうのだとしたらそれは、アルがここにいないからだ。

 脅されてるのにほっとしたオレを見て、兵士は自分の発言のまずさに気付いたらしい。

 それ以上は何も言わず、ただ目的地までオレを引いていった。


 辿り着いた少し開けた場所には、他にも兵士が待っていた。

 どうもここは、砦の中らしい。壁はずっと石造りで、あちこちに武器が積んである。

 もしかして、数日前に避けた関所なのか。

 いや、そんなに長いこと気を失ってたら、さすがに身体ももっとくたびれてるだろう。

 だから、多分、アルと別れた場所からそんなに離れてないんだと思う。


「お、連れてきたか」

「おまえはどっちに賭けるよ」

「そりゃ、エルフの方だろ。そっちのが楽しめる。あいつら、男でも女でも無駄に顔だけはおキレイだからな」

「おい、人族の方に賭ければ一人勝ちだぞ」


 野卑で耳障りな笑い声が周囲で上がる。

 こっちを見る目付きの危なさで、ようやくオレが何を期待されてるのか理解した。

 いや、状況は理解したけど、感情的には理解したくない。

 何だよ、ちょ、やめろよ! こっち見んな!


 兵士達の真ん中に押し出され、泣きそうになりながら彼らを睨みつけた。


「お、オレをどうするつもりだよ、あんたら!?」

「まずはその擬装をひっぺがしてやる。エルフは魔術なんぞ使うからな。あとは、気が済むまで遊んだら、予定通りに売っ払ってやるよ」

「擬装をはがすってどうやって!?」

「こうやってだよ。人族の英知を思い知れ!」


 壁際の兵士が手元に突き出ていたレバーを引いた。

 がこん、という音とともに天井からシャワーのように液体が降ってくる。


「うわっ……!」


 避けようとしたけれど、降ってる場所が広範囲過ぎて避け損ねた。

 ばしばしと身体に当たるのは水――よりももっと粘度の高い何かだ。


「はははははっ! それはなぁ、人族が開発したエルフの魔術消しの道具さ。それに当たれば、魔術がかかってるものは皆きれいさっぱり掻き消えて……」


 高いとこから降ってくるので、当たると微妙に痛い。

 あと、ねっとりと肌に張り付く感じがするけど、思い切り手を振り切ると遠心力で落ちる。

 だから、とりあえずはそれだけのことだった。

 元から人間でしかないオレには、特に何が効くというワケでも――あっ!?


 見た目上、何も変わらないオレを、兵士達は何だか失望した表情で眺めている。

 え、エルフじゃなくて悪かったな! いや、オレとしては良かったんだけど!

 いやいやいやいや、それよりも――これ、くらうとぱんつ溶けるんだけど、どういうこと!?

 下穿ホーズの下に穿いてる手製のぱんつが、硫酸攻撃でも受けたように、足を伝って溶けていってる。

 やっぱこのぱんつって、何か魔術が絡んでんだろうか……?


 とりあえず、一個だけ言うなら。

 ノーパンでむさい男たちに囲まれてる今の状況は、割と地獄に近い。

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