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汝、眼前の純白を愛せよ  作者: 狼子 由
第二章 Change Your Ticket
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3 ルシアちゃんのお裁縫教室1

注)指ぬき(シンブル)の使い方は様々ありますので、個人的には使いやすい方法で使うのが良いと思います。

 並んで座るアルとオレの前に、1本ずつ置かれた縫い針。そして、何だかよく分からない2〜3cmくらいの金属のカバーみたいなもの。形はコップのようにも見える。こんな小さなコップはないだろうけど。

 ルシアが指先でつまんで、オレ達の方に視線を向けた。


「はい、注目。これ、なーんだ」

「知らん」

「えっと……ごめん、知らない」


 さすがにアルセイスほど即答するのもどうかとは思うけど、結局は知らないことに変わりない。悩んだ結果、アルと同じ答えを返すオレを見ても、ルシアはさして表情を変えなかった。まあ、大体予測通りなのだろう。


「これね、指ぬきって言って、針が指に当たっても痛くないようにするための道具」

「……指につけるのか」


 言いながらアルは、「指ぬき」を摘んで左手の人差し指に被せてみせた。

 ルシアの顔色をうかがうと、大きく頷いている。慌ててオレもつけてみた。やっぱぐらぐらして変な感じ。すぽっと抜けそうになるし。


 ……待て。そう言えば「指ぬき」って昔、家庭科の授業で習ったような。

 あっでも、そのときはゴム製の指輪みたいな形のヤツと、指輪の一部が盾のように広がったみたいな形のヤツだったような! 特に使い方を指示された覚えもないし、使わなきゃダメとも言われなかった。アレつけてる方が布が掴みにくいから、結局オレは使わなかったんだけど……今思うと、この小コップよりは指輪の方が楽そうに思える。少なくとも、縫いながら落としたりはしなさそうだし。アレはこの世界にはないのかなぁ……。


「うん、じゃあちょっと右手で針持ってみて」


 ルシアに言われた通り、親指と人差し指で針を摘む。持ち方はこれで良いのかどうも自信が持てない。ただし、手のひらの中に握り込んでしまってるアルよりはマシだと思う。それ、どうやって布に通す気だ。


「あ、そうそう。レイヤくん良いわよ。アルは手のひら開いて」

「落ちそう」

「落とさないようにしっかり指で持って」

「落とした」

「落とすな!」


 落としたらしい。床にしゃがみ込んで落とした針を探し始めたアルをよそに、ルシアがそっとオレの右手を取り、中指にさっきの「指ぬき」をもう1つはめてきた。


「アホはほっといてレイヤくんは、先に進みましょう。針のおしりは、こっちの右手の指ぬきにあてて押してね。慣れたら、固い布でもすいすい縫えるようになるから」


 言われたことは分かったけれど、ルシアの手が離れた瞬間に、右手の指ぬきが落っこちる。何せ、曲げたままの右手の中指の先が下を向いているのだ。落ちるに決まってる。


「ほらほら、落とさないで」

「いや、でも……」

「ほら、また。拾って、つけて。手のひらで軽く支えて」

「や、これちょっと難し……あっ」

「落としちゃダメだって」

「……ごめん、ルシア」

「えっ?」

「針も落とした」

「落とすな!」


 アルと2人床にしゃがみ込み、指で木板の溝をなぞるようにして、落とした針を探すのだった。



●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●



「……どう、慣れた?」

「飽きた」

「う、うーん……最初よりはうまくなった……と思うけど」


 糸の通していない針を、延々と左手に掴んだガーゼに通し続ける練習を繰り返すこと1時間。なんとなく指ぬきの使い方にも慣れたような……まあ、5分に1回指ぬきを、15分に1回針を落としているんだけど。最初の教訓で、机の上に頭を乗り出すようにして縫っているので、落としたとしても床は探さなくて良くなったのが成長と言えば成長か。縫ってるより針を探してる方が長いアルよりはマシだ。


「……ぎこちないけど……まあ、これ以上の自主練は自分でやってもらうとして……次の段階にいきましょか」

「次の段階があるのか……」


 うんざりした表情のアルの気持ちは分からないでもないが、ここで終わりなワケがないのも分かって欲しい。

 それぞれに糸巻きを渡された。黒い糸は白糸より見えやすいのがありがたい。


「さ、次は、いよいよ針に糸を通すわよ」

「ふーん」

「おう……」

「はい、糸を右手に、針を左手に構えて」


 きた……! これだ。これが難しいんだよ。

 どきどきしながら、目線まで糸と針を持ち上げて構える。


「じゃ、詠唱を」

「ああ」

「……え?」

「【爪先の縁辿り 蔓草に導け光 ――繋糸(スリーダー)】」

「……【繋糸(スリーダー)】」

「えっ!?」


 しゅぱん、と歯切れの良い音とともに、ルシアとアルの指先には糸の通った針が残っていた。

 ……糸通しの魔術なんて、あるの?


「待って、待って待って」

「なーに、レイヤくん」

「魔術で糸が通るの!? 何でそんな魔術あるの?」

「何でって……昔から伝わってるから知らないけど」

「あったら便利だからだろ」


 2人とも「何を当たり前のことでびっくりしてるのか」みたいな顔してる。

 いや、たしかに便利だけれども! 一番最初に斎藤さん――淫魔シトーと一緒にぱんつ作ったときは、糸通しにめちゃくちゃ時間かかったけども! 何だよそれ、便利だからってそんな……あっ!?


「もしかして」


 オレは恐る恐る2人に向けて尋ねる。


「……この後の縫う工程とかも、そんな魔術あったりなんかしたりして……」

「縫う工程? 針を動かす魔術ってことか?」


 オレの質問にアルが眉をひそめて尋ね返した。ルシアも同じような表情で答える。


「そんなのある訳ないじゃない、どれだけ疲れると思ってるの」

「疲れる?」

「だって、針を動かしてる間中間力を使わなきゃいけないのよ。魔力消費と制御で、考えるだにめちゃくちゃ疲れるよ」

「そ、そういうもん……なの?」


 今度こそ、アルとルシアが揃って頷いた。

 どうやらこれも、この世界の常識らしい。魔術っていうのも、何でもかんでも出来るわけじゃないようだ。細かい作業を永続的に続けるのが疲れる……ってことなのだろうか。よくわかんないけど。


「ま、そういうワケだから早く糸通してくれる?」

「あ、はい……」


 促され、魔術を使おうとして、はっと気づく。


「あの……すみません」

「何?」

「さっきの呪文、もっかい教えてください……」


 旧版ランジェリでは出てこなかったこういう日常的な魔術については、ちゃんとメモしていった方が良いかもしんない。毎日使ってるこの世界の人達はもう覚えきってるんだろうけど。

 ……斎藤さんが呪文書めくってた気持ちが、ちょっとだけ分かった気がする。

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