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汝、眼前の純白を愛せよ  作者: 狼子 由
第六章 One Way Or Another
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13 サラマンダー達の意思

 サラマンダー相手に、今オレ達が求めたいことは2つ。

 1つ、人族相手の共闘。

 1つ、オレの修理部品。


 前者はアルセイスをはじめとしたエルフの森(アルフヘイム)妖精の川辺(ティルナノーグ)同盟軍の所望するところ。後者の方はオレの動きやすさだけの問題だ。

 もちろん、人族の王国ラインライアを動かして何かを企んでいるらしいりあを止めたい思いはオレにもある。

 前者と後者には因果関係はないので、どちらか一方だけが認められる可能性は十分にあり得る。だけど、前者が叶うなら、かつオレが戦力として認められるなら、後者も割と簡単に許されるんじゃないかなって気がする。

 という訳で、人族相手にサラマンダー達と共闘できるかどうかは、この会談の中核になる話題な訳だ。


 さて、どう切り出すか……と悩んでいると、早々に共同戦線を放棄したメイノが、不思議そうな表情で小首を傾げた。


「そもそも、なぜサラマンダー達は人族と戦おうなどと思ったのじゃ?」


 サラマンダーの王エルネスティは、メイノの方へ身体を向け、無表情でその問いを受けた。

 位置から言えば、間にユーミルが挟まっている。

 国家間で問題が起こっているのも、ラインライアと隣接するアルフヘイム、ティルナノーグ、ユーミルばかり。

 そこになぜ火竜の砂漠(アルファディラ)が、というのは当然の疑問だ。


 エルネスティのすぐ横、アルセイスの対面に座っている女性が、じろりとメイノを見る。赤い髪と瞳、人族に優る体格はサラマンダー族の証。気の強そうな顔立ちの美人だけど、王の隣に座ってるところから見て、補佐の役目を果たす副官とかそういう人だろうか。


「ユーミルは不参加だと言うなら、我らの戦う理由などあなたには関係ありませんでしょう」

「よせ」

「ですが! あれだけ人族に蹂躙されながら、この期に及んで自らは関与せぬとは、我らが盟友などとはやはり口だけの――」

「――止めろと言っている」


 エルネスティの低い声がびしりと言い放つと、副官の人はさすがに口をつぐんだ。

 それを見届けてから、エルネスティはメイノに向き直る。

 言い募られたメイノの方は、ただ面白そうな顔で眺めていただけだった。


「悪いな、メイノ。こいつは真面目だが、ちょっとばかり熱血が過ぎて困る」

「わしは構わんよ。平和主義の意味は、武を貴ぶぬしらには容易に分かるまい。もっとも、もしもヘルガがラインライアに囚われたままであったなら、ユーミルはともかく、わし自身は加勢したかも知れんがの」

「――ならば、何故我らが立つのかもお分かりでしょう、メイノ王!」


 だん、とアルファディラの副官が席を立ちあがる。

 エルネスティは、今度は制止しようとはしなかった。


「あの……もしかして、アルファディラからも誰かラインライアに連れていかれちゃったとか……?」


 ふと思いついたことを口にした途端、副官の苛立った視線がオレに突き刺さった。

 アルセイスが隣で微かに指先を動かす気配がした。どうやら武器を探っているらしい。剣呑な様子を、片手で合図して押さえておく。

 血の気の多いアルセイスとは違って、オレの方は若干ビビっているのだけれど、とりあえずはそろって副官に視線を向けた。

 彼女の拳が、どん、と机を叩く。


「我らアルファディラの末の王女ユスティーナ姫が、人族に攫われた」

「ユスティーナが……」


 怒りと悔しさのこもる声を耳にして、メイノがため息のように呟いた。

 副官とは真逆に、冷え切った氷のような声でエルネスティが応える。


「ユスティーナを連れ去ったのは、旅人を装った人族の男だ。たった1人で何ができるものかと、こちらが気を許した隙に、どうやってかユスティーナを連れて王宮を逃げ出したのだ……!」


 淡々と語る声が徐々に熱を帯びていく。

 それでもメイノは変わらぬ軽い声で合いの手を入れている。


「なるほどのう。しかし、ユスティーナ姫も若いでな、それは恋心の勢い――いわゆる駆け落ちというものではないのか? 見張りは何と言っているのだ?」

「見張りは何も見ていない。2人の足取りは忽然と消えている。しかしな、ユスティーナが我が許しを得ずして伴侶を決めるなどとは考えられぬ。よしんば、その男に惹かれて慎みを失っていたにせよ、逃げ出す必要などあるまい。ユスティーナは末の姫――こういう言い方は好ましくないが、誰に嫁ごうとさして問題ではないのだ。本人が心より望むと言ったならば、例えそれが海底のマーメイドの飼う鯨が相手だったとして、無理に引き留めようとする者はおらん。それはユスティーナ自身が最も良く分かっていよう」

「ふむ……」


 どうやら結婚という点では、そのユスティーナ姫、王族としての義務を免れていたらしい。

 エルネスティの話から推測するに、上に兄弟姉妹が大勢いるから……ということらしいけど。

 しかしその主張が本当なら、人族が1人で王宮へ潜入し姫君を攫い、誰にも見とがめられない内にどこかへ逃げた、ということになるが。


「しかしのう……人族にそんなことが可能なのか?」


 オレと同じ疑問を、メイノもまた抱いたようだった。

 ゲームにおいても、魔王の記憶でも、人族とはこの世界で最弱の種族なのだ。

 魔力においてはエルフに劣り、膂力においてはサラマンダーに敵わない。

 器用さならば、フェアリーとドワーフに軍配が上がるだろう。


 ドワーフの影響を大きく受けてか、確かに、彼らの文明は大きく進んでいる。

 それでもなお、女性を連れて誰にも足取りを悟られず姿を消すような技を、人族が持っているとは――少なくとも、メイノの知らぬ技をラインライアが独自に発展させたとは思えない。


 もしも、それが可能だとしたら――


「――それ、その犯人、人族じゃないかも知れない」


 片手を上げて口を挟んだオレに、サラマンダー達の赤い瞳が集中砲火を浴びせた。

 一斉に睨み付けられて、思わず手を下ろしそうになるのを意思の力で支える。


「……人族の、レイヤと言ったか。同族を庇いたい一心で余計な口を挟むつもりなら」

「違う違う。そんな話じゃないよ、それに人族を庇いたいなんてつもりはない。どっちにしろ、ラインライアは絡んでるだろうし」

「どういうことだ」


 エルネスティがようやく身体ごとこちらへ向いた。

 オレの横で、ベヒィマが小さく身じろぎする。その手がぎゅっとオレの手を握っているのを感じながら――オレは何一つ悪いことをしていないのに、裏切りをはたらこうとしているような気分になった。


「たった1人でアルファディラの王宮から、王女を連れて姿を消すような力を持つなら、それは魔族じゃないかってことだ」


 がたり、とアルファディラの副官が椅子を引いた。


「魔族、だと? 確かに魔族にならば可能かも知れぬが……」

「なぜわざわざユスティーナ姫を攫ったかまでは分かんないけど。でも、少なくともラインライアに魔族がいるのは確かなことだ。魔族三将の一、鳥魔ジーズは、ラインライアの中枢にいる」

「ジーズが……!?」


 千年前より生き続ける力ある魔族の名は、アルファディラ側を揺らすのに成功したらしい。

 同時に、今回の戦争に、傍観を決めてかかっていたメイノの注意を引くことにも。


「……ラインライアに魔族がおるとはのう」


 独り言のように口にする声が、今までになく張り詰めている。

 隣国に――それも、アルファディラとは違い友好的とは言い難い隣国に、千年前の伝説に名の残るような大魔族が力を貸しているとすれば、それは不関与を貫こうとするドワーフ達にとっても大いなる脅威なんじゃないだろうか。


 本当のところ、ユスティーナ姫を攫った人族とやらが、誰なのかは分からない。

 そんなこと出来そうなのは、ジーズか……もしくは斎藤さんかな、なんてのは思うけど。


 これは交渉だ。そうだろ?

 オレ達の目的は、あくまで対ラインライア共同戦線だ。


 視線を受けて、オレはゆっくりと立ち上がる。


「ラインライアに攻め込もうって話、オレ達にも手伝わせてくれ。海魔レヴィとも一度は戦ったし、ジーズとももう何度かやり合ってる。向こうの出方は、あんたらよりは知ってると思うよ」


 国王2人の表情が、それぞれに変わっていく。

 何とかうまく斬り込めたようだ。

 安堵の息をついたところで、ふと――隣のベヒィマと繋いでいた手が外れていたことに気が付いた。

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