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汝、眼前の純白を愛せよ  作者: 狼子 由
第六章 One Way Or Another
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11 語られない理由

「なあ、アル」


 どたばたと駆けまわるメイノ含むドワーフ達を眺めつつ、オレは壁際に突っ立って隣のアルセイスに問いかける。

 アルセイスは無言で視線をこちらに向け、先を促した。


「あんた、妖精の川辺(ティルナノーグ)エルフの森(アルフヘイム)で連合して、ラインライア王国に攻め入ろうなんて話をしてたよな……」

「策が完全に成る前に、俺自身は撤退せざるを得なくなったがな」


 悔しさが微かに滲んでいる。

 だけど、お前のせいで、とはアルセイスは言わなかった。

 まあ、言われなかっただけで、オレ達がティルナノーグに戻れなくなったのは――あ、いやいやオレのせいじゃない。斎藤さんのせいだ。そこんとこは間違えないようにしたい。

 魔王の感情面が影響してか、どうも斎藤さんの行為によって引き起こされたことはオレのせいって気になりやすい。けど、そうじゃないんだよな、ほんとは。あの人のやってんのはあの人の勝手。責任取るって話なら……せめて、千年前の本物の魔王とやらにとって貰わなきゃ。玲也オレは何も関係ない――ない、はず。


「あたしのせいだって言いたい訳?」

「いや、誰もそんなこと言ってないだろ。むしろ斎藤さんのせいだと思ってるよ」

「どーだか。けど、偽物の魔王さまにまでそんなこと言われるシトーは、やっぱシトーね」


 腰のあたりでベヒィマがぼそぼそ呟いた。

 そんなやり取りを気にもとめず、アルセイスは再びメイノ王に冷ややかな目を向ける。


「……当初の予定ではサラマンダー達にも声をかける予定だったが、さて、ティルナノーグとアルフヘイムが話をどんな風に進めているのか」

「そのこと、教えてあげないの?」

「俺がドワーフに? 教えを乞われた訳でもないのに?」


 いかにも心外だ、という口調だったので、ちょっとだけ傷付いた。

 オレの思うアルセイスは、もう少し優しいはず――と、勝手に思ってたから。

 失望の眼差しを受けたからかどうかは分からないが、ふう、と小さなため息が聞こえた。


「……俺が口をはさんだところで、ドワーフ達が信じるものか。だが、そもそもティルナノーグもアルフヘイムも、サラマンダー達とはほとんど交流がないんだ。全く別に起こった戦争の可能性が高いと思うな」

「だから、言っても無駄だって?」

「言うならお前から言ってやれ。その方が話がスムーズだ」


 どうやら、ドワーフに対する単純なイジワルで沈黙を守ってた訳じゃなく、両者の関係性を考慮した結果らしい。そりゃそうだ、アルセイスが自分の感情だけで自分の行動を決めることはない。少なくとも自覚的にはそういうことしない人だ。

 先読みして勝手に失望した自分に恥じつつ、オレはメイノ王を呼び止めた。


「あのさ、実は、ティルナノーグとアルフヘイムもラインライア王国と戦争を始めようとしてたんだけど……」

「何じゃと!? ヘルガよ――」

「ええ、多分、今もその話は進んでいると思う。ただ……うーん、サラマンダーにもうわたりがついてるとは思えないな。だって、もともと火竜の砂漠(アルファディラ)には、そこにいるアルセイスが使者に立つ予定だったんだもの」


 メイノとヘルガ、それに周囲のドワーフ達の視線が、一斉にオレの隣――アルセイスの方へ向かった。

 胡散臭げな表情に、長年のドワーフとエルフの軋轢を感じる。

 アルセイスはそんな悪意を気にした風も見せず、軽く首を竦めた。


「そのつもりだったが、予定が変わった。だが……ティルナノーグからアルファディラへ向かおうとする者が俺の他にいるとは思えない、というのはヘルガに同意だ」


 その言葉で、メイノはじめとするドワーフ達は納得してしまったらしい。

 理解できないオレだけが、アルセイスをつつく。苦笑が返ってきた。


「フェアリー族や俺達エルフからすると、アルファディラは未知の世界だ。サラマンダーとは行き来が一切ない。王族の名前くらいは知っているが、まあ……そうだな。事前に繋ぎを取る方法もないし、行ってみないと会えるかどうかすら分からないから」

「あんた、そんなとこに一人で行こうとしてたのかよ!?」


 あの時はオレのこと「お前はここでぱんつ作ってろ」とか言って置いて行こうとしてたんだった。ベヒィマ達が攻めてきたので有耶無耶になって、斎藤さんのせいでティルナノーグ自体を追い出されることになったけど。

 そのベヒィマは、さっきから興味ないのか関係ないからか、黙ってオレにしがみついてるだけだ。

 じっと下を見て顔を上げないのは、退屈してるからだろうか。


「とは言っても、一応言葉は通じる相手だからな。会話は出来る。それに、戦闘力で言えばサラマンダーを置いて右に出る種族はないぞ。一度は声をかけて損はない」


 正論っぽいことを言ってるけど、目が泳いでる。

 誰一人知人のいない他種族のとこに、単身旅立とうなんて行為がどれほど無謀か、自分で分かってはいたらしい。

 黙って睨み付けると、誤魔化すように笑ってメイノの方へ向き直った。


「とは言え、ドワーフとサラマンダーには交流もあったはずだな。今、あなたがティルナノーグとの仲立ちに入れば、双方の目的を一にすることも出来るかもしれないが」

「ふむぅ……」


 ようやく落ち着いたメイノが、再びソファに身体を沈めた。

 どうやらその場合にドワーフの山(ユーミル)が得られるメリットについて考えているらしい。

 しばらく頭を捻った後、唐突にわしゃわしゃと髪を掻き毟って立ち上がった。


「――うー、分からん! そもそもサラマンダー族は何故、人族と戦おうとしとるんじゃ。領土で言えばアルファディラと接しておるのはわしらのユーミルじゃぞ。国民を奴隷としてラインライアに取られとるのも、エルフやフェアリー、それにわしらじゃ。アルファディラから攻め込む理由が分からん!」

「……あ、地理的に、そういう位置どりか」

「そういう位置どりだな。アルファディラからラインライアに侵攻しようとすれば、エヴェリーナ山脈の切れ目で繋がったユーミルを通るしかない。だからこそ、メイノの所に知らせが来たんだと思うが」


 アルセイスに小声で説明してもらいつつ、頭の中で地図を思い出す。ゲームでも見たし、そもそも魔王バアルが知っているだろう。通って来た場所でもあるので、ユーミルまでの道はよく分かる。


 エルフ達の森アルフヘイムから西に来るとラインライア。ラインライアの北東にフェアリー達の川ティルナノーグがあって、そこから西には、ドワーフ達の住むこのユーミル。ユーミルの更に北西に、サラマンダーの住むアルファディラがある。

 アルファディラは北の海に面した場所だ。海沿いだが沿岸は高い崖になっているので、海運国のイメージは全くない。どちらかと言うと、冷たい荒野の印象がある。方角的にはアルファディラから真っすぐ南に下ればマーメイド達の国ニライカナイがあるんだが、間に険しいエヴェリーナ山脈が挟まっていて、ほとんど行き来はないという。

 同じ山脈のせいで、ラインライアとも行き来は出来ない。


「よし、サラマンダーの王エルネスティに会って、話を聞こうではないか。……のう、ぬしも同席するよな?」

「……アルとレイヤも一緒ならね。レイヤの部品のこともあるし、直接交渉する方が早いでしょ」


 尋ねられたヘルガが、オレ達の方へ話を振る。

 アルセイスは一瞬の間の後に黙って頷いた。アルが出るなら、1人にする訳にはいかない。それに、どこから持って来ようか分からない状況からすれば、交渉できる場があるのはとてもありがたい。オレもこくこく頷いた。


 頷いた途端、ぎゅう、とベヒィマの手がオレの身体を一際キツく掴む。

 その力の強さはちょっと痛いくらいでもあったんだけど……ベヒィマは何も口を出しはしなかった。頑なな沈黙は、結局、メイノの私室を出るまで続いた。

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