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汝、眼前の純白を愛せよ  作者: 狼子 由
第六章 One Way Or Another
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10 煙吹く城

「あいつ本当にしつこいな」


 ミシンを乗せた荷車を引くオレの横で、アルセイスはしかめっ面だ。

 オレはと言うと……まあ、許せはしないけど、かと言って魔王オレのために頑張ってくれる人をあんまり無碍に扱うことも出来ず……的な気持ち。いや、決して良い人だとは思わないけど。


「アルは、斎藤さんのこと本当に嫌いだなぁ」

「好きになる要素、あるか?」


 そう言われればそうなのかも知れないけど、そうやって切り捨ててしまえないのは……何でだろうな。

 何となく遠い目をしながら、無の境地で荷車を引いた。


 荷車の後ろでは、バンダナさんが、ほいほいっと言いながら押してくれている。まあ、荷台に乗ってるものの半分はオレのミシンで残り半分がバンダナさんのものなので、さもありなん。

 オレ達がミシンに目を止めた時点で、これは長くなりそうだと見切りをつけ、自分の買い物をしていたらしい。道理で近くにいないと思ったよ。

 膨大なガレキかクズ鉄のようにしか見えないが、ユーミル一と言われる工房の主にとってはお宝の山だったようだ。ほくほく顔で荷車を押している。


「それにしても、ぬしらも良い掘り出し物に当たったの。あの店は自動裁縫機で有名での、フェアリー族の間でも名高いのじゃ。人気故にほぼ注文に応える形でしか作っておらなんだが、新品を出した瞬間に丁度当たるとは偶然じゃのう」

「あー……」


 それを偶然、と言い切れる自信は、オレにはない。

 もとはと言えば、アルベルティナ――いや、斎藤さんのあのド派手な煙吹きミシンに注目した流れで、その隣で売ってるミシンに気付いたんだから。

 どこからどこまで、あの人の手のひらの上なのやら。


 アルセイスはふう、とため息をついて段々近付いてきた妙なバランスの王城を見上げる。


「それにしても趣味の悪いデザインだな。本人の前では言わんが、こうも自然に反した形をわざわざ取りたがるドワーフ達の考えは全く分からん」

「アルフヘイムの家は木製だったもんな」


 アルセイスの住んでた王宮も石畳だった。多分、それがエルフ達の文化なんだろう。

 いや、確かにドワーフの王城は――近くで見れば見る程奇妙な形をしている。

 言ってみれば、崩れないようにぎりぎりバランス保ってる積み木のおもちゃのような、建設途中で予定外の位置に塔を増やしたバロック建築みたいな。どこをとっても左右非対称、建物の途中から煙突が突き出て、それぞれ勝手に煙を吹いている。人族の王国ラインライアと同じ蒸気機関を使っているんだろうけど、普通に考えてそれをわざわざ王城へ組み込まなくても良さそうなもんだが。


「メイノ王の居城じゃぞ。彼は偉大なる発明家にして設計家、我らドワーフを導く王じゃもの……と、言うてもぬしらには分かるまいの」


 オレ達のこそこそ話を耳にしたバンダナさんは、さして嫌な顔もせずただ、ふふんと鼻を鳴らした。

 アルはちらりとそちらを見て、呟く。


「……同職ギルドの長のようなものか?」

「手工業と言うにはちょっと大掛かりだけど。アルフヘイムにもあるの? ギルド」

「いや。しかし、ラインライアにはあると聞いたことがある。多くの工房を取りまとめる組織、そこに長がいるならメイノのような立場になるだろう。この王城も――趣味は悪いが、まあ、デモンストレーションの一種と思えば」


 ギルドと言えば、オレの元いた世界では封建制ヨーロッパの特徴みたいな感じだったはず。封建も欧州もオレには遠すぎて実感としては何もない。

 アルの言いたいこととはだいぶ違うような気はするけど、下町工場組合の組合長みたいなもの、とでも考えとこうか。


「いざとなれば、王城で産出するエネルギーはユーミル全体を支えるに足るのじゃ。その状態を維持しつつ、技術を進歩させ、国を拡大する――まさしく王の仕事じゃわい」


 どうやら、メイノ王の人気は高いらしい。

 変な形なのは、拡大した国に合わせて増築しているからだろうか。よく見れば、死角になった場所で、今まさに煙突が一本建築中だったりするし。煙突があるってことはあそこには炉が増やされたんだろう。

 機を見てそうやって対応できるってことは、確かに優れた王様なのかも。前情報では逃走癖があるってことしか聞いてなかったから、あんまり気にしてなかった。

 オレと同じく少し見直した顔をするアルセイスを伴って、オレ達はそのいびつな城へ足を踏み入れた。



●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●



 王城では名乗るなり、王の居室に案内された。

 建物の奥まった場所にある辺り、かなりプライベートな場所のようだけど、オレなんかが入って良いんだろうか。


 扉を開けるなり、オレの身体に飛びかかって――もとい、腕の中に飛び込んできたのは、ベヒィマだった。

 びっくりしたけど、その両手には武器なんてないのは一見で分かる。黙って受け止めた。


 部屋の奥では、長椅子にだらりともたれかかっているメイノ王と、その対面で姿勢正しく腰掛けているヘルガが見える。

 2人に軽く頭を下げてから、しがみついてる小さな肩に両手を回した。

 ベヒィマも何やら驚いた様子で、オレを見上げてくる。


「……何よ、あんた。その手はどうしたの」

「修理しに行ったんだから、直ってるのは当たり前だろ」

「ふん、そう言う割にこっちはずいぶん適当な修理じゃない」


 ぺろりと捲られたシャツの下、脇腹の傷は確かに布テープで塞いだだけだ。

 ベヒィマの後ろからてこてこ歩いてきたメイノ王が、興味深そうな顔でバンダナさんから報告書を受け取った。


「ふむぅ、なるほどのう……部品不足か」

「直らないの?」


 同じく報告書を覗き込みながら、虹色の羽を震わせてヘルガも残念そうな顔をしている。

 ベヒィマの身体を抱き上げたまま、オレも近寄って眺めてみた。

 内容は専門的でよくは分からないけど、とりあえず読めなくはない。と言うか、読める。何故か読める。

 結論としては、さっきバンダナさん本人から聞いた通り。天使の虚空(ガローデマーン)火竜の砂漠(アルファディラ)にあるんじゃないかってことなんだけど。

 こうやって読んでる時も、魔王の知識が関係してるんだろうか。すらすら読める。いや、ちょっと何言ってんのか分かんない技術的な部分もあるっちゃあるんだけどさ。


「どうするかのう。エンジェル族かサラマンダー族が物見遊山にでも来てくれれば話は早そうだがのう」

「あなたね、そんな私達に都合の良いことばかり起こるなんて――」


 ヘルガが窘めかけた瞬間、ばたばたと騒がしい足音と共に、数人のドワーフ達が駆け込んで来た。


「何じゃ、騒がしい。客人の前じゃぞ」

「王よ、大変じゃ!」


 息せき切ったドワーフの一人が、大声を上げた。


「今、火竜の砂漠(アルファディラ)から早馬が届きましたのじゃ!」

「サラマンダー達が、ついに宣戦布告したそうな」

「人族と――ラインライア王国と開戦じゃと!」

「ラインライアとアルファディラが戦うと言うのか!?」


 長椅子から滑り降り即座に立ち上がったメイノに向け、ドワーフ達が駆け寄る。

 一瞬にして固まった空気の中では――まさか、あの……その場合、オレの腹んとこの部品ってどうなるのかな、なんて細かいことを言い出す隙は少しもなかった。

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