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俺の友達の話シリーズ

幽霊駅

作者: 尚文産商堂

長らく鉄道を運行していると、廃駅や使われなくなったホームなんてものがでてくることがある。

その中の一つ、私は迷い込んだ。


手野鉄道でも山の中を走っている路線を通っていると、誰もいないはずのところで電車が止まる。

ここ2日ほど暇だということもあって、私はそこに降り立った。

周りは山、そして渓谷があるだけという秘境駅。

GPSで調べると、奈良県と三重県の県境、奈良県よりのようだ。

何もないなりに、私は面白くなって駅の周りを調べてみる。


「うそでしょ……」

道もなければ、ダムや民家の類もない。

本当に何でここに駅があるのか不思議になるほどの秘境駅だ。

ベンチと電燈があるから、完全な暗闇になることはない。

ただ、ひたすら暇なだけだ。


「おや」

ガサガサっと音が鳴り、びっくりしてみると、猟師のような人がやってきた。

「この駅で人に会うとは。初めてのことだ」

「こんばんは」

終電はあと15分ほどで来る。

20時19分着発の電車があるようだ。

「こんばんは」

横、いいかなと猟師が言うと、私はどうぞと言って、わずかにずれる。

「君はどうしてここに?」

「全駅降車の旅の途中なんです」

「ああ、最近流行ってるね」

実は孫がそれをしているんだよ、と漁師は言う。

見た目に反して、けっこう歳がいっているのかもしれない。

「気を付けなさいよ、この辺りは出るっていう噂だから」

「出るって、何がですか」

聞くと怖いが、聞かないといけない気がする。

「幽霊だよ」

ああ、これを持っていなさいと言って猟師にお守りをもらった。

「1回だけだけどね、君の代わりになって護ってくれる」

「はぁ」

半信半疑ではあるが、私はそのお守りをかばんにしまう。

布でくるまれた固い感じのお守りだ。

木のようなものが入っていることは分かる。

「それじゃあ、僕は行かないと」

「あ、お疲れ様です。さようなら」

私は思わず立ち上がって、猟師に言った。

「それでは、また」

会わないとは思うけど、と苦笑いをして猟師は駅から山から下っていった。


そして電車がホームに来る。

汽笛を鳴らして、3両編成がやってきた。

ドアが開き、電車に乗ると、一瞬で乗ってはいけないと直感で分かった。

ここから大きな駅まではしばらくかかる。

席は空いているが、2、3人はいる。

1人はなぜか立っていて外を眺めているようだ。


しばらくして眠っていたようだ。

私は生暖かい吐息で目が覚める。

「喰ってしまおうか」

「まあ待て。寝かせたほうが旨いと聞く」

「しかしだ、随分と寝たぞ」

3人は銘々そんなことを話した。

どうやら熟成させるということで寝るといっているようだ。

私が目を開けると、3人は私を取り囲むようにして立っていた。

「おや、もう目が覚めたか」

「喰うしかなかろう、なかろう」

周りは薄暗い、もはや電車の中が電気がついているかわからないほどだ。

そして、首に手がかけられる。

「がっ、ぐぎっ」

空気を探して肺が膨らむ。

横隔膜は下がるが、そこに入り込んでくるのは虚無だけだ。

「ほう、生きがいい。よい餌だ」

そういいつつ、さらに別の人が私に手をかける。

「……やれやれだ」

その時、全く気付かなかったもう一人の乗客が声を出した。

「悪さしちゃダメだろ。古代の契約によって、お前らを殺さなきゃならない」

そういって、背中に手を回して銃を構える。

ライフルのように見えた、ショットガンかもしれない。

銃には詳しくないからよく分からないが、ただ、それは音もなく弾を出した。

透明な空気の塊が、彼らの体を貫く。

暗いからか銃弾が見えないだけだろう。

ギャッと声を出し、3人は霧散する。

「危なかったか」

「ありがとうございます」

私はようやく呼吸ができるようになって、その人に礼を言った。

そして、月明かりが窓から差し込んできて、その人の顔をようやく眺めれた。

「あっ」

あの猟師だった。

「シー、声に出してはいけない。声には気が入ってしまうからね」

だから、僕のことは思うだけでいいんだ、と彼は言った。

「さあ、眠ってしまいなさい。ゆっくりと目を閉じるんだ。そして、タタン、タタンと揺れ動く。電車の揺れに身を任せ、そしてはっと目を覚ます。そこは君が下りる駅。さあ、はっと目を覚ますんだ」


夢かはたまた何だったのか、私は分からなかった。

やばっと思ったのは、目を覚まし駅標名を見ると、降りる駅だ。

あわててホームへと降りた。

あれが夢かどうかは、ずっと後になってもわからない。

ただ、買った記憶がない割れた木片が、絹の袱紗に包まれてかばんに入っていたのは真実だ。

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