目覚め
『 』
なにか聞こえた気がした。
意識がふわりと浮き上がるような感覚。
ゆっくりと目をあけると目の前には闇が広がっていた。
体を起こし周りを見るが何も見えない。
「……どこ…だ…?」
起きたばかりのかすれた声がでる。
下にはゴツゴツとした硬い感触がひろがっている。
特に身体に痛みは無い。
軽く身体を動かすが異常はないようだ。
座っている床が冷たく感じとりあえず立ち上がる。動きに反応したかの様に周りがぼんやりとした光に満たされた。
驚き周囲を見渡す。
光源になるようなものは見当たらないが、わかったことが一つ。どうやらここは通路のような所らしく、左右に道が伸びている。
(………ここに居ても仕方ないな)
通路の静寂の中に俺の足音が一定のリズムを刻む。
どのくらい歩いただろう。
もうどう進んだか憶えていない。
「!」
道の奥から音が聞こえた。
金属がぶつかる高い音だ。
やっとの変化に喜ぶ。
しかしそれはすぐに消えて疑問に変わる。聞こえてくるのは男たちの声だが、何故男たちは叫んでいるのだろう?
少し進むと通路から広い空間に出た。
その中央で人と獣が戦っている。
立ち止まって様子をみることにした。戦っているのは人側が6人、獣側が7匹だ。獣側が人側を囲むように立っている。獣は狼のような姿をしていた。狼と呼ぶことにしよう。時折男が声をあげて陣形を崩しにかかるが狼は素早い動きで避けて当たらない。
いや、当てる気がない…ようにもみえる。
あまりに大振りな攻撃、通路ににじりよるような移動、もう少し通路に近づけば逃げることが出来るだろう。
問題は、狼をどうするかだろう。
しかし、これはすぐに解決することとなった。
男たちの輪の中から子供が前に出された。簡素な服を着た金髪の少女だ。その両手には体に不釣り合いな両刃の剣が握られ手首には手錠が嵌められていた。
まさか……そう思った瞬間少女は声をあげて狼の群れに突っ込んでいった。
そこからは一瞬だった。少女は倒され、頭を、腕を、脚を………喰い千切られた。ブチブチとグチャグチャと目の前で『少女』が少女だった『モノ』へと姿を変える身につけていたものはあちこちに飛ばされ剣も足下に滑ってきた。
「うっ………!」
目眩にも似た感覚に襲われる。
男たちはバタバタと通路の奥へと走り去り、それに気付いた狼たちが追いかけ奥へと消えていった。
きっと向こうに行けば出口に近づくのだろう。男たちの逃げた通路を見ながら思う。そして狼に見つかれば少女と同じようになるだろうとも…
残念なことに狼は全てが去って行きはしなかった。
肉片の周りにはまだ二匹残っていた。そして、運悪く一匹がこちらを見てしまった。
狼がこちらに向かって走り出す。とっさに落ちている剣を手に取る。
「……っ!?」
顔をあげると敵はすでに噛みつこうとしていた。
考える暇はなかった。
考えるまでもなく体が動いていた。
攻撃が届く前に腕を横に振り抜いた。
手ごたえはあった。しかし、敵は俺にぶつかってきた。
敵を押し退けようと力を入れると、ズルリ…とズレる感覚。そして温かい青い液体がボタボタと落ちてきた。
「な…なんだ……!?」
あっさりと倒せたことに驚くがそうもいっていられない。まだ敵は一匹残っているのだ。
仲間を殺されたことで警戒したのかゆっくりと寄ってくる。剣を構えなおして睨み合う。
始めは狼だった。
鋭い爪を使って仕掛けてくる。
それをギリギリで避け敵の腹を切り上げる。それなりに深く入ったが戦闘不能にするにはまだ足りない。
狼の頭を狙って水平に振るが後ろに下がることで避けられた。しかし、腹の傷が効いているのか動きが鈍い。ここがチャンスと一歩踏み込んで剣を突き出した。
切っ先は右目から入り貫通して狼の動きを止めた。
「…っ…はぁ~~~…」
溜まっていた息を吐き出す。
助かった…んだよな……
少女がいたところを見て今更ながら冷や汗が出る。
もしかしたら自分もああなっていたかもしれないのだ。
恐怖する一方、
助けたかったな……と思う。
そんなこと、出来ない。
分かっている。少なくとも今はまだ…
切り替えなくては、今は生きてここを出たい、過ぎたことに構ってる暇はないのだ、と出口を探し歩きはじめた。
今はまだ、前に進むしか道がないのだから。