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第5話

ふと、ルーノは懐かしい光景を思い出した。


国王の命令に従い、戦争に明け暮れる毎日。


ルーノにとってはそれが日常。だから疑問を覚えることなく戦い、勝ち抜き、人を殺していった。


それが“普通”だったから。



 あるとき、1人の男が上司に進言した。





 ――何だと、もう1度言ってみろ。

 ――ええ、何度でも申します。あなたさまは、むやみやたらと人を殺しすぎます。

 ――それのどこがいけない。抵抗できぬようにしておかなければ、いつ背後から襲われるやもしれん。

 ――確かに、おっしゃる通りです。ですが、いくら敵国の者とはいえ、子供にまで刃を向けることはないでしょう!



そのときの男の背後には、年端もいかない幼子がいた。

父さんの仇、父さんの仇と叫びながらペーパーナイフを握りしめた子が。



その光景を見て、ルーノは思った。


何と馬鹿な男なのだろう、と。

子供とはいえ、刃を向けてきたのだ。なら、遺恨のないように始末するべき。



だが、結局は。



男の上司は男の諫言を受け入れた。


 ――まさか、この私に恐れず具申するとは。

 ――自らに嘘をつくことなかれというのが、家訓ですので。

男のその言葉に、上司は笑う。

 ――そうか……お前、名は何という。


それに色めきたったのは、周囲の人間だった。

男はただの一兵卒。そしてその上司は遥か雲の上の人間。


だというのに。













雑念が入った。

これでは占いの正確な結果が出ない。


らしくない失態に内心で溜め息をつきかけ……ルーノははっとした。



これはただの直観。

いや、直観とも言えないかもしれない。ただの思いつきなのだから。



だが、ルーノは己を信じる。



「お前……ラフマー・グラディトの息子か?」

そう訊いたとたん、少年が息を呑んだ。

「どうして……親父の名前を!?」

どうやら当たりだったらしい。

「……以前、俺はお前の親父さんと同じ部隊にいた」


たった5年も前の出来事なのに、遥か昔のことのように感じてしまう。

それはルーノの取り巻く環境もすっかり変わってしまったからだろう。


戦争という、ある意味輝かしい栄光の日々から場末の占い師まで「落ちぶれて」しまったのだから。


「お前の親父はすごかったぜ。悪いことは悪いと啖呵を切って……それも、この国の王子だった奴に、だ」

「親父が……?」

あのときのことを思い出し、ルーノがクスリと笑う。


「ああ。お蔭で奴は部隊の有名人……だった」


あの言葉を聞き、ルーノは考え方を改めた。

今でこそ優秀だったということが引き立てられる第三王子だったが、戦場に出た当初は違った。


力こそが正しい。

刃向う者は全て葬れ。


その理念に基づき、女子供も容赦なく殺害していった。



それが、あの諫言を聞き入れてから。


敵にも慈悲を与えるようになった。

殺す人数も最小限……とはいかなかったが、明らかに減った。



「……その、親父の……最期は、どんなんだった?」

恐る恐る、少年がルーノを見上げる。


「……エフティヒア王国との決戦、デルフィニの丘の戦い。彼は部隊長アリアド・ストライナーを庇ったという。……だが彼の遺族にはそれなりの見舞金が出たはずだったが」

ルーノの言葉に、少年は唇を噛み締めた。

「……そんなもの、出なかった。親父が最後に出兵したあと、母さんは通り魔に襲われた。ガキの俺が家賃を払えるわけもなくて大家に家を追い出されちまったし」

「……それで居場所不明になったのか。……そうなると、見舞金が担当者に着服された可能性もあるな」

自然とルーノの口調も険しいものになる。

「ケッ、今更国から金なんて貰ったって、いらねーよ」

「はぁ? 貰えるかもしんねーんだろ? なら大人しく貰っとけよ」

「いらねえ! 俺は自分で稼ぐって決めてんだよ!」

少年がそう叫んだ。しかし、ルーノは溜め息をつく。

「他人から盗んでか?」

「るせぇっ!」

「……まあ俺も、人のこと言えた立場じゃねえけどよ」

そう、ルーノは息を吐く。


面倒臭いことになった。


「俺は、オメエがどうなろうと関係ねえけどよ……テメエが自分に胸張れる生き方しとけ」

少年が息を呑む。

「俺も人に誇れるような生き方してたわけじゃねえけどよ、少なくとも俺ァ自分に嘘はついてねえ。でもテメエは違う」

「お前に何が分か……っ!」

「分かんねえよ。俺はテメエじゃねえからな。……ただよぅ、俺はテメエみたいなの嫌いじゃないぜ」

ただのスリのくせに、開き直らず罪悪感を抱きながら。だが他に道を知らないが故に自らを騙し偽りながらも生きている少年。

下手に清廉潔白な人間よりも、好感が持てる。

「ま、精々頑張れや。人生に迷ったら相談に乗るぜ、今回はロハだからここまでな」

そう軽く手を振り、ルーノはあっさりと少年に背を向けた。













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