4.野盗に聞く異世界入門2
続、説明回
結局、野盗の皆様は解放する事にした。
野盗に身を落とした物の実際には初仕事だったらしく、ゴルディ一家というのも以前このあたりを活動範囲とする野盗ということで手配書を目にしたことがあったので交渉材料として騙っただけだとか。
手持ちの食料や狩りでなんとか凌いでいたが、街に入れないために思いあまって今回の犯行に及んだそうな。
逃亡即野盗じゃないあたり、割と人が良いな。
聞いているうちに色々可哀想になってしまい、魔術刻印も俺が解除を試みることにした。
「ふむふむ、魔術刻印には魔力を込めて鍵となる言葉を言えば良いと。それならなんとかなりそうだな。」
Javaで簡単な魔法組んでブルートフォースアタックかけるだけだな。
こんなんで破れるんじゃ誰でも破れるんじゃないのかなぁ。まあやってみるか。
流石にプログラムの暗誦は三十路脳には無理だから地面にコード書いてセルフレビューして…よし。
IDEとは言わずともせめてコンパイラが欲しいなー。
「public class MagicalSignCracker…」
五分程した後、最初の魔術刻印解除に成功する。
「ば、馬鹿な…。鍵言葉を知らずに魔術刻印が解けるなんて……」
「は?詠唱の組み方が違うかも知れないけど、魔術が使えるなら誰でも解け…たら意味が無いのか。
何も特別な事はしてないはずだけど…
地面に転写したログ見ると…あらラッキー。
たった150,000回の試行で解けたんだ。
5分で150,000回って事は大体2msecで1回試行って所か、処理性能まずまず?「じゅ、じゅうごまんかい!?貴方の魔力はどうなっているのですか!?王国の標準的な魔術士でも1日20回唱えるのが限界だというのに…」
魔力チートキターーーーーー。
魔法使えるだけでもウハウハだというのに、無敵じゃね?無双キタ?
マテマテ落ち着け。コレはコウメイの罠だ。実際魔法でどこまでの事ができるか判らんし、調子に乗って国家レベルの組織に目をつけられたら個人で対抗するのは無理だろう。
「ま、まあそれはさて置き。残りの3人の刻印も解きましょう。まだいけそうなので。」
そんな訳で、残りの3人の刻印も解除した。流石に5分とはいかず、3人で6時間程かかったが、アンテさん(最初に刻印解いた人、合間に名前を聞いた)は驚愕を通り越して乾いた笑いをこぼしていた。
魔力はともかく、集中を継続するのがキツい。
「ともあれ、もう少し常識を教えてもらえませんか?国名を聞いても判らない程度には遠方から来たので諸々知っておかないとクソ貴族に利用されたりトラブルに巻き込まれたりとろくな目に会わなそうなので」
「…そうだな。変わった魔術といい竜種に匹敵する魔力といい、このまま街に行ったら何をやらかすか…。」
やらかすって失礼な…。思わずジト目で見てしまう。
「ま、まあアンタは恩人だ。何でも協力しよう。俺達はこの国では手配されているだろうからオレーグに向かうが、アンタはキエフに行ったらいいと思う。
傭兵ギルドに登録すれば、アンタの実力なら名をあげて騎士団に仕官するのも可能かもしれん。」
ギルドときたか。これだけテンプレ満載だと楽しくなってくるな。
ただし、聞いた感じの世界状況じゃ、国仕えなんざブラック職場率が高すぎてやってられねえ。
途中休憩を挟みながら(逃げた馬を回収したり、角兎を狩って飯にしたり)、色々と話をした。
国外に逃亡するならもう今後の接点はそう無いだろうと異世界から来たのもぶっちゃけた。
驚かれはしたが、飛び抜けた魔力量などからそういうこともあるのかと納得された。前例があって納得された訳では無いから、やはり俺は初めてに近い特殊ケースということで、元の世界に帰るのは無理そうだ。
とりあえず、この世界で暮らしていくにあたって、やはり傭兵ギルドに登録するのが良いだろうとのこと。傭兵ギルドはラノベ好きの良い子の皆様が想像する、冒険者ギルドと大体同じ感じらしい。
・登録料は銀貨10枚だが報酬天引きでギルドが貸してくれる
・登録すると魔道具であるギルドカードを発行/貸与される
・ギルドカード紛失時の再発行は銀貨50枚
・ギルドカードは身分証になり国内は自由に移動可能
・銅、銀、金、白金の4ランク、各ランク1から3の3レベルで12段階評価
・受けられる依頼は自分と同ランクのみ
・依頼の報酬は3割をギルドがとる
・有期限依頼の失敗時には依頼料と同額のペナルティが発生する
・受ける依頼は原則自由だが、銅ランク傭兵は一定期間依頼を受けない場合、ギルドが選定した依頼を強制される
・依頼10件の失敗率が8割を超える場合もギルド選定の依頼強制となる
ざっと、こんなところか。自由な冒険者というより貧民対策な感じがするな。下手に地下に潜られるよりもギルドに管理を委託したうえで働かせることができる。
貨幣は、小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、金貨、白金貨で銅→銀→金→白金が100倍。小×貨は×貨の1/10。
銅貨がおよそ100円位の価値で、普通に使われるのは銀貨まで。
そんな訳で、銀貨1枚と馬一頭と鞍袋だけ貰って、元衛視今野盗くずれの皆様とお別れして、キエフに向かう事にした。
※ブルートフォースアタック=パスワードなどの文字列を総当たりで試して破るクラッキング方法。候補となる文字種数にもよりますが、15万回試行で解けるのはかなりラッキーです。が、そんなに時間がかかっても話が進まないので。
※IDE=統合開発環境。プログラムをコンピュータがわかるように翻訳するコンパイル機能だけでなく、デバッガや開発支援機能が搭載されたソフトウェア。
野盗は生き埋めにして助けた商人と街へ行くつもりが…どうしてこうなった。