12.初めての依頼
「え?なにこれギルドカード壊れてるよ?」
ギルドカードが壊れている訳では無いこと、スキルの説明など気がついたら日が暮れかけた。
スキルも気配察知以外は聞いたこともない名前、効果だったらしく一々ルチアはフリーズし、最後には何故か神々に悪態をついていた。…途中は俺に悪態をついていたのだが。
「複数の思考って、どれだけ?今も4分割中!?こわっ。魔力消費って、このステータスじゃ代償には軽すぎじゃない、ズルい!」
ズルいって言われましても。
「二重化って、コーキが分裂するってこと?うわ、虫?きもっ」
うぐぅ。
「魔法使い!?魔術士でさえ無いんだ…、もう魔人でもなんでもこいよ…」
「基本的に何でもできるけど魔力消費効率が悪いのが魔法使いなのにデメリット消滅って神様は依怙贔屓なの?馬鹿なの?」
…ルチアはその後もしばらくブツブツと文句を言っていたが、流石に日が暮れると治安とかエフレムさんが不味いので、ルチアの能力は明日教えてもらう事にして魔道具店へ急いだ。
魔道具店の入り口まで送ったところで、エフレムさんとは顔を合わせないようにして宿に戻ることにした。…怖いし。
宿に戻ると飯の時間を少し回っており、一階の酒場が賑わっていた。
カウンターに空いた席を見つけて着くと、例によって無言でオヤジが黒パンとクズ野菜のスープ、川魚の香草焼きが並べられる。想像していたよりも美味そうだ。オヤジを呼び止める。
「飯に合う酒をくれ」
やはり無言で樽から木のジョッキに酒を注ぎカウンターに置く。
「銅3」
カウンターに銅貨を3枚置くと、掴み取って前掛けのポケットに突っ込んだオヤジは無言で去る。やっぱり日本の過剰なサービスに慣れた身には、これで繁盛する理由が分からない。
ジョッキに口をつけると、果実のような香りがするが、口当たりの軽いビールだった。ヴァイツェンに近いような気がするが、利き酒できる程の舌は無いためハッキリとは判らない。しかし、美味い。キレのよい喉越しと華やかな香り、弱めの苦味。うん、確かに塩と香草で仕上げられた淡白な川魚に合う。堅くやや酸味のあるパンもスープに浸せばやはり美味かった。歩き回って腹も減っていたため、瞬く間に完食する。
食べ終わると毎日ほぼPCとだけ戦っていた身体が頻りに疲労を訴えてきていた。バルネにも行ってみたかったが、風呂で寝落ちは普通に死ねるので、井戸の場所を聞いて、宿の裏手にある井戸へ向かう。
着替えと生活用品買うの忘れた……。うぐぅ…。
気を取り直して井戸から水を汲み、魔法で加熱後、頭からかぶること数回。魔法で温風を発生させるのと同時に、服からは直接水気を魔法で飛ばして乾かす。
明日はバルネに行こうと決意して、部屋に戻り、ベッドに潜り込むとすぐに眠りが俺を包んだ。
翌朝朝食を済ませて魔道具店へ行くと、既に店の前でルチアが待っていた。
「おはようルチア。ごめん、待たせちゃったかな。」
「ううん、それじゃギルドへ行く前に入って。周りに人の多いギルドでカードを見せるのもちょっと嫌だし。」
そう言って招かれたのは四畳半程の部屋にテーブルに椅子が2脚設えられた魔道具店の商談スペースだった。
ルチアがギルドカードにステータスを表示させて渡してくる。
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ルチア
年齢:16
ギルドランク:銅 ギルドレベル:1
特技:短剣
種族:猫人
加護:なし
契約:なし
レベル:2 経験:10/120
スキル:短剣術2、暗視、嗅覚強化、聴覚強化
体力:35/35
魔力:21/21
腕力:11
器用:15
敏捷:17
知力:9
耐久:8
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レベル2としてはバランスもいいし、スキルも流石獣人種といった感じの感覚強化系。
「これなら、余り素早くない魔物だったら2人でも倒せそうだね。ルチアには撹乱と牽制をしてもらって俺が魔法で攻撃って感じかな。」
「昨日みたいに身体強化して一緒に戦うのは?女の子を矢面に立たせるのはどうなの?」
「あれは不意打ちだったし、準備がいるうえに昨日俺の能力値見ただろう?元がひ弱なんだよ。効率悪いよ。矢面にって言っても、昨日の身体強化ならルチアにかけるよ。討伐対象のところに行くまでに試してみよう。他にも魔法は色々試してなるべく安全を図るからさ。今のところ思考分割の限界も判ってないしね。」
「は?4分割が限界じゃないの?変態?」
「なんでだよ!どっから変態に繋がった!?」
「だって4分割でも人間離れしてるのに、それ以上ってもうどういう状態なのよ。もう人外じゃなきゃ変態しかないでしょ。」
「いやいや待て待て。論理になってないだろ。まあ4分割が限界かもしれないし、とりあえずギルド行って依頼受けよう。話はそれからだ。」
そんなわけで2人でギルドに行くと掲示板を物色する。
あーだこーだと相談した結果、緑小鬼の討伐依頼を受けることにした。
豚鬼に追い立てられたのか、キエフ郊外の農場に出没するようになったとか。2、3匹が現れては農作物を荒らしたり農作業をしていた農夫が襲われたりしているらしい。確定では無いが、恐らく大きな群ではなく、数匹がはぐれたものだと思われる。
想定される遭遇ポイントはおよそ街から1時間。野営の準備はせず、装備だけして水筒と簡単な昼食をもってルチアと2人街をでた。
時間もあったので、雑貨類の買い出しを済ませてから出発したのは言うまでもない。ちょっとルチアには怒られたが。
街から1時間、緑神の森の手前までやってきた。
「余り離れないようにして、マルファさんに教えられた通り、痕跡を探してみよう。」
「分かった。猫人族の感覚、頼りにしていいよ。」
そう言って熟練傭兵のようにニヤリと笑う。いや、そのつもりなのだろうが…猫耳垂れ目のほんわか美少女がそんな表情しても、頼もしいというより萌えるがな。
「見つけた!こっち、このあたりから森に入った跡が続いてるよ。」
2人とも武器を抜き、気配に気を配りながら、森に入っていく。15分程も跡を追うと鬱蒼と茂っていた森が少し開け、明るくなっている様が見える。と、気配察知にこれまで引っかかっていた小動物とは異なる反応がひっかかる。
そっと、ルチアの背中を叩き、合図を送る。ルチアの耳も緑小鬼の声を聞きつけたようで頷いてくる。
慎重に森の中に身を隠しながら緑小鬼に近づいていく。
2匹。少し開けたそこには小川がながれおり、川辺に熾された焚き火の脇に、緑色の肌に鷲鼻の小柄な姿が見える。少し尖った耳に額の小さな角。間違い無い。緑小鬼だ。2匹しかいないならいいが、戦闘中に背後を突かれると困る。情報では2、3匹となっていた。2匹だけと考えるのは楽観的過ぎる。
ええい、迷っている間に離れているたろう緑小鬼が戻ってきて挟撃の方が戦況をコントロールできない。気配察知に意識を割いておいて、瞬殺各個撃破でいこう。予めきめておいた合図をルチアに送るとルチアが離れていく。
心の中で10数えたあと、小さく詠唱を開始する。
「炎よ、御身を大きく広げよ、風よ炎を抱いて荒れ狂え、炎の嵐!」
焚き火を中心に、炎が大きく吹き上がり緑小鬼を包む。突然の事態に驚き苦鳴をあげる。ただ大したダメージにはなっていない。畳み掛ける!雄叫びを上げて緑小鬼にむかって行く。
慌てて緑小鬼どもが傍らに置いてあった錆びた小剣を構えてこちらに向き直る。
勢いよく片側の緑小鬼の剣に短剣を叩きつける。火傷の痛みもあるのか呻いて緑小鬼がよろける。2対1で捌けるような技量の持ち合わせが無い俺はすかさず背後に跳びすさり、もう1匹の振り下ろす剣をかわす。危な。
かわされた事と魔法の痛みに怒りを剥き出しにしてそのまま緑小鬼が剣を振りかぶる。
その瞬間、緑小鬼の背後から「ギィッ」ドサッと続けて音がする。完全にこちらに注意を向けていた緑小鬼達に忍び寄ったルチアが、体勢を崩していた緑小鬼の延髄に短剣を叩きこんだのだ。ありゃ即死だな。
慌てて剣を振り上げていた緑小鬼がルチアに向き直る。
「風よ、風よ、圧縮せよ、槌となりて彼の者を撃て、風槌」
すかさず風のハンマーを緑小鬼の後頭部に放つ。つんのめるようにして倒れ込んだところをルチアが短剣を先程同様延髄に差し込んで終了。
「保険は掛けてるとは言っても、割と綱渡りだなあ。魔法もそこまで威力が無いし、3匹いたらキツかったな。」
「そうね。街では私が撹乱、牽制なんて言っていたのに結局コーキがやってるし、魔術士なんて後方にいるものだと思っていたわ。」
「一撃死させられそうな火力があるなら、それを生かした方がいいだろ。」
「コーキの魔法で底上げしてなければ、私にもそんな力は無いけどね。」
そう言ってルチアが苦笑する。
「さて、一応周りを警戒しながら討伐証明部位を切り取ってしまおう。角だったよな。まだ居そうだし、さっさと済まそう。」
そう言った瞬間だった。気配察知に緑小鬼らしき反応がかかる。4匹。囲まれていた。
大体1シーン1話にするはずが少しいつもより長くなったため、引いて区切り。
ちょっとだけ経験値プラス
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コーキ
年齢:31
ギルドランク:銅 ギルドレベル:1
特技:魔法
種族:魔人
加護:黒神の加護
契約:黒神レベル2
レベル:5 経験:112/450
スキル:致死の未来、思考分割、気配察知、生存の二重化
体力:45/45
魔力:9,999,997,512/9,999,999,999
腕力:8
器用:10
敏捷:11
知力:15
耐久:9
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