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11.ルチアの願い

10,000PV突破。御覧いただいている皆様、本当にありがとうございます。

 防具屋では特にイベントもなく、動きを阻害しない革製の部分鎧を銀貨18枚で購入した。いや、小さなイベントならあったか。ルチアさんが凄い勢いで値切ってくれて、革は革でも銀貨50枚のカレフ牛の革鎧のパーツを必要な部位のみ買わせてくれた。

 カレフ牛は鈍重な動きで比較的狩りやすい魔物だそうだが、その強靭な体表によって生半な攻撃は弾いてしまう。銅ランクの獲物ではあるが、大抵は落とし穴などの罠にかけて捕らえるそうだ。運良く仔を捕らえられた際には馴らして農作業に従事させたりするらしい。

 肉も美味いということで、定期的に狩りの依頼が出ている。その副産物として装備品に利用される皮は、魔物の素材としては比較的安価に流通している。

 そう、あくまで比較的(・・・)なのだ。パーツ取りとは言っても胸当て、肩甲、腕甲、臑当てと主要パーツを取っているため本来なら8割位であっても納得の価格だろう。36%って。

 うむ、やはりルチアさんには逆らうべきではない。


 で、防具屋に行った後何をしているかというと、ルチアさんとお茶を飲んでいる。お礼にお茶を御馳走したいと言われ、傭兵ギルドから程近いこの店にきた。夜は騒がしい酒場になるようだが、まだ客もまばらで酒ではなくお茶が供されている。ここは傭兵ギルドの職員が休憩に来たりもするようだ。夜になれば仕事を終えた傭兵達もこの店に来て騒ぐ事も多いという。


 この店に来てお茶が来るまでは明るく話をしていたルチアさんだったが、今はカップを持ったまま黙り込んでいる。ハッキリ言って気まずい。

 やっぱりあんなことがあったら傷付くよな…。歳の離れた妹みたいだし、力になれるといいんだけど…。兄弟もいないからどう接していいかわからん!


「「あの!」」


 うお、かぶった。身振りでお先にどうぞ、と示す。


「えっと、今日会ったばかりでこんなこと…。あの、できたら…」


 まさかの告白キタ!?ここに来てリア充炸裂!?


「私と組んでもらえませんか!「喜んで!」


 あれ?食い気味に応えたものの、ナニカオカシイ…。


「良かったぁ。コーキさん優しそうだけど、断られたらどうしようかと思ったわ。」


 はにかんだ笑顔が誠に可愛らしい。もう何でもいいかー。


「ええと、組む、と言うと傭兵のパーティ登録のことですよね?」


 そう、この世界の傭兵ギルドでも、定番仕様、パーティ登録がある。パーティを編成するには、誓約の石という魔道具を介してメンバー全員が誓約を行えばよい。依頼で偶々一緒になったなど、一時的なパーティであればこれだけでよいが、継続的なパーティの場合はギルドに登録する。パーティを組む最大のメリットは魂の力(=経験値)の分配がある。仮にパーティメンバーが直接戦闘していなくとも、その場にいれば経験値が配分される。しかも、謎な事に、配分される経験値は人数割りしたよりも多くの量が得られる。流石に1人で戦ったときよりは減るが。よって、一時的にせよ、継続的にせよ複数人で戦いに赴く際にパーティを組まない理由は無い。


「ええ、そうなの。言って無かったけれど、私も先週傭兵登録をしたのだけれど、独りではなかなか討伐系の依頼が受けられなくて…。」


 ん?積極的に戦闘を欲するようなタイプには見えないけどな。それに、エフレムさんの魔道具店はそれなりに常連客がいるみたいだから、収入的な不安は無さそうな気がするが。いいや、聞くか。


「何でまた、討伐依頼なんか受けたいんですか?命の危険はありますし、見たところそこまで戦闘に長けているわけでも無いですよね?経済的な問題も無さそうですし。」


「まず、パーティになるんだし、敬語は止めてくれない?」


「分かったルチア。これで良い?」


「ええ。それで討伐依頼を受けたい理由なんだけれど。手っ取り早く強くなりたいからなの。地道に訓練しても良いのだけれど、それでは成果が出るまでに時間がかかるから、すぐには今日あったような事に対処出来ないでしょう。」


 そんなにこの街は治安が悪いのか?その疑問が顔に浮かんだのだろう。ルチアが言葉を継いできた。


「今までは、お兄ちゃんの手伝いでも問題無かったの。お兄ちゃん、魔道具職人だけど、紅神レベル10と灰神レベル10の魔術士でもあるから。今日、お兄ちゃんの様子を見たでしょう?いつもああだから、この街の人が私に乱暴してくることなんて無かったのよ。あの男が来るまでは。」


「あの男っていうのは?余所者で地位のある下衆野郎な感じ?」


「あら、良く判ったわね。


クズネフっていうノルブ伯の三男が紫鷹騎士団の一部を率いて青鳩騎士団と交流するとかでキエフを訪れているんだけど、この一部っていうのが本当にどうしようもない奴ばっかりでね。貴族の三男とか四男とかでプライドは一人前以上、実戦経験も無いくせにレベルだけ上がっているから変に力はあるけど臆病者。その筆頭がクズネフなんだけど。素行が目に余るってことで、青鳩騎士団に鍛え直してもらうために送り込まれたって、もっぱらの噂よ。


それだけなら良かったんだけど、どこで聞きつけたのか、お兄ちゃんの魔道具の事を知って、うちの店に来たのよ。


えらっそーに、魔道具の聞きかじりの知識をベラベラ並べ立てたら、お兄ちゃんたらクズが理解できない所までしつこく説明したあげく、サッパリ理解されてないってのが判った途端、あからさまに失望した顔して干しブドウをひとつ渡してクズの頭を撫でたあと、こう言ったのよ。


おうちへおかえり


って、クズの顔が赤を通り越してドス黒くなるのは面白かったけど、流石に契約レベル10の魔術士に喧嘩を売るのは怖かったらしくて、お兄ちゃんを睨み殺すようにして帰っていったの。


あれで悪気が無いんだからお兄ちゃんは本当に性質(たち)が悪いわ。


で、その翌日からよ。やたらとゴロツキに絡まれたり事故に合いそうになったり。真正面からお兄ちゃんに報復出来ないもんだから、私にってことでしょうね。


仮にも貴族だから訴え出てもマトモに取り合ってもらえないだろうし、護衛を雇い続けるようなお金は流石に無いし、自分が強くなろうと思ったの。」


 対人がなってない兄に、脳筋の妹……しかも既にトラブル持ち……神様、俺は何かやらかしましたか…。


 いや、いい方に考えよう。レベルによって身体能力を上げられるといってもソロでやってたら、有限なリソースを分散させなければならない。前衛をやってくれる仲間は願ってもない。そしてなんと言っても猫耳ルチアは大変に可愛い。そう、感情に合わせてピコーン、ピコピコ、ヘニャと表情豊かに動く猫耳を装備した美少女、これを逃していつパーティを組む!?今でしょ!


「大体事情は分かったよ。俺も魔術士独りじゃ心許ないと思っていた所だから、こちらからお願いしたい位だよ。それじゃあ、ギルドに行ってパーティ登録しちゃおうか。遅くなってまた襲われても困るから登録したら送っていくよ。明日三刻半に迎えにいくから、何の依頼を受けるか相談するってことでいい?」


「うん、そうしてもらえる?」


 そうしてすっかり冷めてしまったお茶を飲み干すと2人でギルドへ行き、パーティ登録した。


「そうだ、コーキはレベルいくつなの?私はレベル2なんだけど。」


 家まで送る途中、ルチアが思いついたように聞いてきた。登録したてじゃたかがしれてるのは分かっても互いの実力が分からないのは困るよな。


「単にレベル?契約レベル?」


「両方。」


「レベル5で契約レベルは2だね。面倒だしギルドカードを見せるよ、互いの特徴が分からないと連携も難しいしどんな依頼を受けていいか判らないしね。」


 俺の一部異常なステータスを見せるのは躊躇われるけれど、パーティ登録時に「仲間を裏切らない」という誓約を立てているし大丈夫だろう。いつまでも隠し通すのが無理なら最初に見せてしまった方がいい。


 丁度路地に入ったところで、端に寄ってギルドカードにステータスを表示させると、ルチアが覗き込んできて、そのまま固まった。


 ……まあ、そうなるよな。

タイトルに続いて、人名もネタが尽きてきたため、それっぽいオリジナルになってきています。

途中までスラヴ系で統一していたのですが。

思ったよりもスラヴの名前が転がっていない…。

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