10.魔道具
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店は一言で言って、混沌だった。大体8畳程のあまり広くない店舗は、入りやすいという概念を拒否するかのように薄暗く、棚には溢れる程の商品が無造作に積まれ、あまつさえ一部の商品(ぱっと見ゴミにしか見えないが値札が括り付けられていた)は棚の隙間の通路?に落ちていた。いかにもな感じの魔術士用の杖が節くれだった長いスタッフから先端に水晶が埋め込まれた短杖まであり、よくわからない人形や仮面(目元を隠すタイプ、顔全体を隠すもの、アフリカの大地と共に暮らす方々が使用する大型のものなどなど)、店内奥の店主のカウンターを兼ねたショーケースには大小形状様々な石や、指輪、ネックレスといった装飾品が収められていた。
怪しげな骨董品店と言われて想像すれば目の前の光景とそれ程違いは無いだろう。
こういう雰囲気はむしろワクワクするし好きな方だ。
カウンターの向こうにはルチアさんと同じく薄茶色の髪に同色の猫耳がちょこんと生えた、ぼんやりとした目をした男性がいた。
もう少しハッキリした表情をしていれば顔立ちは整っているし、モテそうな感じだが気怠そうな雰囲気が残念度を上げている。
この人が店主のエフレムさんだろう。
俺達が店に入っても、ぼーっとカウンターに頬杖をついている。
お客もいないし、経営は大丈夫なんだろうか?
「ただいまお兄ちゃん、パン買ってきたよ。ラドヴァンさんはもう帰ったの?」
「ああ、ルチアか。お帰り。この前作った結界発生の魔道具を気に入ってくれてね、即金で買ってくれたよ。短杖も新調してくれたから、金貨2枚分の利益だよ。今年はもう働かなくてもいいよね?」
うん、残念な人だ。ただ臆病者の巣窟の主が紹介するってことは腕は良いのだろう。
ちなみに、この世界は一年の長さこそ元の世界と変わらないが、1ヶ月28日の13ヶ月となっており、このあたりは四季もあり、薄紅月が1月でおおよそ日本の4月相当、今は葉緑月で2月(=日本の5月)だ。要するに一年は始まったばかりと言っていいだろう。
「ダメに決まっているでしょ!お客さんも連れてきたんだから、ちゃんと働きなさい!コーキさんは危ない所を助けてくれた上にダメにしたパンまで買い直してくれたんだから。」
「危ない所…?」
ヤバいヤバいヤバい!
エフレムさんから濃密な殺気が吹き出すのが素人の俺にもわかる。呼吸さえ苦しくなるようだ。
スパンっと小気味よい音とともにルチアさんがエフレムさんの頭を叩くと、殺気が収まる。
「もうっ、大丈夫だったんだから変なこと考えないの!悪い奴はコーキさんがやっつけてくれたんだし。ごめんなさい、着替えてくるね。こんなでも魔道具職人としての腕は確かだから。」
後半部分を俺に向けて言うと、そそくさと店の奥に消える。
「コーキさん、だったね。妹の危ない所をありがとう。何があったんだい?」
「ゴロツキ二人に乱暴されそうになっ「そのゴロツキはどこだい?この世界に生まれ落ちた事を後悔させなければならない。」
再び殺気を吹き出しながら、髑髏の意匠に黒っぽい石が嵌め込まれた禍々しい感じの短杖を取り出す。
「お兄ちゃん!」
ヒュルルル、スコンッ!店の奥から飛んできた木の器がエフレムさんの後頭部に命中すると、やはり殺気が薄れる。
「すみません。腕っ節に自信が有るわけでは無いので、後悔する暇は与えられませんでした。本来性犯罪者には生き地獄を味わわせるのが相応だと思うのですが、地獄には送り込んでおいたので安心して下さい。」
「そうか、良くやってくれた。しかし、妹はとても可愛い!君もムラムラ来るのは間違いないが、万が一手を出したらわか「お兄ちゃん!いい加減にして!」
ゴスッという音とともにエフレムさんの頭頂にまな板が振り下ろされる。
着替え終わったのだろう、若草色のワンピースを着たルチアさんがまな板を手に戻ってきていた。
「ごめんね。コーキさん。それで何の魔道具が欲しいの?」
「どんなものがあるのか、も知りたいんですが、まずは魔術の威力を増幅するような魔道具があれば。あと、出来れば魔道具の仕組みなんかも知りたいかなと。」
「強化したい属性はなんだ?複数属性使えるならそれも可能だが、強化の度合いは下がるぞ。」
お、エフレムさんが復活した。
「風ですね。値段にもよりますが何分今日傭兵登録したばかりの新米ですからそこまで持ち合わせがありません。」
「であればいくらまで出せる?増幅具は特に値段によって効果が全く違うからね。」
「防具も欲しいので、銀貨15枚が限界かなと思っていますが。」
「契約レベルは1か2ってところだろうから、それなら防具や道具類を充実させた方がいいかな。大体15枚で買える単属性強化の倍率は1.1倍が精々だから。」
なるほど、ゲームで時間あたりダメージを競うような状況でも無い限り、防具より優先するほどの価値は無いな。
「そうですか、後は魔道具の仕組みは教えて貰えるようなものですか?」
「概要程度なら問題無いけど、実際の製品の仕掛けとなると、職工ギルドに登録して、使用料を払う必要があるよ。」
特許的な管理でもされてるのかね?
「概要の方で構いません。」
「魔道具の要素は2つ。魔晶石と魔術刻印だ。
魔晶石は魔物の体内に稀に形成される魔力の結晶だな。強力な魔物程、魔晶石は出来やすいし、質の良いものが取れる。これが魔道具のエネルギー源になるわけだ。魔晶石は元々、または精製時に属性を帯びる。ここで魔道具の目的などとの相性が発生する。増幅具で特に顕著だな。何故用途を狭めてまで精製するかと言えば、その方が遥かに効率が良いからだ。無属性の魔晶石は有属性の魔晶石の1/4の使用で魔力が枯渇する。その上、魔力を徐々に周囲から吸い込む魔晶石だが、その効率も1/4程度。
次に魔術刻印だ。こちらが魔道具の効果を決める。簡単な刻印は公開されているが、大体の刻印は職工ギルドで管理されている。さっき言ってたのはこれだな。魔術刻印は、魔術における意志と詠唱を代替する。魔術に優る点がここだ。魔術は発動までに時間がかかるし、術者の集中が途切れれば魔術が止まってしまう。寝ている間のための魔物除けなんかが良い例だな。」
ふむふむ。バッテリーとプログラムみたいな感じだな。実に面白そうだ。魔晶石を入手して是非自作したいな。
「大体わかりました。ありがとうございます。それじゃあ特に買えるものもありませんし、私はこの辺で。」
「ちょっと待って、コーキさん、道判るの?ここ、かなり入り組んでいるから表通りまで戻れないんじゃない?お礼も出来てないし、案内させて!」
そう言われてみれば確かに。うん、防具屋どころか宿に帰れる気がしねえ…。ここは甘えるかー。
「確かに不安ですね。お願いできますか?」
「イカーン!!そんなこと言って妹を手込めにする気だな!!」
ゴスッ、と再びまな板が後頭部に振り下ろされる。
「じゃあ、行きましょうか。」
何も無かったかのようにニッコリとルチアさんは笑いながら言う。この娘には逆らわないようにしよう…。
決意とともに、2人で防具屋に向かう事にした。
買い物しているだけなので、ステータス変動無し。
お金は減っていますが。
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コーキ
年齢:31
ギルドランク:銅 ギルドレベル:1
特技:魔法
種族:魔人
加護:黒神の加護
契約:黒神レベル2
レベル:5 経験:0/450
スキル:致死の未来、思考分割、気配察知、生存の二重化
体力:45/45
魔力:9,999,999,899/9,999,999,999
腕力:8
器用:10
敏捷:11
知力:15
耐久:9
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