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Prologue
幽霊の存在を信じていなかった。亡霊の存在を無視していた。怨念の存在を認めていなかった。
心霊現象なんて、ファンタジーでしかありえないと思っていた。
そんな俺を嘲笑うように奴はいつの間にか現れ、日常に非日常の亀裂を走らせていた。
無差別に人を殺して、殺して、殺しながら―――少しずつ近づき、侵食していた。
理不尽な理由で不幸にも死亡した人物の念が、いつまでもこの世に残っていたとしよう。
怨念をぶつけるべき相手の所在が分からない、やり場のない憤りをどこに発散させればいい、と悩んだとしよう。そんな時、とる行動といえばこれしかないだろう。
「周りの人間を無差別に攻撃する」。
何の因果か因縁か、俺はこの呪いに行き合った。
妄執の亡霊、カシマレイコ。
長きに渡って怨念を抱き、この世をさまよい続ける亡き者に。
俺の夏は取り憑かれた。