Cr's are Thinkerー深く、淀みへー
「あっはっはー! バッカねー!」
向かいに座るリーシャが手を叩いてけらけらと笑う。貴族の上品さも何もなく、目に涙まで浮かべてやがる。
セシウに殴られた右の頬に、冷水が注がれたコップを当てた俺は、口を半開きにしながら渋い顔になる。あー痛い痛い……。じゅくじゅく痛む……。左の頬を差し出す勇気はない。
「あんま騒ぐなよ、響く……」
「あはは、ごめんごめん。でもおかしくて、あっはっは!」
必死に笑いを堪えて謝ったリーシャは、すぐに堰を切って笑い出す。
俺が殴られてそんなに嬉しいかよ。
俺とリーシャの間に座るスーツ姿のセシウは居たたまれないような、申し訳なさそうな表情で俯き、それでも大量の料理をほぼ平らげかけていた。
「貴方も面白いけど、セシウもなかなかよ。それでバレないと思ってたの?」
一頻り笑って落ち着いてきたのか、目に浮いた涙を拭ったリーシャがセシウに問いかける。
セシウは自分の身なりをサングラス越しに見下ろし、そして心底不思議そうに眉根を寄せた顔で俺たちを見た。
「完璧な変装だと思ったんだけどなぁ……。胸も潰して、息苦しいの我慢してるんだけど……」
そんなに思いっきり潰してんのか。それでもシャツの布地を押し上げて主張してくる辺り、こいつの発育ってすげぇな。昔は嫌でも少年に間違われてたりしてたのに、もうそんなことはありえないだろう。
悩ましげにセシウに対して、リーシャは少しばかり不満そうだ。
「贅沢な悩みねー。まあ、まずは胸よりも髪をなんとかすべきだったんじゃないかしら。貴女の髪は良くも悪くも目立つのよ」
「え!?」
ばっとセシウは自分の頭を抱えるように両手で髪に触れる。
「あ、アタシの髪型ってそんなに変ですか!?」
「違うわよ」
「違ぇーよ」
あまりにも的外れな心配に二人揃って否定してしまう。
こいつってたまに驚くほど鋭いのに、それ以上におかしなところで鈍感だ。
「貴女の髪色は目立つのよ。そんなに綺麗な赤い髪見たことないわよ?」
「え? あー、確かに、今まで見たことないかも……って綺麗じゃないですよ!」
頬を紅潮させたセシウがテーブルから身を乗り出して、必死に否定する。テーブルに積まれた空いた皿ががちゃがちゃと揺れた。
そんなセシウの気迫に気圧されることもなく、リーシャは苦笑していた。
「綺麗よ。炎みたいに鮮やかな赤、素敵じゃない。私は好きよ」
にっと歯を見せて笑うリーシャにセシウが面食らい、次の言葉を見失っている。
こいつの魅力は女性にも有効らしい。まあ、そうだろうな。その上でこの殺し文句だもんな、俺も参考にしよう。
とりあえず今は頬が痛いんで、静観に徹する。
殴られた拍子に吹っ飛んであっちこっちに体をぶつけたらしくて、もう痛い箇所が多くてどこが痛いのかもよく分からない。
俺もリーシャも、なんでセシウが変装までして、俺たちを見ていたのか、その理由は聞かない。お互い意図的に避けていた。
何となく察しはついている。
リーシャはその立ち位置の関係上、触れればセシウを苦しめることになることが分かっているんだろうし、俺は俺でそれを認めればいろいろと俺の内心の整理がつかなくなるし、わざとらしく訊ねて曖昧な答えをわざわざセシウにさせるほど無自覚な馬鹿でもいられなかった。もうこんな逃げ方も十分すぎるほど卑怯だとは分かってはいるが、向き合う方の勇気は俺にないし、これ以上に知らぬ顔をしてセシウを突き放してやれるほど優しくもなれない。
汚いなぁ、俺ってば。
「あ、あの……!」
ずっと俯いていたセシウが上擦った声で何かを言おうとする、が意を決したのであろう言葉は続かない。
俺とリーシャは何も言わない。リーシャはテーブルの上に腕を交差するようにして載せ、セシウの次の言葉を黙して待つ。
セシウは申し訳なさそうに俯き、何かを躊躇っていた。力みすぎる肩から、ここからは見えない膝に載せた手が握り締められているのだろうと予測する。
上目遣いで俺たちの顔を交互に見て、セシウはまた目を伏せた。
「せっかくの時間なのに邪魔してしまって、本当にすみません……。邪魔しようと思ってはなかったんですけど……その……」
その後の声はあまりにもか細く、俺たちでは聞き取れない。それでも言わんとすることは分かった。きっとリーシャもそうなのだろう。
茨を持つとされる少女はそっと、薄く、包み込むような微笑を湛えて、俺を一瞥した。
慈母のような表情は、しかし少しだけ翳っているようにも思える。そう感じる理由が俺には分からないが、それでも何か哀しみを堪えているように見えてならなかった。
何か言葉をかけようとする俺を待つこともなく、リーシャは俯くセシウの赤い髪に目を戻した。
「別に気にしなくていいわよ。こいつだけしか話し相手がいなくて私も疲れてたところよ。セシウがいてくれたら、こいつの面倒くさい話し方にばっか付き合う必要もなくなるしね」
呆れ混じりの声でリーシャは言っているが、先程までそんな様子はなかった。今までは隠していたという可能性もなくはないが、恐らくは嘘なのだろう。
「余計なこと言うんじゃねぇよ。俺の話術で退屈しないだろ? これで俺が口下手だったらそれはそれで文句言うに決まってるって俺知ってるからな。それなら俺は断固として喋り続けて、気まずい沈黙を回避する方を選ぶな」
「はいはい、分かりましたよ、分かりましたからちょっと静かにね」
セシウのための嘘だと分かった上で、俺はあえて反論する。そしてリーシャは今までもそうであったような口ぶりで、心底付き合いきれないような風情で俺の言葉を流す。
何気ない、簡単な意思疎通が、しかし分かりきっていると思えてしまうことが、どうしてかこそばゆかった。
「ほらね? こいつ、いつもこんな感じなんでしょう? ならセシウの方が扱い慣れてるだろうし、正直助けてほしいところだったのよ」
リーシャに曳かれるように、落ち込んでいたセシウも自然と苦笑する。
「酷ぇ言い様だな。まるでクロームみてぇだ。どいつもこいつも俺を邪魔者扱いしやがって」
「もう、そういう風に言うから、そういう風にしか言われないんだよ」
さらに繋げた俺の言葉に、セシウは控えめにでも笑って返してくる。
それでこそセシウだ。こいつは楽しそうに笑っているのが一番似合っている。テーブルを挟んだ向かい側に座るリーシャをちらりと一瞥すると、安心したような微笑みでセシウの笑顔を見ていた。
今まさに、残った料理を勧めるリーシャと、それをあたふたとしながら遠慮しているセシウを眺め、この調子なら大丈夫だろうと安心する。思いがけないセシウの登場だったが、俺にとっては却って好都合だったかもしれない。
そうとなれば、即行動だな。
「悪ぃ。ちょっと席外すから、適当に時間潰しててくれねぇか?」
立ち上がる俺に、残った料理を楽々と食べていくセシウと、その食いっぷりに驚きを通り越し、頬杖をかいて見惚れていたリーシャが顔を上げる。
「あら? 一体どうしたの?」
「お前、自分がそういった場合ってどういう状況? それが分からねぇとモテねぇぞ?」
「そうね。女性にそう返す時点で、あんたが邪険にされる理由も分かるというものね」
俺とリーシャの会話に挟まれたセシウが、ロブスターの尾を口から出したまま首を傾げている。意味が分かってないらしい。
まあ、懇切丁寧に説明する必要もないし、俺はさっさと用事を済ませるとしよう。
「あ、あと、セシウ」
「ん? あに?」
多分「何?」と言ったんだろう。ロブスター咥えたまんまだから、発音が疎かだ。
「多分それじゃ食い足りねぇだろ? 適当に注文して好きなの食ってていいぞ」
俺の気遣いに、セシウは目を丸くし、ロブスターの尾を掴んで口から引き離す。驚くことに、咥えていた部分は身が完全に消失していた。この短時間にこいつの口の中で何があったんだろう。やだ、怖い。
「いいの?」
「あんま持ち合わせねぇから食い過ぎんなよ?」
「はーい!」
食えると分かると聞き分けがいい。素直に返事するセシウの屈託のなさはいいところだし、特に文句もないし、正直扱いやすくて助かる。
俺は二人を残して席を離れ、歩いていく。二人の目から逃れるように曲がり角をのんびりとした歩調で曲がり、その瞬間から一気に駆け出す。
あまり時間がかかると怪しまれるだろう。手早く済ませてしまおう。
〆
クロームが戻ると、そこには誰もいなかった。
違う。人はいる。溢れかえっている。数多くの種族が大きな河となって、目抜き通りを流れていく。
最初は、だからこそ分からないのだと思った。いないように見えるだけで、人混みの中に見慣れた姿があるはずだと。
しかし、どれだけ辺りを見回そうと、目深に被った灰色のフードも、夏に近付く陽気の中では暑そうなローブも見当たらない。
胸に焦燥が絡みつく。何か嫌な予感が、冷たい手となって首筋をそっと撫でた。
背に冷や汗が伝い、クロームはいても立ってもいられずに動き出す。
名も生い立ちも分からぬ人々の中、たった一人の小さな姿を探して広い通りを進んでいく。
悪目立ちして正体を気付かれる可能性のために、声を上げて呼びかけることができないのが歯痒い。
一人でどこかに行ってしまうような者ではない。
もしかすると人混みに酔って、人気のないところに避難しているのかもしれない。悪い予感を押し殺すように、都合のいい理由を考えながら、クロームは路地へと進む。
大通りには店が立ち並び、見世物が続き、人も溢れかえっているのに、狭い路地へ入り込んでいくと、人の影は途端に絶える。まるで別世界だ。今までいた場所と、この翳った路地が同じ街の風景とはとても思えない。
祭り囃子に呼び寄せられ、或いは追い立てられ、忘れ去られてしまった路地を進む。
人の目がなくなり自然と歩調は早くなる。
「プラナッ!」
寡黙な剣士が珍しく声を張り上げて、名を呼ぶ。
縋るように、何かに怯えるように、名を呼ぶ。
滅多なことでは表情を崩さない剣士の顔に宿る感情は、彼をよく知る者が見れば目を疑うほどに剥き出しだった。
落ち着きなく周囲を見回し、何度も名を呼ぶ。
見知った姿を白銀の瞳は必死に探す。
光も入り込まない路地。祭りの喧噪も聞こえない深度に到達していく。
走り回り、呼びかけても現れる者はなく、人影にさえ出会わず、クロームは路地の只中で立ち止まる。
息を荒げ、空を仰ぐ。視界の端で動く何かを見つけ、クロームが弾かれたように目を向ける。脇道から現れたのは悪相の若者。後ろには同じく人相の悪い若者が三人。
「ようやく見つけたぜ」
我に返ると、周囲に剣呑な気配がいくつもあった。反対側の脇道からも悪相が数人現れる。路地の先、クロームの前方、同じく後方からも次々と分かりやすい悪漢たちが出てくる。
カジュアルな服装に、記号的な安物のシルバーアクセサリーやピアス。下卑た笑いに、くちゃくちゃとガムを噛む音、そして値踏みするような絡みつく視線がクロームを包囲する。
「灰色のハンチング帽にその眼鏡、間違いねぇな。別嬪とは聞いちゃいたが、思った以上に別嬪だぜ」
前方からやってきた一団を率いてやってきた男が、ポケットに手を突っ込んで歩み寄りながらクロームに言葉を投げる。三白眼が脅すようにクロームを睨んでいた。
この状況に臆することもなく、クロームは悠然と立ち、取り囲む者たちをゆっくりと見回す。白銀の瞳が前方に戻り、頭と思われる先程の男を眼鏡越しに睥睨する。その眼差しの鋭利さは、三白眼とは比べものにもならないほどの凶器だ。
「随分と俺たちを嗅ぎ回ってたようだな。何を考えてるのか知らねぇが関わる相手を間違えてんじゃねぇのか? お嬢ちゃん」
訳が分からず、クロームは眉根を寄せる。
「何か勘違いをしていないか、貴様ら」
クロームの通りがいい低い声を聞き、男たちが一瞬面食らったような顔をする。リーダーと思しき三白眼もそうだったが、すぐに調子を取り戻しクロームを睨んだ。
「ほう、まさか男だったとはな。残念だが、都合もいい。それなら思う存分いたぶれるってもんだぜ」
「背格好で気付け、阿呆が。こんな上背の女がいるか」
冷たくあしらわれ、三白眼が鼻白む。それでもすぐに立ち直り、残忍そうな笑みを顔に浮かべる。
立ち直りの早さだけは一人前だった。
「随分とコケにしてくれるじゃねぇか」
「事実虚仮威しだろう。俺は急いでいるんだ。お前たちの浅はかな遊びに付き合っている暇はない」
「岩に張り付くだけの草の虚勢はお前の方だと思うぜ? これだけの数に囲まれて……」
「コケ違いだ。無理をするな。浅学は滲み出るぞ?」
勘違いを指摘され、三白眼が硬直する。額には青筋が浮いていた。肩は怒りにわなわなと震え、開いた瞳孔がクロームを見据える。
「テメェ……! あんま調子乗ってんじゃねぇぞ。俺はキレっと何すんのか分かんねぇんだぜ? ぶっ殺されたくなかったら……」
恫喝するような言葉にもクロームは退屈そうに辺りを見回していた。そろそろ付き合うのも面倒になってきていた。
早々にプラナの捜索を再開したいところだ。
「貴様が何をしようが知らん。何でもするがいい。人違いなのは分かったんだから、もう用は済んだだろう?」
「ざっけんな! その生意気な態度が気に食わねぇんだよッ! 誰にンな口利いてやがンだッ! 躾けてやるよ!」
途端に背後から鉄パイプが横に振り抜かれる。クロームは即座に飛び上がり、フルスイングは空しく大気を押しのけるだけだ。
「威勢はどこぞの戦闘狂並だが、相手を見る目はないようだな」
優雅な跳躍に目を奪われた一団の真っ只中、空中で身を反らせたクロームは嘆息し、降下しつつ鉄パイプを空振った男の顔を蹴り抜く。
周囲の悪漢たちからは、男の体が突然横へ弾け飛んだように見えたことだろう。あまりにも早く、蹴りを視認することができなかった。
蹴飛ばされ壁に衝突した男の体が地面に落ちたところで、ようやく三白眼が我に返る。
「て、テメェら! 何やってんだ! 一気にやっちまえっ!」
男の指示に突き動かされ、男たちが着地したクロームに殺到していく。
迫る拳に対して、上体を後ろに引いてクロームが避ける。反った上体は地面とほぼ平行となっていた。
愕然とする男たちの顔を見上げ、クロームはもう一度嘆息する。
「全く、今日は厄日のようだ」
呟き、正面の男の顎を蹴り上げ、上体を起こすと同時に浮き上がった体の腹部に左の拳を叩き込む。後方へ吹き飛んだ体が波濤に押し寄せる後方の群衆に衝突し、ドミノのように倒れていく。
羽交い締めにしようと背後から迫った巨漢の胸を振り返らずに肘で打ち、怯んだ間に両脇の男の顔面に拳を打ち込む。後方で怯んでいる男を蹴り飛ばし、倒れていく者たちの間を抜けて突っ込んでくる男に鉤突きで応じ、同様の反対側には上段回し蹴り。流麗に弧を描いた脚の接地と連動して、回転から放たれた拳が正面の男を殴り飛ばす。
連動する動きで次々と迫る男たちに応え、一撃の下に全てが倒れていく。
数に任せて押し切ろうとしても、クロームに隙はなく、連携も取れていない勢いだけの猛進では触れることすら叶わない。物量的有利で優勢を確信していた男たちはそれが幻想であることに気付き始め、クロームの周囲に倒れ伏す仲間を見て戦意を失っていく。
遠巻きに立ち尽くす男たちの中心で、クロームは汗一つかかず、息すら乱れていない。三白眼に視線を戻し、クロームは肩を竦めてみせる。
「相手を間違えたのはお前たちのようだぞ?」
その常識外の強さに圧倒されていた三白眼が我に返る。
「テメェら何やってんだ! さっさとこいつをやっちまえ!」
脅すような指示に対して、誰も動かない。互いの顔を見合い、口を閉ざしている。
どれだけ数で迫ろうが勝てないことなど分かりきっていた。それでも向かっていくほどの気概も勇気も無謀さも覚悟も、彼らにはなかった。
彼らを見て、手下たちの無能さに歯噛みしている三白眼をクロームは笑う。
「お仲間は使えないぞ? 猿山の大将気取りよ」
「うるせぇ! ナメてんじゃねぇぞっ!」
無意味な怒鳴り声を上げ、三白眼がクロームへ正面から向かってくる。疾走の中、ポケットから取り出した何かが煌めく。踊るように展開されたのはバタフライナイフ。
クロームの目は変わらず退屈そうだ。
ナイフを両手で握り込み、突っ込んでくる男をクロームはひらりと寸前で横に避け、爪先を男の踏み込んだ足の脛にひっかける。簡単に体のバランスが崩れ、三白眼の足が縺れ、勢いのままに顔面から地面に転がり込む。
「踏み込みが甘い、などという程度の話ではないな」
呆れを通り越して、哀れむような声で言って、クロームは無様に倒れる男を見下ろす。
起き上がった男は歪めた顔の中心を手で押さえていた。無骨な手の下から滴る赤い滴、どうやら鼻血を出したようだ。
先程までの威勢のよさは消え失せ、顔はすでに怯えきっている。肌を刺すようなちりちりとしたクロームの怒気に気圧されていた。
「さて、お前たちには分からないだろうが、これでも俺は善良な人間とされている。それは貴様のお仲間が一人たりとも死んでいないことから察してほしい」
言いながらクロームが歩み寄る。男は助けを求めようと、周囲の仲間たちを見回すが、彼らは凶相に気弱な躊躇いを貼り付け、ただ立ち尽くしている。クロームの実力の片鱗だけで圧倒されていた。
「手を出さなければ、何もしない。害さない者を害すようなことはしない。必要以上に痛めつけるつもりもない。ただし、お前だけは例外だ」
クロームが三白眼に迫るようにしゃがみ込む。短く引き攣った悲鳴を上げて、男の体が緊張した。美姫のような芸術品めいた相貌が三白眼の視界を埋め尽くす。その目には炯々とした剣呑な輝き。獰猛な肉食獣が手負いの獲物に狙いを定めた時の目だった。
「俺は、俺の顔を女性に例えられるのがたまらなく嫌いなんだ。思い出しただけでも血行が必要以上によくなってしまう。この熱量、少しくらい発散しても構わないだろう?」
唇の片端を吊り上げただけの笑みらしきものと獣の眼光に、三白眼は自分の軽率さを呪った。
鼠を捕まえるつもりで、彼らは竜の逆鱗に遊び半分で触れようとしてしまったのだ。
今更気付いたところで、いささか以上に手遅れの失態だった。