Unwelcome Cr—招かれざる言葉—
――貴方は覚えていないでしょう。
あの夜のパーティー。
煌びやかな装飾と、贅沢な食事、金に汚れた音楽、ご機嫌窺いの催し物ばかりの、絢爛豪華という言葉でケバケバしさを包み込んだ、よくあるいつものようなパーティーの最中。社交と飾り立てた陰謀と思惑渦巻く、おぞましいものが蠢動し続けるホールを抜け出した先のテラスで、どうすることもできない独り善がりの我が儘を言った私に貴方は優しく言葉をかけてくれた。
「お嬢さんは、いつかのお嬢さんが振り返ることができるように、今を生きるんだ。将来なんていう、いつまで経っても追いつかないもののために生きていたら、今が空っぽになってしまう。だからお嬢さんはもう少し自分のために生きることを知るといい」
そんな生き方を教えてくれたのは貴方が初めてだった。
知らないわけじゃなかった。できないと思っていたわけでもない。それで世界が激変するわけでもない。
それでも、そんな言葉を言ってくれる人が私にもまだいたということがたまらなく嬉しかった。
眩しいだけだったシャンデリアが初めて美しく見えた。
言葉を彩る音楽の素晴らしさを知った。
痛みすら心地よい、胸の高鳴りを感じた。
貴方は、貴方自身の言葉がどれほど私を救ったのか、知らないでしょう。
だから、私との語らいの一時も、生き急ぐようなパーティーの一幕として埋もれてしまったはずです。
——貴方は覚えていないでしょう。
私が、貴方に救われたという事実を。
それでも貴方が私の心に咲かせた一輪の思いは、まだここに咲き誇っています。
3rd Story『La's Bathos—仕組まれた賛美歌—』