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Alternative  作者: コヨミミライ
Is Cr Duty or Obligation?―善良のカタチ―
50/113

Dispatched Am―放たれた刺客―

 まだ日も昇りきらぬ午前中だというのに、街はいつも通り活気付いていた。人々の往来は激しく、軒先にて各々の商品を陳列した店々はまるで着飾っているようにも見える。騒がしくあり、穏やかでもある、この街にとっての日常の只中を俺たちはこっそりと歩いていた。

 先頭を並んで歩くのはクロームとプラナ。その後ろを俺とセシウが並んで歩いていた。

 クロームは目深に被った帽子に銀色の髪を突っ込み、気持ち俯き気味だ。顔を見られて勇者だと気付かれると騒ぎになって面倒だからな。この街に来てからはあれを被らせている。

 まあ、服とのコーディネイトも考えていないので、目立つっちゃ目立つんだけどさ。あいつの嫌でも人目を惹きつける端整な顔立ちと銀色の髪を晒すよりはいいだろう。

 俺たちの姿はあまり一般人に知られてはおらず、名前ばっかり出回っている感じなんだが、それでも最近は情報が広がりつつある。

 なんでも、勇者様は芸術のように整った顔立ちをした銀色の剣士というように知られているらしい。そりゃクローム見りゃ一発で分かるわな。

 美女二人と眼鏡を仲間として連れているっていうのもすでに出てるそうだ。

 この際セシウが美女と評されるという明らかな誤情報はさておいて、俺に関する情報の適当さをどうにかしてほしい。眼鏡ってなんだよ、眼鏡って。

 セシウやプラナは美女という点以外にもいろいろと外見の特徴が知られているというのに、俺だけは眼鏡だけだ。いろんな奴らに聞いて回ったが眼鏡だった。

 情報を広げた奴にもし今後会う機会があったら二、三発程度ぶち込んでやりたいところである。

「ねぇ、ガンマ」

「ん? なんだよ」

 隣を歩くセシウに呼びかけられ、俺は目は向けずに声だけで答える。

「あのさ、あれ」

 セシウが前方を歩くクロームの頭を指差す。一応名前を出さないように配慮したんだろう。そうでもない限りセシウは、人を指差したりしない。

「どうしたよ」

「似合ってないよね」

「おう」

 そりゃそうだ。

 クロームの服装と合うかどうかなんて一切考えてないからな。似合うわけがない。数ある帽子の中でも、クロームには一番似合わないであろうキャップである。

 セシウは小首を傾げ、俺の顔を覗き込んでくる。上目遣いで見るんじゃねぇよ。

 なんだか目を合わせづらく、視線をクロームの方へと向ける。

「なんであんな似合わない帽子なの?」

「俺が一番あいつに似合わないであろう帽子を選んだからな」

 勇者だとバレないようにと提案したのも俺だし、買ってきたのも俺だ。

 常日頃からいろいろ舌戦になっては負かされているので、その反撃といったところである。

 実際に被らせた時は予想以上に似合っていなくて、思わず笑ってしまいそうになった。

 セシウは呆れたように肩を竦めている。

「あんたねぇ……。クロームに怒られなかった?」

「思いの外何も言われなかったな、そういや」

 まあ、少なくとも外出の頻度は減ったわけだけど。似合わないからなのか、勇者という立場を少しは自覚してくれたからなのか、というのは分からんところだけど。

「考えてみりゃ今も文句言わずに被ってるし。正直、斬りかかられることも覚悟だったんだけどな」

「そう思ったなら少しは自重してよ。何事もなくてよかったけどさ」

 セシウは顔を前に戻し、心なしか強い口調で言う。どうやら気分を害してしまったようだ。ここは大人しく謝っておくに限るか。

「どう反応すんのか気になってつい、な。悪い」

「ガンマはいつもふざけすぎ」

 今度は俺が顔を覗き込もうとするが、セシウに顔を逸らされてしまった。

「分かってるよ、次からは気を付ける」

 言いつつ、俺はセシウの言動に引っかかりを覚えていた。

 ……なんつぅんだろ。なんかよく分からんけど、気になる点があった。

 クロームに対して嫌がらせをしたことに対する指摘に混じって、なんか俺の身を案じるようなことを言われた気がする。

 まあ、さすがにそれは自意識過剰なんだろうけど、なんか変な感じすんな。

 ……いかん。やめておこう。

 これ以上考えるのはまずい。

「ガンマは、さ」

 考えを振り切るように歩くことに集中しようとした俺に、またセシウが声をかけてくる。歩いているだけなのが退屈になってきたのだろうか、と一瞬思ったが、隣を歩くその横顔があまりにもしおらしく、茶化すことも憚られた。

 目を伏せ、唇を尖らせた、その表情にくらりとする。

「なんだよ」

 せめて誤魔化すように、俺の口調はぶっきらぼうなものとなった。

「もっと自分のこと大事にしないとダメだと思う」

「どうした、いきなり」

 らしくもないことを突然言い出すなこいつは。それにその言い方じゃ、俺がまるで自分を大事にしていないようだ。

「俺ほど自己保身に走ってる男はそういねぇぞ?」

「茶化さないで」

 いつものように返すと、セシウはいつもとは違う弱々しい口調で俺を制した。普段ならもっと喚いたり騒いだりするセシウに、そんな声で言われちゃ俺もそれ以上話を逸らすことができない。

「なんだかガンマはいつも危なっかしい気がする。なんていうんだろう、たまにこうすんごい無茶したり、わざわざ危ない方に行ってる気がする」

「そんなことはねぇよ。俺は自ら好き好んで危ない方に飛び込むようなことはしていない」

 君子危うきに近寄らず、とは東洋の格言だったか。あれが俺の信条と言ってもいい。俺はできるだけ安全圏にいるようにしてるし、身の危険を感じたら無理せず逃げる、プライドもない臆病者だ。そんな無茶なんてしていない。

「そうかな。確かに普段のガンマはそうかもしれないけど、たまにすごく無茶してるような気がする。村の時だってそうだった。なんかもう自分の命なんかどうでもいいみたいに突っ込んでいって、傷ついて、倒れても、辛いはずなのに立ち上がって、また突っ込んでいって……私の考えすぎなのかな」

「…………」

 思い当たる節はあった。

 村に仕掛けられた魔導陣を破壊する際の妨害を受けた時。

 魔導陣が発動してしまい自暴自棄になった時。

 カルフォルの圧倒的な力に俺たちが容易くあしらわれた時。

 確かに俺は、死んでもおかしくないようなことをしていたかもしれない。その全てにおいて、俺は頭に血が上っていて、記憶も多少うろ覚えなわけだが、確かに無茶だった気がする。

 感情的になって回りが見えなくなるのは未熟な証拠だな。

「私、あんまりそういうことしてほしくないな、って思う。そりゃやっぱり戦いの中ではそういう無茶をしなきゃいけない時もあるのかもしれない。クロームやプラナ、私だってそうしなきゃいけないことがあるよ、そりゃ。でもガンマのはなんか、いつどうなってもおかしくなさそうで怖い。私にとってガンマは大切な家族だもん、もしものことなんてあってほしくない」

「そりゃ俺がお前らと違って弱いだけだ」

 お前たちが多少無理を通しても、なんとかなるのはそれに見合った実力があるからだ。俺にはそれがない。だからお前たちと同じようにやると失敗する。

 たったそれだけのことだ。

 それでもセシウの表情は痛切のまま。どうにも俺まで胸が痛んだ。

「じゃあ、なおさらだよ。分かってるなら無理しないで」

「そうだな」

 苦笑するしかない。

 全く仰るとおりだ。

 俺は弱いんだからその辺を弁えて行動しなきゃならない。完全に足手まといだ。

 じゃあ、俺は、ここにいる意味があるんだろうか。一体、俺はこいつらに何を必要とされているんだろうか。何も必要とされていない気がする。

 元より頼られる部分なんてないのかもしれない。

 そう考えると、途端に惨めだな。

「それでも、やっぱり俺だって必死にはなるんだよ」

 ふっと、そんな惨めさを払拭するために口から出た言葉は、なんとも気恥ずかしい本音だった。

「もしものことがあったら、そう不安に思うのは俺もだ。俺にとっても、お前らは大切な仲間だからよ。そりゃあ無茶してでもどうにかしたくなる」

 言ってる自分がバカに思えてくる。

 本音ではあるけど、理由になっていない。答えているようで、全然答えていない。

 まともに会話もできていないなんて、どうしちまったんだか。

 セシウはゆっくりと俺を見上げ、そして微かに笑う。

 より一層、顔が熱くなり、俺はセシウから顔を逸らしてしまう。逸らさずにはいられない。

「他の連中には言うなよ。俺だって、こう、柄ってもんがあるんだからよ」

 もしこれを二人に言われたら、何を言われるか分からない。プラナはまだしも、クロームは絶対に後でさりげなくからかいに来るだろう。あいつは俺に対してそうなのだ。

 そういうことになるのは困る。俺が今まで築いてきたキャラが崩壊しちまう。

 でもセシウはくすくすと楽しそうに笑う。

 それで、ああ、よかったと思っている自分がいた。結局そこなんだろう。理由になっていない答えを言ったのも、それが理由なんだろう。

「やっぱりガンマはガンマだね」

「なんだよそりゃ」

「いつまで経っても変わらないってこと」

 さっきまでとは打って変わって、無邪気に笑いながらセシウは言う。

「訳分からねぇよ」

「だろうね」

 セシウの発言を俺が理解できないってのはちょっと納得いかねぇなおい。

 俺が難しいこと言って、セシウが首を傾げる。これがいつものパターンだっていうのに。

「ガンマが私たちのために無茶するなら、ガンマのことは私が守ってあげるって話」

 ぽんっと俺の背中を叩いたセシウは、足を速めて俺の前を歩き出す。いつものように力任せではない優しいものだった。

 軽やかに歩くその細い背中を見つめ、俺はため息を吐く。

 ホントどんどん俺より逞しくなってくよな。昔から溌溂とした腕白だったけど、今も変わっちゃいない。

 俺もお前も、ずっとあの頃のままだ。

 セシウに守られてることも変わらない。俺はガキの頃から何かとあいつのことを心配していたし、何かあった時は助けてやろうと思ってたはずだ。だけどいつも助けられるのは俺だった。

 今も、まだ、そんなもんか。

 あいつが変わらないことに安心しつつ、変われない自分に苛立つ俺ってホント汚れてるよな。

 セシウ、お前は俺を思って守ると言ってくれたんだろう。でも俺は、お前に守られてる俺がすごく嫌なんだ。

 それが口に出せない俺の本音。

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