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Alternative  作者: コヨミミライ
La's Bathos—仕組まれた賛美歌—
100/113

Cr's are Thinkerー深く、淀みへー

 息を潜め、積み上げられた木箱の影に隠れる者がいた。砂埃塗れのコンクリートの床に膝をつき、目深に被ったフードの端から紅い目で周囲を窺っている。その矮躯には不釣り合いなローブを着た者は、警戒しつつ慎重に木箱の影から立ち上がった。

 あどけなさが残るものの整った顔立ち。清廉潔白を体現するような白皙の聖女は小さく息を吐いた。

「全く……私は何をしているのでしょうね」

 自身の独白をきっかけに蘇った罪悪感がプラナの小さな胸を刺す。

 行動を供にしていたクロームに何も言わずに独断で動いてしまった。恐らく彼は心配しているだろう。自分を探して、街中を奔走しているかもしれない。

 それでもプラナは引き返せなかった。

 意識を研ぎ澄ませ、建物全体に魔術で拡張した感覚の糸を這わせていく。

「……随分数が多いですね。それに広い。しかし彼らの気配も確かに感じる。ここで間違いはなさそうですね」

 一人呟き、プラナは表情を引き締める。

「責めは後で受ければいいだけ。今は出来ることをしましょう」

 プラナの右手で光が弾け、魔素に分解されていた杖が顕現する。プラナよりも背の高い、先端の三日月の装飾に宝珠を嵌め込んだ杖――セレネだった。長大な杖を両手で操り、器用にくるくると回す。

「数が少ないのは南東の部屋。後々面倒なことにならないように、さっさと黙ってもらいましょうか」

 呟きプラナは素早く動き出す。音を立てないようゆっくりと、しかし足早に壁を伝うように部屋を進み、隣室に通ずる入り口に接近する。幸い廃屋のためにドアは取り付けられておらず、長方形の空洞があるだけだ。

 壁に背を貼り付け、紅い目で覗き込む。

 部屋には四つの椅子が丸い机を囲むように置かれ、男たちがカードを片手に煙草を吸っていた。どうやら手慰みに賭け事をしているようだ。

 カードを切る男たちの会話が微かに聞こえてくる。

「最近はやたら忙しいっすね」

「あー、どうにも嗅ぎ回ってる奴がいるらしくてな。あまり金にならない奴は処分にするらしい」

「うわぁ、もったいねぇ。最近は耳長も警戒してて、大変だってのに」

「まあ、嗅ぎ回ってる奴も見つかりそうだって言うしな。ま、大金も手に入ったし、しばらくは遊んでられるだろう」

「ああ、あの誘拐の奴っすね。あんな女一人誘拐して、大金もらえるなんて楽なもんすね」

「しかも前金だしな」

 会話を気にせず、プラナは小さく呟き、同時に宝珠が淡い光を放つ。

「なっ――」

 光に気付いた男が椅子を蹴立てて立ち上がり何かを言わんとする。他の三名も不思議そうに男へ目を向けた。しかし男がその何かを言いかけるよりも先に、四人の頭に衝撃。

 立ち上がっていた男は床に倒れ込み、座っていた三人は机に突っ伏す。周囲に散らばるのは砕け散った氷の破片。

 魔術で精製した氷の塊を四人の頭に叩きつけていた。

「ちょっとうるさいですね。これ」

 気絶した四人を眺め、プラナは感想を漏らす。気付かれると厄介なので、あまり音を立てない方法を探す必要があるだろう。

 脳内で魔術を検索しつつ、プラナは先程の部屋に面し、ここの次に人の少ない部屋へと向かう。

 今度は六人の男が床に直接座り、何かを囲んでいた。どうやら雑誌を回し読みしているようだ。氷の魔術を再度発動。今度は氷の塊を作るのではなく、口を氷で封じた。

 幾人かは事前の冷気を察していたが、プラナの実力だからこそ可能な瞬間凍結のため、声を出す余裕さえない。同時に手足も氷によって拘束したため、男たちは無様に地面を転がっていた。

 くぐもった声で助けを呼んでいるが、口を塞がれているため、まともに声を出すこともできていない男たちの元に、プラナはゆっくりと歩み寄る。

「おねむのお時間ですよ、坊ちゃん方」

 言いながら必死に藻掻く男たちの側に来たプラナは顔を引き攣らせる。男たちがひしめき合って読んでいた雑誌には服をはだけさせた女性が映っていた。下着も崩れ、乳房の先端さえ見えている。そのような雑誌が地面には他に八冊ほど積み上げられていた。

 プラナはゆっくりと、首がぎぎぎと不吉な音を立てるほどゆっくり足下の男に顔を向けた。この場にあっては不似合いなほど穏やかな微笑は、しかし憤怒に燃えている。

 暗黒の笑顔を直視した男が、理由は分からずとも恐怖を抱き、必死に首を振って何かを訴えようとしているが、氷に口を塞がれているため呻き声を上げることしかできない。

「ふっふっふ、怒ってなどいますよ。大丈夫。怖くありませんよ。もともと貴方たちには怒りを抱いているのでご安心くださいませ。ただ怒りが殺意に変わっただけですので」

 言いつつ、プラナは杖を振り上げる。孔球のような構えだった。

 杖が振り抜かれ、鈍い音が鳴る。鈍い音はさらに間を置いて五度続く。くぐもった悲鳴が痛々しい。

 六人の男が恐怖の表情のままに気絶していた。プラナは六人の男に虫を見るような視線を投じ、小さく鼻で笑った。

「クズどもが」

 普段のプラナの声からは考えられないほど低い声で吐き捨て、清廉潔白を体現する聖女のようであるはずの魔術師は積み上げられた卑猥な雑誌を一瞥する。

「灰の一欠片たりとも残してはおけませんね」

 プラナが杖を小さく振ると紅い粒子が舞い、雑誌の山が途端に炎上する。炎が酸素を喰らい、男たちを拘束する氷が熱波で溶けていく。本を燃やすには強すぎる火勢に、淫らな格好をした女性たちが焼け爛れ、炭化していく。

 印刷された女性の作り物染みた笑顔は、紅い舌に舐められ捩れる。炭化した紙片は千切れ、炎の勢いに打ち上げられて、黒い雪のように破片となって落ちた。

 頬を茜色に染めた魔術師は身を翻し、部屋を後にする。

 残された劫火は本の全てが焼失したと同時に火勢を衰えさせ、やがて黒煙だけを残して消え失せた。後には黒ずんだコンクリートの床と気絶した男たちの姿だけがあった。




 形ばかりの見守りと思える男たちはプラナの魔術を前に為す術もなく片付けられた。淡々と魔術によって男たちの意識を奪っていくプラナの様は、まさに処理といった風情である。

 一階の部屋に詰めて、気怠るそうに各々暇を潰していた男たちは、そのほとんどが無力化されていた。プラナは息を潜めて廊下を進み、曲がり角の傍で壁を背に預けて気配を窺う。

 多数の魔術を駆使して、存在を察知されずに潜入しているが、プラナの息は少しも乱れてはいない。《結晶の魔術師ペークシス・ヴァスィリャス》と名高きサニディンより授けられた宝珠サーペンティンの力により魔術の負荷が下がっていることに加え、必要最低限の下位魔術のみを運用しているため、損耗はほとんどない状態だ。廃屋に配置されている者たちは数が多いとは油断しきっているため、大きな障害とはならない。

「……手間ではありますが、後々の面倒を増やさないためにも、今のうちに苦労をしておきましょう」

 言って、プラナは再び目を伏せ意識を研ぎ澄ます。ふわりとそよ風に吹き上げられるようにフードが浮き、ローブの裾が空気を含んだように膨らんだ。プラナの全身が不可視の魔力を纏う。細胞をさらに細分化した限界地点たる魔素――森羅万象の構成物の最小単位が累積する熱量はプラナの精密な制御によって安定し、プラナの肌の上で膜状に形成される。

 あまりにも静かな、乱れ一つない魔力操作。零れ落ちる水の一雫すら視覚する集中力と、見切った一雫を正確に掬い取るような技量があって初めて成立する、暴風のような力を夜の静寂に宿す放出だ。

 魔力の膜は束ね、繋ぎ合い、拡張され、無数の微細な糸となってプラナから伸びていく。糸は風にそよぐように動き、曲がり角の向こうへ進む。

 糸の先からは規則的に魔力の波動が放たれ、障害物に弾かれた波動は糸へと戻ってくる。膨大な情報が糸を伝ってプラナに返り、それらから周囲の構造をプラナは計測していく。

 廊下の両側面にはそれぞれ二つの四角い空白。恐らくは部屋に通じているのだろう。

 糸の先が四つに枝分かれし、それぞれの部屋へと潜行していく。部屋の中心で再度魔力を放つ。先程の四倍、否それ以上の計測情報がプラナへと返される。クロシンとサーペンティンと並列して補助演算を行い、高速で処理して内部の状況を確認した。

 二つの部屋に人らしき物体は確認できず、残った二つには今までと同じように人の気配。おおよその背丈や体格から男性と判断される。

 小さな部屋に集まった男たちは何かを囲むように立っていた。中心に蹲るのは小さな何か。矮躯を丸めているようだった。

 それが何なのかを即座に理解し、プラナは伏せていた顔を上げ、目を見開く。

「いけないっ!」

 統率を失った魔力の糸の組成が崩壊し、一瞬にして弾け霧散する。手順を無視した強引な解除の反動として処理待ちだった膨大な情報が瀑布となってプラナの脳に流れ込んだ。

 膨張する質量に頭蓋骨が内側から割られるような痛みに、あどけなさの残る顔を歪めながらも、プラナはローブの裾を引きずって走り出す。焦りを帯びた表情で廊下を駆け、奥の右側の部屋へ一目散に飛び込んでいく。

 部屋には小さな火の灯りだけがあった。中心に円を描くように並んだ男の一人が持っている燭台の灯りだった。

 日中だというのに薄暗い部屋の只中、茜色の灯りの周囲だけがぼんやりと浮かび上がっている。

 突然の闖入者に男たちは驚きの顔を向けていた。敵意を持って、恐れ恐れながらも身構える男たちなどプラナの目には映っていない。

 見開かれたプラナの目は、燭台の真下で照らされることなく、蹲った矮躯を凝視していた。

 小さな体は子供のそれだった。襤褸布のような形だけの衣服を着せられ、力なく倒れている。短い袖や裾から伸びる細い手足は傷と青痣に塗れていた。そして鳶色の髪の隙間から伸びる長い耳。

「て、てめぇナニモンだ!」

「どっから入って来やがった!」

 男たちの恫喝するような声もプラナの耳には届かない。

 形の整った小さな唇がわなわなと震える。押さえ込むように歯を下唇に食い込ませた。杖を握る手も震えている。怯懦ではなく、憤怒によって。

 烈火の炎を宿した魔術師の双眸が初めて男たちに向けられ、引き絞られる。瞳孔は縦に細長く、肉の裂け目にも似ていた。

 白日の下の猫のようでありながら穏やかではなく、爬虫類のようでありながら無機質ではなく、それは激昂した竜の眼を想起させた。

「貴様ら、一線を越えたな」

 低く唸るような声でプラナが言う。

 奇妙なほどに室内に反響する声は、あらゆる意味でプラナの紡ぐ声音ではなかった。

 本来の彼女の声よりも幾星霜の時の重みを孕んだ、絶対的上位者のような威圧を与える声。竜が喉の奥で唸っているかのようだった。

 男たちは自分たちが竜の口腔の中に放り込まれたような錯覚を抱く。

 厚手のローブに包まれた背中からは怒気が陽炎となって噴出していた。

「それは絶対に越えるべきではない最後の境界線だった」

 燃え盛る双眸と紡がれる声に気圧され、動くこともできずにいた男たちの生存本能が恐怖を僅かに上回る。一人が弾かれたように動き出し、人質にしようと倒れ伏す少年を掴もうとし、伸ばした右腕の肘から先が消失した。

 喉の奥から絞り出されるような悲鳴。

 噴き出す鮮血。血飛沫。紅い間欠泉。

 激痛の叫びに石化していた体を叩かれ、男たちが逃げ出そうとする。逃げ惑う暇もなく、疾風。誰かの右足の足首から先が切断され、無様に地面に倒れる。

「人非人。ヒトはいい言葉を考えるものだ。そうだ。人に非ざる人。貴様らがその領域に自ら引き下がったのなら、それ相応の扱いをすればいいだけのことだ」

 プラナは静かに部屋へと踏み入っていく。杖の先に嵌められた宝珠が光を放ち、周囲に無数の魔導陣が展開された。

「もう一度アウティス

 無感動な声が告げ、魔術が無作為に放たれる。

 倒れた男の背中に火球が衝突し、逃げ惑う者たちにも襲いかかる。氷の槍が右肩を貫き、螺旋を描いた炎の蛇が腕を炭に変え、鞭となって撓る水の刃が腹部を引き裂く。

「もう一度アウティス

再度放たれる魔術。

 五条の炎が彼らの体を焼き、風の刃が切り刻み、水の刃が眼を穿ち耳を削ぎ、氷が体を縛り付ける。逃げ惑う者などいなくなり、欠損した男たちが地面を這いずり、必死にプラナから離れようとしていた。

 夥しい血は噎び返るほどの悪臭を呼び、肉の焼ける甘い匂いが混ざって、より一層不快感を呼び起こす。血と恐慌と絶望は室内に絡みつくような、夏の暑さにも似た湿り気のある熱気を呼び寄せる。

「まだだ」

 宣告。プラナの魔力が無数の蔓となって這いずる者たちの体に絡みつき、プラナの元まで引き摺り寄せる。剥き出しの床に爪を立てて抵抗しようとするが、爪は無残にも削れ剥がれ、白き執行人に手繰り寄せられてしまう。

 涙を流し、鼻水を垂らし、口許を汚れと血で汚し、怯えきった男たちの顔には絶望。子供のように咽び泣く男の顔を照らすのは、元素が再充填された魔導陣の色鮮やかな燐光。

再展開アウティス

 眼前で発動した無情の魔術が男たちに冷酷な裁きを下した。展開されていた魔導陣が消失し、プラナの周囲に陽炎を生み出していた強力すぎる魔術放射も衰えていく。紅い瞳の瞳孔が肉の裂け目のような縦長から円に戻り、宿っていた偏光も消え失せた途端、プラナは我に返ったように鮮血に濡れた床を蹴って、部屋の中心に倒れ伏したままの矮躯へと駆け寄る。

「大丈夫ですか!?」

 ローブの裾が血に濡れることも構わず、プラナは膝をついて子供の体を仰向けにする。細すぎる手足、傷だらけの体、痩せ細り、衰弱しきっていた。幼い顔は苦痛に歪み、呼吸すら弱々しい。

 鳶色の髪の隙間、顔の両脇から上向きに伸びている細長く尖った耳は、エルフ族を象徴するような身体的特徴に他ならない。

 右の耳には穴が空けられ、通された糸の先にはタグが下げられたいた。タグには『C-031』という番号。

「今治してあげます! 意識をしっかり持って!」

 プラナの声は切迫していた。杖に縋るようにして治癒魔術を発動させ、子供の体の治療を開始する。

 半ば強引な治癒魔術によって、傷が薄い緑の光を放ち、急速に塞がれていく。肉を生み出され、繋ぎ合わされていく奇妙な感触に子供の顔が歪み、瞼が痙攣する。

 体の各所に宿る光の数が、プラナが来るまでのことを物語っていた。

「お願い! 生きてっ! 戻ってきてっ!」

 最早、泣きかけながらもプラナが必死に子供へ呼びかける。襤褸布に包まれた薄い胸の上下は小さいままだ。

 魔術で傷は治せても、生命力を補うことはできない。もともと体力の少ない子供の上に衰弱している。仮に傷が治ったとしても、危険な状態だった。

 傷は塞げる。増血を働きかけて、失血も問題ない。それでも、命の焔の衰えは止まらない。

 力なく落とされた子供の手を握る。凍り付いているかのように冷たい。なお、力強く握り締め、プラナの脳は彼を助けうる魔術を、高速検索していく。自身の中に蓄えられた膨大な魔術式と知識と理論を結び合わせ、前例との照合を繰り返す。

 エルフならば、基礎的な生命力は人間よりも遙かに高い。再生力もある。

 それでも少年の命は尽きかけている。

「やめて……生きることを諦めないで……お願い……これ以上見殺しにさせないで……」

 縋るように語りかける。

「これ以上私に貴方たちを殺させないで……!」

 慟哭のような懇願を遮るように部屋の外から物音。無数の足音。

 先程の騒ぎを聞きつけて、誰かが向かってきているようだった。数が多い。近くの部屋にいた者たちが、仲間を呼んできたのかもしれない。

 状況が悪い。

 今この状況に相手取るのは、さすがに辛いものがあった。

 多勢に無勢。その上、重傷者が一人。

 プラナは膝をつき、少年の手を握ったまま、短く呟く。

 無数の魔導陣が高速展開され、四角い光を伸ばす入り口へと向けられた。

 薄暗い屋内、プラナの顔を照らすのは赤に青、緑、無数の外的魔力の光。

「手加減をしている余裕は……ありませんね……」

 頬を伝い落ちる汗も構わず、プラナは苦々しく呟いた。彼らの命よりも尊い命のためになら仕方がない、と自分に言い聞かせる。

 入り口から投じられた四角い光が人型に切り取られる。

 部屋の様子を見た、先頭の男が息を呑む。

「なっ……! てめぇやりやがっ」

 激昂しかけた男の顔の顎から上が吹き飛んだ。風の太刀によって切断されていた。

 紅い尾を曳きながら、怒りの表情のままに頭部が宙を舞い、残された体からは紅い噴水が吹き上がる。

 降り注ぐ血の雨に呆然とした一団の心臓を氷の槍が貫き、背中から伸びた穂先が後ろの男も串刺しにする。水の鞭がしなって首に絡みつき、頸骨をいとも容易く折り砕く。

 血溜まりを蒸発させながら血を這う五条の火の蛇が男たちの足に絡みつき、そのまま螺旋を描いて体を遡り、恐怖に戦く口に流れ込む。内側から体を焼かれ、全身の穴という穴から炎を噴出させていく。

 悲鳴、絶叫、悲嘆、絶望。

 断末魔の叫びの合奏に炎の唸りと、風切り音と、水のうねりと、氷の砕ける透き通った音が混ざり合い、阿鼻叫喚の地獄を魔術の交響楽が彩っていく。

 終音。凄惨な静謐が舞い戻る。

 一度、ゆっくりと肺の中の空気を限界まで吐き出し、同じようにゆっくり時間をかけて外気を吸い込む。噎ぶほどの血の臭気に阻まれることもなく、プラナは自身を落ち着かせた。

「まずはこの子を安全な場所に連れて行く必要がありますね」

 クロームと離れてしまったことを後悔する。彼がいれば、まだ状況は違っていたのだろう。

 それでも助けは呼べない。頼ることもできない。

 彼女にとってこの行いは、ただ一人で実行しなければならない贖罪なのだから。

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