1Cr Chapter―白黒楽章―
〆
子供の頃、英雄になりたいと思っていた。
ただ漠然とした幼い願望。
みんなのピンチに颯爽と駆けつけ、悪い奴をいとも容易く倒し、みんなから感謝されながらも見返り一つ求めずに格好良く立ち去り、また新たなピンチへと向かう。
そんな、みんなから羨望と尊敬の念を向けられる英雄になりたかった。貴賤の区別なく人を救うことのできる人間に憧れ続けた。
現実に、本に出てくるような完璧な英雄なんていない。そんなことは分かっていた。しかしそれは私にとって夢の終わりではなく、始まりであった。
英雄がいないなら、自分が始まりの英雄になればいいだけの話だ。
きっとそうすればまた新たな誰かが、自分の背中を見て英雄になろうとするかもしれない。英雄は新たな英雄へと決意を与えるはずだ。
そうすれば、この世界だって、物語のように幸せで平和な世界になるかもしれない。
私が英雄の叙事詩のきっかけになれればいい。
そんなことを考えていた。幼い頃から夢見続けていた。
世界中から苦しみを取り除けるような英雄の姿を追いかけ続けた。
誰もが憧れるようなみんなの希望そのものへと、なりたかった。
そのために生き続けてきた。
今日の今日まで、そして明日もまた変わらず、私はせめて今私が守れるものを守るために戦っていくのだろう。その積み重ねがやがて世界中の人間の幸福という大輪の花を咲かせることを願って。
物語の英雄はいつだって人々を助け続ける。朝な夕な世界を駆け回り、窮地から窮地へと奔走し続ける。
彼らの戦いの終わりとはどこにあるのだろうか?
物語の英雄はいつまでも人々を助け続ける。
いつまでもいつまでも。
まるで罪を購おうとする咎人のように見返りさえ求めず、求められず、積み重ねた重罪を清算するように、決して消えることのない罪を赦されるために。
物語の英雄達は、何処へ、何処へ、征くのだろうか。
そんな疑問から目を逸らし、私は今日もまた己の信じた正義を貫き続ける。
〆