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何者でも無い私って何者なの

作者: 外天ハク
掲載日:2026/10/21

スマホの画面を閉じると表面の黒いボディにぼんやりと


自分の顔が映り込んだ。どこにでもある目。どこにでも


ある鼻。名前を呼ばれなければ誰の記憶にも残らなさそ


うな輪郭の曖昧な顔


ねぇ、私は誰なんだろう・・・


声に出してみたけれどその部屋の空気が揺れただけで、


返事をする者は、誰も居ない



東京の片隅、6畳間のアパート。壁に貼られたカレンダ


ーの予定欄は驚く程まっ白だ。仕事のシフトを除けば、


誰から連絡が来る訳でもなく誰に必要とされる訳でも


ない


世間では、誰もが何者かになっていくように見えた。


SNSを開けば誰かが会社を興し、誰かが自分の名前で


作品を売り、誰かが誰かに愛されているという輝かし


いさえずりが流れてくる。数字や、肩書きという証明


書を体に貼り付けて皆眩しく輝いてる様に見えた


なのに私は、どうだ。何をする者でもなく、何者にも


なれずただ朝が来れば起きて、夜が来れば眠る。私と


いう人間を証明するものは、この空っぽの部屋と、誰


にも読まれる事のないノートの切れ端だけだった


私は、ベッドから起き上がりコンビニの袋を提げて夜


の街へ出た


夜風が冷たい。街路樹の葉がカサカサと乾いた音を立て


てアスファルトを転がっていく。自動販売機の眩し過ぎ


る白熱光に照らされた自分の影がやけに小さく、頼りな


く見えた


もし明日、私がこの世から消えてしまったとしても誰も


気付かないんじゃないか


胸の奥がキュッと締め付けられるような冷たい寂しさが


広がる。私は何者なんだろう。何者でも無い人間は、生


きていると言えるのだろうか。だた息をして、だた時間


を消費してるだけの透明な存在に過ぎないのではないか。


その時、ふとポケットに入ったスマホが震えた。画面を


開くと見知らぬ誰かの小さなアカウントからポツンと通


知が来ていた


私が以前、誰にも見られないつもりで深夜に放り投げた


名もない呟きへの「いいね」だった。数字は、1。たっ


たそれだけ。名前も顔も知らない遠くの誰かが、すれ違


いざまにふと私の存在に気付いてくれたような、そんな


ちいさな灯


涙がこぼれそうになった。私は、何者でもない。英雄で


もクリエイターでも、誰かの特別な恋人でもない


だけど


この冷たい夜の吹く風の中で、私がここで息をして何か


を感じてるという事だけは、この小さな1という数字が


確かに証明してくれていた


まだ、何者でもなくていいか


私は小さく息を吐きだした。白く染まった息は夜空の闇


へ溶けて消えていくけれど、その温もりだけは確かに私


のものだった


まだ名前の無い私の物語は、きっと、この暗闇の中で


まだ始まったばかりなのだから。




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