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おっさん観察日誌~普通のおっさんの中に可愛さを見出して悶えています  作者: ロゼ


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第五話

 そんな裸エプロンの元彼が、現在目の前にいる。


 思い出したら出てくるシステムでも採用されているんだろうか(そんなシステム迷惑だからなくていい、一生)?


 今日は母の邪魔は入ったものの、私としては大満足・大収穫な一日で、アパートの部屋に戻って特別な日用のお高いバスソルトでも使おうかなんて、ルンルンで帰宅してみたら、なぜか部屋の前にいた。


「元気だった?」


 顔を見るのは四年ぶりで、一瞬傍迷惑なセールスマンがわざわざ待ち伏せまで始めたのかと思ったけど、数秒して「あ、あいつだ」と思い出した。


「なんでいるの?」


 返事をしてやる義理もないけど、ここに今いる理由くらいは知りたい。


 まぁ、知ったところでろくなことではないのは間違いないだろうけど。


 自分の方からふってきた元彼が急に現れるなんて、借金のお願いか、宗教の勧誘か、保険のセールスと相場が決まっている(多分)。


「あ、あぁ……あ! 俺、こんなこと始めたんだ!」


 ガサゴソと肩から掛けている大きなショルダーバッグを漁り始めた元彼、(たちばな) 祥吏(しょうり)


「勝利だったらアイドルと同じ名前だったのになー」


 付き合ってた頃よくそんなことをボヤいていた。


 その度に「名前が同じだったらあの顔になれると思うなよ! 逆に『勝利は勝利でも……ねぇ? 完全に敗北してるよね』と笑われて終わりだろ」と思っていたけど口に出したことはない。


 自分では自分のことを「カッコイイ」、「イケてる」と思っているタイプの男で、デート中に鏡や店のガラスに映る自分を見て微笑んだり、キメ顔をしている姿を何度も目撃していた。


 ちょっと痛々しさすら感じていたけど、本人が幸せならいいだろうと見ないふりをしていたのが薄れかけている記憶の中から湧いてきた。


 裸透明エプロンのインパクトが強すぎて、もう透明エプロン男としてインプットされている。


 やっとなにかを見つけたのか、ワタワタしながら私に差し出してきたのは名刺。


【デリバリー配達員】


 名刺の本人名の上に書かれてある職業に唖然とした。


 デリバリー配達員とはあれだよね?


 アプリなんかで注文した食べ物や生活用品なんかを、バイクや自転車を使い、背中には商品を入れるための箱型のリュックを背負ってやってくる、あの職業だよね?


 あれってほぼバイトの人らじゃない?


 今どき、バイトでも名刺に職業として記載してもらうもん?


 二十七歳でその職業はさ、なんとも残念ではなかろうか?


 一応透明エプロン男は名の知れた大学を卒業し、そこそこ名の知れた会社に入社したはずだったのだが、なぜ今はデリバリー配達員なんだろうか?


 あれか? 一念発起して自分で会社を起業した口か?


 今は従業員が足りず、自分もデリバリー配達員として奮闘しているけど、実は社長ってやつなのか?


「起業したの?」


「え? なんで?」


「だって、デリバリー配達員って書いてあるし」


「あぁ、今はバイトのデリバリー配達員だからね」


『やっぱバイトかー! だよなー、こいつに起業するような器ないもんなー! でもそれ書く意味あるのか?! 圧倒的不利だろ、これじゃ! なんのための名刺だよ?! 僕を指名してくださいってやつなのか?!』


「名刺を注文していた時に会社を辞めることになって、前の会社の名前にしとくのもおかしいだろ? でももう注文の取り消しができないと思ったから、デリバリー配達員って書き換えてもらったんだよ」


『その書き換えができる段階なら、取り消しだってできるだろうよ! てか、それならなぜ職業を書かない選択をしなかったんだ! 名刺に職業を書く義務なんてないだろ!』


 この透明エプロン男、昔から人とちょっとズレていたけど、やはり今でもズレているようだ。


 別に職業の貴賎はないし、職業で人なんて見ないからそのへんはどうでもいいが、世の中には職業や会社の規模、知名度、地位で人を差別する人間はたくさんいるのだから、自分の不利になりそうな情報なら隠しておく方が賢い生き方だと思っている。


「会社辞めたんだ」


「そうなんだよ。実はさ」


「で、なんでうちの前にいるの?」


 彼がなにか話そうとしたのでわざとぶった切った。


 これから自分が会社を辞めた理由を話そうとしていたのだろうが、そんなのを聞いたところで私は同情もしないし、関係もない。


 別れてしまったら他人なのだから、他人の余計な情報など必要ない。


「え? あ、あのさ、俺達やり直さないか?」


『はーい、みなさん、聞きましたか? この男、起きたまんま寝言語ってますよ! 実在してたんですねー、そういう人間!』


「今更なに言ってるの?」


「俺達、結構上手くいってただろ?」


 透明エプロンを持ってくるまではそれなりに上手くいってましたねー、確かに。


 でもまた透明エプロンを着てくれなんて言われる危険性考えたら、復縁なんて絶対するわけないっすよね?


 そもそも新しい彼女である風俗嬢を連れてきて紹介する神経も私には理解のできない宇宙人としか思えなかったし、「あー、こういうドラマ見たことあるわー。ドラマの中だけじゃなかったのかー」と思ったし。


「するわけないでしょ、別れてから四年も経ってるのに」


「そんなこと言わないでさ……ほら」


 カバンから出してきたのはピンクの花柄の……割烹着?


「さすがに俺も成長したよ」


 なんの成長があっての割烹着?


「俺の趣味が女性には理解されないことはわかった。透明エプロンなんて上級者の発想だってことも学んだよ。だから、隠れる面積が多い割烹着から始め」


「始めるわけねぇだろ!」


 間髪入れずにそう言うと、素早くドアの鍵を開けて部屋の中に入った。


 その素早さはきっと世界新レベルの早さだったと思う(なんの?)。


 しばらくドアの前でなにか言ってた透明エプロン男だったけど、私が出てこないと悟ったのかいなくなってくれた。


 少ししてコンビニでも行こうかとドアを開けたら、玄関の前に紙袋が置かれていて、中にはあの割烹着が入っていた。


 当然受け取る気もないため、うちには関係ありませんとばかりに通路の端に追いやり放置しとくことにした。


 

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