第20話
──あなたの生き甲斐はなんですか?
めったに点けないテレビを点けてみたところ、そんな文字が飛び込んできた。
街頭インタビューを受けている若者達が自分の生き甲斐を次々に答えている。
「俺っすか? 俺の生き甲斐はギターですね」
いかにもバンドしてますって風貌の、髪の毛ツンツン系男子が嬉しそうにギターについて語っていたり、
「生き甲斐は推しです!」
と、推しカラーをさり気なく取り入れたファッションをしつつ、カバンの中から推しグッズを取り出して推し愛を語る女子など様々な若者達が生き甲斐を楽しそうに語っている。
私がもしこんな街頭インタビューを受けたとしたらなんと答えるだろうか?
正直に「萌えを吸収することです」と答えたいところだけど、「萌えですか? それはどういう?」なんて聞かれてしまったら若干答えに困ってしまう。
可愛いものから全方位で萌えを吸収することが生き甲斐、というよりも生きるための必須エネルギーになっている私。
その中にはおっさんも含まれている。
それをテレビ放送で堂々と公言する勇気まではまだ備わっていない。
そんなことを言ってしまった日にはきっとテレビっ子代表のような友人『望月 楓』から速攻で連絡が入った上で、彼女によってそのことがドン引きするレベルで一気に拡散されてしまうことが確定しているし、恐らくうちの母親も見るなりどっかから耳にしてきてうるさくなる。
「あんた、結婚しないと思ってたら、中年男性が好みだったの?! だったら……」
なんて言い出して、ご近所の結婚していない中年男性を何人も紹介してくる未来までセットでついてくるに違いない。
なら正解回答はなんだろう……。
されることもないだろうインタビューについて朝から少し考えてしまった。
なにをしているんだか。
まぁ、こんなことを考えられるのは、今日が休日だからである。
いつもよりのんびりと朝を過ごせるし、普段は食べたり食べなかったりする朝食をまったりと食べながらテレビを見る朝。
実に休日らしいではないか。
今日は特になんの予定も入っていないので、お昼近くになったら軽食を持って、バスに二十分くらい乗った先にある大きな公園に行くつもりだ。
今日は清々しいほどのいいお天気だから、こんな日の公園には正しい萌えがたくさん溢れている。
洗濯機を回し、掃除機をかけ、洗濯物を干し終えると、いそいそとサンドイッチを作って、いつもとは違う普段着でバスに乗り込んだ。
不審者に思われないためのアイテムもちゃんと持っている。
小説だ。
公園でベンチに座って小説を読みつつ、疲れたら辺りをぼんやりと眺める休日の大人女性に見せかけるのだ。
なにも持っていないのにただベンチに座って子供達やよそのペット達をガン見している女なんてただの不審者でしかない。
通報されても困るためその辺の対策は一応考えている(さすが私)。
小説を読みながら公園でランチを食べてまったりと過ごす、社会生活に疲れた大人女性が公園という無料の公共施設で休日をのんびり過ごす。
いかにもストレス社会で常日頃戦っている知的女子という絵が出来上がること間違いなしだと思うのだけど、どうだろうか?
そんなわけでやってきた土曜日の公園は、大好物であるお子様や楽しげなワンコ様がたくさんおり、もうそれだけでテンション爆上がり状態である。
世界一有名なネズミの国に行くよりもテンションが上がる。
ネズミの国も好きだけど、あれは半分くらいはカップルやら可愛いを自覚した人種が闊歩しているため、少々ストレスが溜まってしまうこともあるのだ。
純粋にネズミの国だけを楽しめばいいだけなのだが、せっかくならそこでしか味わえない萌えを吸収したいと考えるのが私のような萌えマスターの悲しい性。
だってよ、ネズミの耳やその仲間達のカチューシャをつけたお子様だとか、プリンセスのコスプレをしたお子様だとかがその辺にいるんだよ?
そんなの見逃せるはずがないでしょ?!
でもそんな近くで「可愛い!」なんて言いながら、可愛い自覚系女子の皆様がそんな可愛らしいお子様を利用して自分を上げる行為をしたりもするわけですわ。
「一緒に写真撮ってもいいですか?」
いやいや、そのコスプレお子様はキャストじゃないんだから! と思いつつも、一緒に撮影なんて羨ましすぎる行為を平然とした上で、お子様よりも可愛く写るべくカメラ角度やら表情やらをバッチリ決めてくる姿を見るとね、ストレスなんですわ。
主に羨ましいが勝ってるけど(羨ましい八割)、あんなにピュアピュアで可愛い生物よりも可愛く写ろうなんて思惑が見えてくるのもストレス!
だから私、SNSでペットと一緒に自撮りしてる系の女子も嫌い。
ペット様を利用して自分をより可愛く見せようなんて厚かましさ(言い過ぎ)が本当に無理。
その可愛い子はお前の引き立て役じゃないんだぞ! と言ってやりたいくらい苦手(言いませんよ、決して)。
逆に、ペットが可愛すぎて思いっきりデレデレ顔になっていたり、猫カフェでちょっとブサイクに見えるくらい幸せそうに笑ってる素直な人は好感持てる。
絶対私もそんな顔になってるから、仲間認定までしてしまう。
話が大幅に逸れてしまった、いかんいかん。
公園の屋根付きの東屋というんだろうか、そこにあるベンチに腰を下ろして、持参したちょっとスタイリッシュな水筒と手作りサンドイッチが入ったランチボックスをテーブルに置き、カバンから小説を取り出してスタンバイは完璧。
しかも、公園が見渡せる場所にある東屋なため、位置取りも完璧。
パーフェクトな私に拍手!
広々とした公園には遊具が点在していて、一番人気は少し長い滑り台。
ちょうど東屋の方に向かって滑ってくるため、本当にベストポジションである。
家族連れの方々は簡易テントや簡易テーブルセットにパラソル、カラフルなビニールシート等を広げて隅の方を確保なさっているため、私が東屋の一角を占領していようが迷惑にならない。
いざ、萌え吸収である!




