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おっさん観察日誌~普通のおっさんの中に可愛さを見出して悶えています  作者: ロゼ


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第19話

──幸せが訪れると同じだけの不幸が訪れる。


 幸せと不幸せは常に均衡を取り合っていて、幸せの数だけ不幸せが存在するのだという理論。


 そんなものは信じていないけど、こいつを見ると「本当なのかも」と思ってしまう。


 そう、最近度々私の前に現れる元彼、透明エプロン男である。


『もう絶対に本名なんて呼んでやらん! 透明エプロン男って呼び方すら贅沢だと思え!』


 心の中で盛大に毒づく。


 幸せランチタイムを終え、午後の仕事も気持ちいいほどウキウキと終えることができ、軽快な足取りで「今日は気分がいいから久々に和食でも作っちゃう?」と思いながら立ち寄ったスーパーに、やつはいた。


 待ち伏せではなく偶然だったため通報はしなかったけど、いたのがわかった瞬間、これまでのウキウキルンルンした気分が一気にドーンと落ち込んだ。


 そのまま立ち去ろうとしたのに、どんな嗅覚を持っているのか速攻私に気づきやがったし!


 まるで飼い主を見つけた犬のように私に一直線に走ってきたのを見て、その瞬間だけ犬が嫌いになった。


『犬に罪はない! 犬は比喩表現! 落ち着け、私! 落ち着くんだ!』


 心を落ち着かせつつも、やつに背を向け店を出ようとしたのに、出入口寸前で捕まってしまった。


「ここで会えるなんて運命みたいだ!」


 運命の相手がスーパーでイカそうめん片手に、毛玉だらけの黄緑色のスエット着て現れるなんてどんな地獄だよ。


『なんだそのスエットは! お前はカメムシか?! カメムシなのか?! そうか、そうなんだな! 透明エプロン男なんて長ったらしいからな、今日今この瞬間からお前は「カメムー」だ!』


 やつの脳内あだ名が変わった。


 黄緑色のカメムシそっくりな色味の、毛玉だらけのスエットがよく似合うあだ名になった。


『近づいてくるんじゃない! なんか青臭い臭いが漂ってきそうじゃん! くんな! あっちいけ!』


 脳内でこんなことを言われているなんて露も知らないカメムーは満面の笑みを浮かべている。


 本当になんでこいつは私の目の前にこうも頻繁に現れるんだろうか?


 嫌がらせか?


「これから飲もうと思っててさ……よかったら一緒にどう? 宅飲みなんだけどさ。アパートは変わってないから」


『だーーーれがいくか! いったら最後、気がつきゃお前の腕の中で朝までコースだろうが! なーにが悲しくて別れた元彼の家で宅飲みせにゃならんのだ! 飲むなら一人で飲め!』


 脳内では盛大に毒づいているが、口には出さずに完全無視を決め込む。


「あっ、お前も好物だったよな、イカそうめん?」


 魚介類は嫌いじゃないから食べていたけど、特別好きだと言った記憶もない。


 イカそうめんが好物だったのはカメムーであり、こいつは宅飲みするとなると自分の好きなつまみしか買ってこないやつだったから、買ってきてくれた物を適当に食べていただけ。


『なんでこんなのと付き合ってたのかなー、当時の私。タイムマシーンがあったら過去の自分に「こいつとは付き合うな!」って教えてくるのになー』


 今考えるとこいつはかなり自己中で、私のことも勝手に決めつけるような性格のやつだった。


 たとえばさっきのイカそうめん発言のように。


 カメムーの脇をすり抜けスーパーを出た。


「待って! 待ってくれよ!」


 後ろで騒いでいたが、やつは未会計のイカそうめんを持っていてすぐにはスーパーから出られないため、その間に猛ダッシュで距離を取った。


 そのまま家に帰るにはあまりにも気分がささくれ立っていたため、近所の児童公園へと立ち寄った。


 公園は萌えが溢れていたりする。


 ただ、今は時間も時間だし子供達の姿はない(残念!)。


 夜帯はワンコのお散歩コースになっていたりするため、公園の隅にあるベンチに腰を下ろしてボへーッとして待つ。


『ちょっ! なにあれ! なにあれぇ! ちょっと待ってぇ! 反則っ!』


 私が入ってきた方とは逆にある入口からなにかが近づいてくるのがわかった。


 暗闇の中に浮かぶ電飾。


 光るリードとハーネスをつけた柴犬様がルンルンとソロエレクトリカルパレードを開催しながら歩いてくるではないか!


 リードとハーネスのピカピカ電飾が派手すぎて飼い主さんが黒子のように見えてしまう。


 こちらに近づく毎にその姿がハッキリと浮かび上がり、萌えドーパミンがドバドバ出ているのを感じていた。


『ヤバい! 可愛すぎる! あんなの罪! 反則技すぎるっ!』


 脳内ではパレードの曲まで鳴り響いており、まさにお祭り騒ぎである。


 嬉しいことに公園内をクルッと一周してくれるファンサービス(ではない)まであり、さっき見たカメムーなんて宇宙の果てまで飛んで消え去ってくれるほど素晴らしい時間を満喫できた。


 私があまりにも熱視線を投げていたからなのか、私の前にきた時、飼い主のおば様が立ち止まってくれた。


「可愛いですねぇ」


 心の底からの声が漏れていた。


「ほら、お姉さんが可愛いってよ。パンタ、ありがとうは?」


 柴犬様はパンタという名前のようだ。


 とても愛嬌のある名前ではないか!


 柴犬は飼い主には忠実でも、他の人には冷たいことが多いのだが、パンタ様は人懐っこいようで、ハッハッと舌を出して呼吸しながら、クルンと丸まったしっぽをフリフリして、こちらに近づいてきてくださった!


『はぅぅぅ! ええ子やぁ! 可愛くてええ子やぁ! たまらん! もう辛抱たまらん!』


 きっと私の脳内を知られたらおば様もパンタ様もドン引きして立ち去ってしまうだろうが、知られないからいいのだ。


「触ってもいいですか?」


「いいわよ。パンタは人に撫でてもらうのが大好きだから」


 そっと手を伸ばし鼻先に手をかざし、敵ではないことをお知らせした上で頭と顎の下をわしゃわしゃさせていただいた。


『モフモフぅぅぅ! 思った以上にモフモフぅぅぅ! 一生触ってたいっ! 顔を埋めたいっ! 吸いたいっ!』


 脳内はもはや変態レベルだ。


 パンタ様をしばしの間堪能させていただき、パンタ様が立ち去った後に今度はチワワ様がおじいさんと共に登場し、こちらに威嚇しながらも可愛さを撒き散らしているお姿は尊いの一言!


 すっかり気分も戻ったのでアパートに帰り、たまにしか使わないちょっとお高いクレイパックシャンプーで髪を労り、ホクホク気分で眠りについた。






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