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おっさん観察日誌~普通のおっさんの中に可愛さを見出して悶えています  作者: ロゼ


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第17話

 今朝はいつもより一時間早く起きた。


 なんたって今日は遠野さんの奥様であるよしえさんと、リモートとはいえ初顔合わせなのだから、いつもよりちょっとだけ、目立たない程度に顔を作ろうと思って。


 私だって冷めてるとはいえ女子だ。


 きっと、遠野さんがあれこれ話している中で私のイメージは美化されているだろうから、少しでもそれに寄せられるようにいつもよりはマシに仕上げたい。


 ちなみに私のいつものメイクは五分以内で終了する。


 感染症のあれこれでマスク着用が習慣化してしまい、眉さえなんとかなってれば万事OKな世界になった影響で、ファンデーションをササッと塗り、眉だけしっかり描いて整え、目元はチャチャッと薄いアイシャドーを塗り、唇にもヌーディーな色の口紅を引けばもう完成という手抜きメイク。


 だけどリモートランチなのだから当然マスクは外すわけで、いつものようなチャチャッとメイクでは忍びない。


 今日はベースメイクからしっかりとやり、久々に取り出したホットビューラー(まつ毛をクルンとカールさせてくれる便利道具)でまつ毛をほんの少し上げ、これまた久々登場のマスカラでほんの少しだけまつ毛を盛り、いつもとは少しだけ違う色のアイシャドウとほんの少しのラメでアイメイクもしっかりと、でもあまり目立ちすぎない程度に頑張り、ピンク感のあるヌーディーな口紅を引いた上にグロスも塗り、ほんの少しだけ若見えできるようにと頑張ってみた。


 あまり「しっかり化粧してきた」感をだすと御局御三家がなんだかんだと探りを入れてくるため、ほんとうにほんの少しだけ盛ったメイク。


 こんなことを毎朝やっているガッツリメイク女子の皆さんを尊敬する。


 毎日やっていれば要点が掴めてメイク時間も早くなるとはいうが、それでも五分以内で終わることはなく、あの方々は私が使っているのよりももっとたくさんの種類のメイク道具などを使いこなしているのだから、本当に頭が下がる。


 私にしては結構しっかりとメイクをしたからなのか、今朝はいつもより気分が上がっている。


 だから玄関のドアを開けた時にまたもや透明エプロン男が立っていても通報はしなかった。


『気分がいいことに感謝ろよ! いつもの私なら情け容赦なく即通報してるからな!』


「おはよう」


 だけど通報しなかっただけで対応してやる義理はないため、無言でやつを押しのけて歩き出した。


「おはよう」


 私を早足で追いかけながらも挨拶を連呼している透明エプロン男。


 聞こえているけどあえて無視しているんだと、こいつはいつになったら理解するのだろうか?


 それとも私からの挨拶がなければいけない呪いにでもかかっているのだろうか?


 どっちにしても煩わしいことに変わりはないため無視一択だ。


 まつ毛を少し上げたせいなのか、世界もいつもより少しだけ明るく見える。


 やつさえ背後にいなければとてつもなく清々しい朝だったことだろう。


 どうせならエプロンを捨て去り透明男になってくれないだろうか、私の目に入らないように。


「あっ……」


 ドサッと音がし、チラッと横目で背後を見ると、やつが派手に転んでいた。


 歩道には、持っていた紙袋から飛び出したゴスロリの衣装らしきもの。


 割烹着、際どすぎ水着の次はゴスロリって、どんだけ一貫性がないんだよ。


 それにゴスロリには苦い思い出がある、しかもやつとの記憶と共に。


 ちょうどやつと付き合っていた当時、ゴスロリの衣装を着てみたいなーなんて思って買ってみたことがあった。


 黒ベースで、胸元とスカートの端などに白いレースやリボンの編み上げなどがある衣装で、ヘッドドレスもセットになっていた。


 靴下は白地に黒いレースのニーハイ。


 その衣装に合うように地雷系メイクにも挑戦して、自分ではなかなかいいんじゃないかと思って満足していた。


 だけどやつは言ったのだ。


「なにそれ、お前、そういうの似合わないんだからやめとけ」


 この一言でどれだけ傷ついたことか。


 しかも、裸透明エプロンの一件の後に連れてきた新彼女である風俗嬢が、ピンクと白のロリータファッションに身を包んでたというオチまでついているのだからタチが悪すぎる。


 以降、私自身はゴスロリもロリータも無縁で生きてきた。


 周りが着ているのはいいけど、自分とは別世界の衣装だと思って生きてきたのだ。


 なのに今更ゴスロリだと?


『テメェ、ふざけてんのかぁぁぁ! お前が似合わないって言ったんだろうがぁぁぁ!』


 それまでのアゲアゲ気分が一気に憤怒に変わったが、関わるとろくなことはないと判断して心の中で絶叫するに留まった。


『我慢した私を、誰でもいい、褒めろ!』


 今この瞬間、褒めの達人を召喚したい気分だった。


 ラッキーなことに電車をおりてすぐに大村課長と遭遇した。


 本日のハンドタオルは世界一有名なネズミだった。


「これね、孫と色違いのお揃いなんだ。遊びにいった時にね、孫がさ『じいじはこれ! 私はこれ!』って、僕にはこれを、自分のは色違いのピンクを選んでくれてね」


 大村課長のハンドタオルは水色ベース。


 なんとも微笑ましいエピソードだ。


 やつへの怒りも一気に浄化されていくのを感じている。


『やっぱ萌えはいいわぁぁぁぁ』


 しかし、孫というものはなぜそこまでじいじとばあばを虜にするのだろう?


 孫を題材にした演歌もその昔大ヒットしていたし、うちの社長もお孫さんの落書きをゆるキャラにしてしまうほどのデレデレぶりを発揮している。


 孫バカという言葉も存在しているくらい、孫に対して盲目的に愛情を注ぐ、それが大多数のじいじとばあばじゃないだろうか?


 うちのおじいちゃんおばあちゃんも例外ではなく、未だに顔を見せにいくと食べきれないほどのお菓子やおかずをだしてきて、あれもこれも食べさせようとするし、帰りにはお小遣いまで渡そうとしてくる。


 年金暮らしでそんなに大した額はもらっていないのだから、こちらがお小遣いをあげて然るべきだと思うのだが、是が非でも渡そうとしてくるため、断るのに毎回骨を折っている。


 敬老の日や誕生日、旅行にいった時のお土産なんてずーっと飾っているし、お土産で買ってきた可愛いキャラクターがプリントされたクッキーなんて、五年前の物なのに未だに捨てずに神棚のところにドーンと置いてある。


「いい加減捨てたら? また買ってくるよ?」


「あぁやって眺めるだけで嬉しいから」


 クッキーからしたら「食ってくれ!」だったと思うのだけど、さすがにもう食べられる状態にないのだから、大人しく供養してあげてほしい。

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