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おっさん観察日誌~普通のおっさんの中に可愛さを見出して悶えています  作者: ロゼ


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第15話

 デスクに到着すると鈴木さんに挨拶をされた。


「おはよう、牧野さん」


「おはようございます、鈴木さん」


 最近鈴木さんにはどうやら彼女ができたようだ。


 リア充め!


 ふと、ワイシャツから透けて見えるピンク色が気になった。


「中にピンクの着てます?」


「は? え? 見えちゃう?」


 かなり濃いめのピンク色なのでハッキリと見えている。


「色が濃いのでハッキリと見えてますね」


「えぇ、そんなに? まずいかな? 脱いだ方がいい?」


 接客などで人と会うなら脱いだ方がいいだろうが、その際は上にスーツのジャケットを着るのだし、そうなったらきっと目立ちはしないと思う。


「大丈夫じゃないですか?」


 そう言った瞬間、こちらを向いた鈴木さんを見て吹き出しそうになってしまった。


 胸元に、今女子高生の間で大人気だというゆるキャラがしっかりと浮き出ていたのだ。


「彼女とお揃いで買ったからさ、嬉しくて、どうしても着ていたくて」


 浮かれているとはきっとこういう人のことを言うのだろう。


 でも嫌いじゃない。


 これ見よがしに着ているんじゃないところがなんとも慎ましいではないか!


『鈴木さん、それも萌えっす!』


 女子はこういう点ではこれ見よがしに彼氏からのプレゼントを一番目立つように身につけてきて、あえてスルーしようもんなら気づくまで目につくようにアピールしてくる子がいたりするけど、男子はそういう点は慎ましやかだと思う。


 一人で彼女からもらった物を見てニヤニヤしていたり、周りに気づかれた時に「彼女からもらったんだ」なんて言いながら、嬉し恥ずかし顔をしているところがポイント高いと思っている。


「私、リア充なの! いいでしょ!」アピールしてくるやつは振られた時や別れた時の反動もとてつもなく大きいので面倒くさい。


 そして大体が付き合ってから別れるまでのスパンが短いから、いつだってうるさい。


 要は恋愛体質なんだろう。


「胸元のそれは、ちょっと気になりますね」


「え? 胸元? ……うわっ! めっちゃ透けてる! これはダメだ!」


 胸元から透けて見えるキャラクターに気づいた鈴木さんは、焦った様子でどこかへ消えていった。


 恐らくトイレに行ったのだろう、脱ぐために。


 数分して戻ってきた鈴木さんの手には、大事そうに抱えられた、ものすごく濃いピンクのTシャツ。


 それをデスクに座ると、いそいそと机の上に広げて、それはもう丁寧にたたみ始め、終わるとジッパー付きの袋に形が崩れないようにそっとしまっていた。


『なんですか、その丁寧すぎる仕事ぶり! 愛おしそうに袋を撫でる手! 幸せオーラ全開の笑顔! かぁぁぁぁ! ほんとご馳走様ですっ!』


 自慢してこない人のこんなふうな幸せな雰囲気は全て萌えであり、エネルギー源だ。


 自分だけで幸せを噛み締めているつもりだろうが、周囲にはダダ漏れで、だからこそほっこりする。


 これこそが計算のない言動といえる。


『鈴木さん、いつまでもお幸せにっ! ついでにまた萌えを放出してくださいっ!』


 鈴木さんはちょっと残念な恋愛が多かったようなので、今度こそは幸せになってほしいと心から思っている。


 でも、そのTシャツをチョイスするような女子は結構な確率で若くてキャピキャピしたあざと系な気がするから、また悲惨な結果にならないことを祈っている。


 飲み会の席で聞かされた鈴木さんの恋バナは本当に悲惨だったから、本当に幸せになってほしいもんだ。


 でもな、鈴木さん、若くてキャピキャピした子が好きみたいだからな……。


 鈴木さんに彼女ができたのだと気づいたほは割とすぐで、理由は明確だった。


 ニヤニヤしながらスマホを見ている時間が圧倒的に増えたから。


 ニヤニヤ通り越してデレッデレな顔をしてスマホをポチポチしてるの見たら、彼女ができたんだとしか思えなかった。


「彼女できたんですか?」


 って聞いた時の溶けそうなほどデレッデレの笑顔なんて、顔面崩壊レベルだったし。


「なんでわかったの? 実はさ、そうなんだ。あ、でも内緒ね」


「言いませんよ」


 そんな話をするような間柄の人間はこの会社にはいない。


 友達に話したとて「鈴木って誰?」だし、盛り上がらないし、話すこともない。


「実はさ、彼女、N&Dコーポレーションの受付嬢の子なんだ」


 その会社の受付嬢は二人いて、一人はクールビューティー系で、もう一人はふわっふわの綿菓子みたいな女の子。


「谷さんですか?」


 過去の恋バナから得た情報で、綿菓子女子の谷さんの名を出してみたら、やはりそうだった。


 華美にはならないツヤツヤ栗毛色に染めた髪をいつも緩く巻いていて、小柄。


 メイクはナチュラルさを装いながらもしっかりアイメイクと唇に全力を注いでいる(きっと男子にはわからない領域)子で、他社の若い人がくると大きな目で上目遣いして、語尾を伸ばしがちな甘い声を発していたのが印象的だった。


 私はクールビューティ系の森下さんにいつも声をかけるので、直接的話をしたことはない。


 よく知らない人だし、彼女がいい子である可能性はあるのだし、他人の恋愛に口をだす趣味もないので、ただ幸あれと思うばかりだ。


 鈴木さんに幸せでいてもらわなければ、たまに鈴木さんと私をくっつけようと御局御三家が変な行動をし始めるため、本当に幸せであってほしい。


 キャピ系女子にもいい子はいるんだと信じさせてくれ、鈴木さん!


 未だにジッパー付きの袋を机の上に置いてニヤニヤしている鈴木さんにそっと念を送っておいた。


 ふと大村課長を見ると、鈴木さんを見ながら微笑ましい笑みを浮かべているのが見えた。


『課長にも気づかれてますよ、鈴木さん。ダダ漏れすぎますって。Tシャツより濃いめのピンクオーラ全開っすよ!』


 だけど今は就労時間。


 それを忘れてしまうほどの恋愛とは……私とは無縁すぎてよくわからない。


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