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おっさん観察日誌~普通のおっさんの中に可愛さを見出して悶えています  作者: ロゼ


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第11話

「あらぁ、挨拶回りをしているのね。お仕事大変ねぇ」


 おばあさんのペースにすっかり飲まれ、ほんわかとしながらも永遠に浸かっていたい適温のお風呂のような時間を少しだけ過ごした。


 さよならするのが心から名残惜しかったけど、仕事があるから断腸の思いでおばあさんと別れた。


 その後、目的の会社に到着するまでの間に鳩を見つけて撮影し、ベビーカーの赤ちゃんに蕩けた。


 笑顔を振りまく赤ちゃんはなぜあんなに殺傷能力が高いのだろうか?


 ご機嫌な笑顔を振りまいているだけなのに見た者の心を確実に射抜き、体中の骨という骨を溶かして完全なる骨抜きにしてしまう、どんなに厳つい顔の人でもたちまち笑顔になってしまう。


 世界最強の萌えを意識せずに振りまいている存在、それが赤ちゃん。


 動物でも人間でも赤ちゃんは等しく強い。


 守ってもらわねば生きていけない存在であるため、生存本能から……なんて小難しい話を説明していた偉い学者さんの記事を読んだことはあるが、んなことはどうでもいい。


 可愛いもんは可愛い!


 それが全てだし、真理である。


 エイトクリエイティブで減った萌え以上を蓄積できて、ホクホクで訪れた『中村文具』。


 こちら、うちと同じく事務用品、主に文具を扱っている会社だけど、一般向け商品であるためうちとは競合しない会社である。


 この会社のイメージキャラクターは猿。


 創設者だった初代の社長が無類の猿好きであったため、なにかと猿のイラストなどを使った商品が多く、昨今のゆるキャラブームに乗っかって猿と文房具を組み合わせた「文房ッキー」くんを数年前に大々的に発表していた。


 うちのキャッ! トくんよりは可愛いけど、残念ながら認知度は低いようだ。


 ここに挨拶回りに来ると必ず対応してくれるのは『佐藤 守』さん。


 ひょろんと長い茄子のような顔に広い(というか後退してる)おでこ、いつもおどおどしか雰囲気を出しているおっさんである。


 佐藤さんは大の和菓子好きで、挨拶回りに伺うと必ず佐藤さんチョイスの和菓子が出てくる。


 これが見た目が綺麗で美味しいため、和菓子目当てで佐藤さんに会いたがる女子がいたりする。


 当の佐藤さんの評価はというと……まぁ、言わないでおいた方がいいと思う。


「牧野さん、お久しぶりですね」


 チラッとだけ目を合わせて挨拶をする佐藤さん。


 これが佐藤さんの当たり前である。


「ご無沙汰しております。お変わりありませんか?」


 キャッ! トくんグッズ詰め合わせを渡しながら挨拶。


「僕は変わりようがないからねー。今更昇進するわけでもないし」


 自虐発言も多い佐藤さん。でもそれが佐藤さんである。


「とりあえず座ってよ。あ、お茶菓子お茶菓子」


 今回目の前に出されたのは、羊羹の上に透明なゼリー状にも見えるなにかの中に紅葉やイチョウを模した物が閉じ込められた、目にも華やかな和菓子である。


「牧野さんがくるっていうからね、若い子によさそうな華やかな和菓子にしてみたんだ。どうかな?」


 普段和菓子は食べないのだが、こういう特別感のある物は大好きである。


「綺麗ですね……あの、写真を撮ってもいいですか?」


「いいよいいよ、撮りたくなるよね。僕ももう撮ってあるんだよ」


 和菓子について語る時の佐藤さんは饒舌になる。


「それね、土台が栗羊羹で、上に乗ってるのはね、錦玉羹(きんぎょくかん)っていってね、寒天と砂糖や水飴を固めた和菓子なんだよ。その中にね、錦玉羹にもち米を加工したみじん粉を加えて作ったみじん(かん)で作った紅葉なんかを浮かべて秋を表現してるんだよ。みじん粉を加えただけなのに食感が変わってね、見ても食べても楽しいんだ」


 うっとりとした表情で和菓子を語る佐藤さんはなかなか乙なものである。


「遠慮なく食べてね」


 そう言いながら、いそいそと自分の和菓子に手をつける佐藤さん。


 和菓子を食べる際に使われる楊枝、「黒文字(くろもじ)」でスッと一口サイズに切り分け、切った物を黒文字で刺して慎重に口へと運んでいる。


 この楊枝が黒文字という名称だということも以前佐藤さんに教えてもらった。


 目を閉じ和菓子を口に入れて咀嚼しながら、両手で頬を押さえていることには、きっと本人は気づいていないだろう。


 その姿はスイーツを食べている女子そのものである。


 余程美味しいのか、体も小さく横揺れしている。


 目を閉じて味を噛み締めている姿はまさに萌えである。


 ここまで喜んで食べてもらえたら、作った職人も和菓子そのものも大喜びに違いない。


 もう佐藤さんを見ているだけで満足感が凄いのだけど、せっかく出されたのだし、こういうものはなかなか食べる機会もないため遠慮なくいただく。


 水羊羹とは違って、ある程度の固さがありながら、噛むと栗の食感と共にみじん羹のシャリっとした食感もやってきて、しつこくない上品な甘さも嬉しい逸品。


 寒天であるためツルンとした食感もあり、本当に見ても食べても楽しめる和菓子になっている。


 ふと視線を感じて顔を上げると、私を見て満足そうな笑みを浮かべた佐藤さんと目が合った。


「美味しいでしょ?」


「はい、とっても」


「そうでしょ、そうでしょ」


 自分チョイスの和菓子が好評だと一気にテンションが上がり、人と目を合わせるのも平気になる佐藤さん。


 逆に「和菓子はちょっと」なんて言われたら一気にテンションが下がって目すら合わせてもらえなくなる。


 こういう単純さも萌えである。


 萌えに計算は一切必要ないのだ。


 本能のまま動いた結果が可愛い、それが全てであり、それが真の萌えである。


 その後、和菓子について幸せ全開オーラを出して語る佐藤さんを満喫しつつ、以前購入してもらった商品の調子なども確認し、お土産に栗まんじゅうまでいただいて、中村文具を後にした。


 


 

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