第一話
世間では今ちょっとしたおっさんブームが一部で起きているらしい。
異世界ファンタジーでは、おっさんが無双したり、ゆるくスローライフを送ったりが一部ではとんでもなく人気を博しているらしいし、異世界恋愛や現代恋愛でもイケおじと言われるおっさん達が持て囃されていたりするようだ。
かくいう私もおっさんを愛でている人間の一人だけど、そういう人達とはジャンルが違い、私は異端者だと言われてしまうのだという認識をしている。
私が愛でているおっさんは、おっさんはおっさんでも決してイケていない、その辺に普通に生息していて、時にはキモイ! なんてまで言われてしまうようなおっさんなのだ。
そんなののどこに需要があるの? と人に言えば十中八九首をかしげられるだろうけど、ここに需要はある!
確かにセクハラしてくるおっさんや、清潔感のないおっさんは論じるのも嫌だけど、そうではない、ごく普通のおっさんは、ちゃんと見ると意外と可愛らしい側面を持ち合わせていて、しかも本人にその自覚がない。
無自覚の可愛らしさほど威力は半端なく、もはや暴力である。
そこに萌えを見出している私は、今日もウキウキと会社に出勤するのだ。
だって、会社には無料で観察し放題のおっさんがわんさかいるんだから、テンションが上がらないわけがない。
別にね、キモイ人やおっさんが好みだというわけではない。
イケメンすぎるのは胡散臭くて近寄りたくないけど、恋人にするなら多少は容姿が綺麗な方がいいと思うし、清潔感と中身のバランスがよくて、好感度高めの人が好きだし。
そもそもおっさんには萌えを感じる部分はあるけど、恋愛対象としては論外。
あまりにも歳が離れすぎている男性は「お父さん」のような感覚にしかならないし、そこに恋心なんて芽生えようがない。
それとこれとは全くの別物なのだ。
彼氏が主食だとしたらおっさんは一口サイズのおやつみたいな感覚だろうか?
有名パティシエによるスイーツではなく、スーパーやコンビニで手軽に買える、個包装されたチョコやクッキーなんかが私にとってのおっさんである。
イラストなんかは美麗でキラキラしたイケメンキャラに悶えるし、キモヲタ感満載のキャラには嫌悪感すら抱くこともある。
その点の美的感覚は至って普通だと自負している。
でも小腹が空いた時の一口サイズおやつの至福というものを知っているため、おっさん達からも定期的に萌え供給してもらっているだけ。
「おはようございます」
会社に着くなり発見した、私の上司でもある大村課長に挨拶をした。
「あぁ、おはよう。今日も元気だね」
大村課長は汗っかきで、今日もせっせと額の汗をハンドタオルで拭っている。
『おぉ! 今日は桜柄なのですね! どこで買っているのでしょう? 可愛い小物が並んでいる店内で、もしかして所在なさげにしながら選びました? 想像するだけで萌えます! 萌えですよ、それ!』
脳内では盛大に叫んでいるものの、そんなことはお首にも出さない。
大村課長は毎日ハンドタオルを持参してきているのだが、その絵柄が毎回愛らしく、汗っかきで結構頑固で口うるさい上司という立場にいる普段の顔からは想像もつかない物ばかり。
昨日は最近流行りのキャラクターが描かれていたハンドタオルだったし、その前は黒猫が描かれている物を使っていた。
おっさんにはミスマッチなそれが私にはドストライクで、非常に刺さる。
「自分で買ってるんですか? 毎回素敵なハンドタオルを使ってらっしゃいますよね?」
一度そう尋ねたことがあった。
「あぁ、これ? 僕さ、こういうのを集めるのが好きなんだよね。おかしいだろ?」
その返答に、その時の表情に、鼻血を吹き出しそうになっていたことは私以外誰も知らない。
少し照れたように、だけど褒められたことが心から嬉しそうに笑うその顔は、控えめに言っても「何それ! クッソ可愛くね?」だったし、自分で選んでいるというその一点に関しては拍手喝采を送りたいレベルで萌えたのだ。
え? 意味がわからない?
そう思うのは勝手だし、そこに萌え見出せない人はちょっと損しているんじゃないだろうかと思う。
私は別におっさんにだけ萌えを見出しているわけではなく、可愛いものが大好きなだけ。
日向ぼっこしている猫や、ルンルンとお散歩している犬、プクプクとまん丸くなっている雀、ベビーカーの中で笑っている赤ちゃん、テトテトと歩いている幼児にも正常に「可愛い」と反応するし、多分おっさんの可愛さよりはそっちの方が好きだ。
でもそんなシーンには会社で仕事をしている限り巡り会えないため、おっさんの中の可愛いで萌え吸収して、ハッピーに生きているだけだ。
そもそもおっさんで萌えること自体がわからない?
甘いな。可愛いはどこにでも転がっていることにまだまだ気づいていない初心者じゃないのかな?
じゃあ、別に女性やその他の男性でもいいんじゃないの?
それこそ甘い!
だってそういう人らのことは誰かしらが確実に愛でていて、萌えを吸収しているでしょ?
むしろ出涸らしとすら言えるのではないだろうか?
そしてそういう人達は自分が「可愛い」と認識している人種が多く、人の目に触れるための可愛らしさを出しているため、天然とは言えない、もはや養殖だと断言してもいいものなのだ、私の中では。
打算も計算も何もない、純真無垢な、一切作りのない可愛さを会社の中で発している、それがおっさん。
だから私はおっさんから萌えを吸収し、脳内で盛大に悶えるのだ。
だからなに言ってるかわからない?
そこはフェチの違いだと思ってほしいものだ。
フェチは千差万別。
私は無類の可愛い好きなのだと、おっさんからでも可愛いを吸収できる達人レベルの可愛いマスターなのだと思ってもらいたい。




