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なつみかんの短編集

これからもずっと

作者: なつみかん
掲載日:2025/12/30


俺の三十五歳の誕生日より、少し前。

妻の「ささみ」が逝った。


死因は餅だった。

餅を喉に詰まらせたらしい。


……婆さんかよ、って思った。

思ったけど、他に言いようがなかった。


ささみとは高校の頃からの同級生だ。

気づいたら隣にいて、

気づいたら結婚していた。

二人三脚って言葉が、たぶん一番しっくりくる。


四十九日も終わった。

仕事から帰って、靴を脱いで、電気をつけた。


リビングに、ささみがいた。


しかも、出会った頃の高校生の姿で。


「……何してんだよ、その格好」


「見て分かんない? 制服」


そう言って、ささみは腰に手を当てた。

ため息のつき方まで、昔のままだ。


「死んだらさ、好きな年齢になれるのかもって思って」


頭の上には、それっぽい輪っかが浮いている。

どうやら、死んでるのは間違いないらしい。


「とりあえずさ、あんた痩せたでしょ。ちゃんと食べてる?」


高校生の顔で言う台詞じゃない。


それから、夜になるとささみは現れた。

明るくて、うるさくて、世話焼きで、

生きてた頃と何も変わらなかった。


「洗濯ネット使えって言ってるでしょ」

「電気つけっぱなし!」

「はいはい、生きてるだけで百点」


死んでるくせに、偉そうだった。


ただ一つ、避ける話題があった。

日付とか、誕生日とか、その辺り。


ある夜、ささみが妙に落ち着かなくて、

押し入れの前をうろうろしていた。


「……ねえ」


「ん?」


「理由ってさ、立派じゃなきゃダメかな」


「何の?」


「いや、なんでもない」


そう言って笑ったけど、目を合わせなかった。


しばらくして、ささみは観念したみたいに言った。


「誕生日、もう過ぎてるよね」


「ああ」


「私さ、プレゼント買ってたの」


押し入れの奥から、小さな箱を指さす。


「渡す前に死んじゃってさ。今さら言うの、ちょっと恥ずかしくて」


「……それだけ?」


「それだけ」


自嘲気味に笑う。


「こんなんで彷徨ってるの、ダサいよね」


箱の中には、腕時計が入っていた。

シンプルで、実用的で、ささみらしい。


一緒に、手紙も入っていた。


誕生日おめでとう


今年も一緒に迎えられてうれしいです

三十五だって

もういいおじさんじゃん


これ、前に欲しそうにしてたから

覚えてたよ

忘れてないからね


来年も、その次も

たぶん同じ感じで

ぐだぐだしながら

一緒に生きてくんだと思います


まあ、たまにケンカするだろうけど

それも含めてさ


これからもずっと一緒だよ


ささみ


読み終わって、顔を上げた。


ささみはいなかった。


さっきまで立っていた場所には、

何も残っていない。


静かだった。


手元の腕時計をつける。

秒針が、ちゃんと動いている。


それだけだった。

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