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4  母の本音と元婚約者からの手紙 ②

今の話はお母様なりの私への最後の挨拶だったんだろうか。


 愛されていないとわかっていた。でも、ここまで憎まれているとまでは思っていなかった。


「どうして私の髪と瞳の色だけ、お祖父様の髪色になってしまったの? こんな辛い思いをするんなら私だって、こんな姿で生まれたくなんかなかった!」


 溢れ出てきた涙がシーツを濡らす。


 こんな私では、イディス様にもすぐに捨てられる。いや、その前に結婚を断られてしまうでしょう。

 そんなことになったら、私の居場所はない。婚約者は寝取られ、両親にも愛されていない。優しいと噂のお姉様も自分のことに精一杯で私を助ける気なんてない。


 もう辛い。嫌だ。どうして私は生きているんだろう。私が生まれなければ、お母様は苦しむことはなかった。


 それなのに、どうして生まれてきたの?


 お母様の言う通り、私はお姉様のために生まれてきただけで、利用価値がなくなったら死ぬしかないんだろうか。


 そうすれば、お母様は喜んでくれるの?


「……ダリア様、大丈夫ですか?」


 部屋に入ってきたナナたちが、心配そうな顔をして駆け寄ってきた。


 大丈夫なんかじゃない。でも、そんなことを口に出してはいけない。弱音を吐けば、ナナたちを心配させるだけだ。泣くことを止められないのなら、せめて一人になった時だけにしなくちゃ!


「大丈夫よ。心配してくれてありがとう」 


 涙を服の袖で拭おうとすると、メイドがハンカチを差し出してくれた。


 ナナたちに頼めば、お兄様に話をしてくれるかもしれない。でも、お父様たちだって、少しは考える頭があるでしょう。

 さすがにお兄様を誰かに監視させているだろうから、バレずに近づくことは難しい。


 せめて、ナナたちは守らなくちゃいけないから、危ない橋を渡らせるわけにはいかない。


 黙り込んだからか、ナナが話しかけてくる。


「王妃陛下がどんなことをおっしゃったかはわかりませんが、ダリア様はロフェス王国に行かれたほうが良いと思います」

「……どうしてそう思うの?」


 ナナはロフェス王国の王族の推薦でやって来た。私たちが知らないことを知っているのかと思って聞いてみた。


「申し訳ございません。今は詳しいことをお話できないのです」

「わかったわ」


 ため息を吐くと、メイドが白い封筒を差し出してきた。


「ロイン様からのお手紙だそうです。危険物が入っていないことは確認しましたが、手紙は読んでいません」

「……ありがとう」


 今さら、何を書いてきたのかしら。


 封が切られた封筒を受け取り、便せんを取り出して目を通す。


『怪物王子の所に嫁に行っても、どうせ殺されるだけだ。惨めな死を遂げるくらいなら気高い死を選んだほうが良いんじゃないか?』


「酷い」


 ロインは私に死ねと言っている。彼との関係は上手くいっていると思っていたのに違ったのね。


 また涙が溢れそうになったけれど、みんなの前なのでなんとか堪えた。


「どうかなさいましたか?」

「……嫌なことが書かれていただけ」


 尋ねてきたナナに答えると、メイドが慌てて頭を下げる。


「申し訳ございません。受け取った私が悪いのです」

「あなたは悪くないわ!」


 慌てて否定すると、眉間にシワを寄せたナナが尋ねてくる。


「あまり良くない内容のようですが、お返事はされますか?」

「……いいえ」


 ロインの手紙には続きがあった。


『君に渡したいものがある。それはラムラ様に預けているから必ず受け取ってほしい。君のためになるものだ。それから、この手紙は読み終えたら焼き捨ててくれ』

 

 渡したいものなんて碌なものではないでしょう。しかも、どうして私に渡したいものを本人に渡さずにお姉様に渡しているのよ。

 手紙を焼き捨てろと指示しているのも、この手紙が残っていれば困るからだわ。


 私は手紙を焼き捨てることはせずに、机の引き出しにしまった。


「ロインに気を取られている暇はないわ」


 ナナたちに強い口調で告げると、嫁入りするための準備を始めることにした。

 

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