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3  母の本音と元婚約者からの手紙 ①

 たくさん泣いたら、あんな人たちのために悲しむことがだんだん馬鹿らしくなってきた。そのかわりに思い浮かんだのは、ロフェス王国がどんな反応をするかだった。

 お姉様が嫁にくると思っていたのに、急遽私に変更になったと聞いたら、なんと言ってくるだろうか。

 嫁ぐことはできても必要のない妻として、みんなから嫌われるんだろうか。ロフェス王国の国民にもお姉様の評判は良いと聞いている。私みたいな地味な人間が嫁になったらがっかりするわよね。


 イディス様だって、私が相手だとしたらどんな反応をするんだろう。


 不安や問題は山積みだけれど、私が考えてどうにかなるものでもない。今頃はロフェス王国の王家にも連絡がいっているでしょうし、向こうから何かしら反応があるでしょう。

 

 安静にしているように言われたため、朝食は部屋に持って来てもらったが、色んな意味で頭が痛くて、ほとんど喉を通らなかった。残してしまった食事をメイドが片付け終えた時、入れ替わるようにお母様が部屋にやってきた。


 お母様はお姉様と同じ髪色と瞳を持つスレンダー体形の美人だが、お姉様の穏やかな雰囲気とは正反対に、体から冷気を放っているのではないかと思うくらいに冷たい印象を受ける女性だ。


 部屋の中にはナナや他のメイドもいて、私に近づいてくるお母様を警戒するように見つめている。彼女たちに聞こえては困るのか、お母様は小さな声で話しかけてくる。


「あなたとロインの婚約の解消が決まったわ」

「そうでしょうね」


 お父様もそうだったけれど、娘が怪我をしたというのに心配する素振りは一切ないのね。


「ロインには責任を取ってもらい、ラムラの夫になってもらうという話は聞いたかしら」

「……いいえ。お姉様とロインが関係を持ったという話しか聞いていません」

「そうなのね。じゃあ詳しい話をしてあげるわ」


 お母様は冷たい笑みを浮かべると、ナナたちに部屋から出ていくように命令した。私と二人きりになると、嬉しそうな顔で話し始める。


「私と陛下が考えたシナリオはこうよ。国民にはラムラは海賊に襲われたので、イディス王子の元に嫁ぐことができなくなり、その代わりにあなたが嫁ぐことになったと伝えるわ。海賊に襲われてショックを受けたラムラは城に引きこもる。婚約者が他国の王子に嫁いでしまったロインと自分のせいで妹を嫁にいかせてしまったと嘆く優しいラムラは恋に落ちる。そして、二人は結婚するのよ」


 誰にでも書けそうな無茶苦茶なシナリオね。終わり良ければすべて良しというところ?


 イディス様と結婚させるのが嫌なのか、それともお姉様を他国へ行かせるのが嫌なのか。ロインとの結婚はお姉さまが望んだことなのだろうか。


 疑問が次から次へと湧いてきて嫌になる。そんな私のことなどおかまいなしに、お母様は話を続ける。


「ロフェス王国には海賊を制御できず、ラムラを傷物にしたと慰謝料を求めるわ」


 頭を打った所が痛いのか頭痛なのか、判断できないくらいに頭が痛い。お兄様が15歳の頃から自分が国政に関わると言い出した理由がわかった気がする。


「そんなことをして、ロフェス王国の怒りを買ったらどうするつもりなのです?」

「そうならないように、あなたが努力なさい。大事なお友達を殺されたくなければね」


 お母様まで、ナナや私に同情してくれている一部のメイドたちを人質に取るなんて―― 

 お兄様に相談してみようか。お兄様ならこんな馬鹿なことを許すはずがない。


「リックスに話してもメイドの命はないわよ」


 こんな時だけ勘が良いのか。まあ、これくらいなら誰でも考えることだものね。


「今までのあなたは私にとって必要のない存在だった。こんなことを言ったら、あなたは私を冷たい母親だと思う? でも、仕方がないでしょう? あなたのせいで私は苦しめられたんだもの。だけど、今回の件で初めてあなたを産んで良かったと思えたわ」


 お母様は笑いながら、ダンスを踊るかのようにくるくると回る。


 愛されていないとわかっていたけれど、ここまで言われてしまうと、ショックで涙が出そうになった。だけど、泣いたって意味がない。私はお母様の言葉には反応せずに訴える。


「ロフェス王国に嫁ぐことは嫌ではありません。ですが、私にお姉様の代わりなど務まるわけがありませんので、向こうがなんと言ってくるか」

「当たり前のことを言わないでちょうだい!」


 私が話をしている途中だったが、笑顔だったお母様の表情は一瞬にして変わり、目を吊り上げて大声で叫ぶ。


「あなたがラムラの代わりになれるわけがないでしょう!」

「代わりに嫁に行けとおっしゃいましたよね?」

「訂正するわ。あなたを押しつけるのよ」


 それもお姉様の代わりに違いないと思うんだけど、良い意味か悪い意味かといったところなのかしら。


 お母様は私の髪を引っ張って続ける。


「あなたの瞳と髪の色が私たちと違うせいで、私は不義を疑われたの。あの時の辛さは一生忘れないし、私にあんな思いをさせたあなたを絶対に許さない」


 言いたいことだけ言い終えると、私の返事は待たずに部屋から出ていった。

 

 

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