33 裸の王様
夜が明ける前に出発し、空が明るくなった頃に港に着くと、用意されていた船に乗り込んだ。
すでに父たちの船はユーザス王国の港に着いている時間だったが、今頃はロフェス王国の兵士や騎士たちが海賊を制圧し、ユーザス王国の港近くの海に停泊している段取りだとイディス様が教えてくれた。
数時間の航海で私たちが追いついたところで、父たちの乗った船は入港した。
イディス様に「色々とありましたが、ユーザス王国の陛下もラムラ王女も無事だそうです」と話しているのを聞いて、イディス様に尋ねる。
「父や姉はどうなったんでしょうか」
殺されはしていないでしょうけれど、拷問か何かをされたのかしら。
「今からわかるよ」
目立たないようにフードを被ったイディス様が苦笑して言った。
港に降り立ち、少し離れた大型船用の桟橋に向かって歩いていくと、多くの男性が手縄をされて歩いているのが見えた。
捕まった海賊たちだと思われる。捕まったのになぜか楽しそうにしているのが不思議だった。
入港の手続きをする建屋に入ったところで、人だかりができていることに気がついた。
「何の騒ぎでしょうか」
不思議に思って口に出した時、父の声が聞こえてきた。
「見るなあっ! 見世物じゃないんだぞ!」
驚いてイディス様に目を向けると、彼は近くにいた兵士に話しかける。
「一体、どうなってるんだろう」
「女性には……いえ、男性もあまり見たくない光景かもしれません」
「どういうこと? 怪我をしてるのかな」
「いえ……、そうではなく」
兵士が言葉を濁していると、私に近寄ってくる人物に気がつき、兵士やイディス様が私を庇うように立った。
「ダリア! 助けて! 私っ……、お父様に裏切られたの」
近づいてきた姉の顔は酷いものだった。涙で化粧が落ちているせいで、頬に黒い線ができていて、目の周りも真っ黒だ。
「裏切られた?」
聞き返したと同時、姉の声に気がついた、ギャラリーの一人が叫ぶ。
「ラムラ殿下とダリア殿下!? しかも、リックス殿下まで!」
イディス様の顔はまだロフェス王国の国民でさえ知らないくらいだから、ユーザス王国の国民が知る由もない。フードを被っているから付き人だと思われているのでしょう。
「ダリア殿下って地味かと思っていたけど、化粧をすれば綺麗なんだな」
「本当だ。それにラムラ殿下を見ろよ。あの酷い顔」
王族に対しての発言じゃない。今までの私なら何も言えずに俯いていただけだった。
声が聞こえてきた方向に鋭い視線を向けると、慌てて彼らは口を閉じた。
「リックスがいるのか!? おい、リックス! 上着を貸せ!」
父が叫ぶと、ギャラリーの人たちは、徐々に私たちに道を開けていく。
すると、私たちの視界に入ってきたのは、裸になっている父だった。下半身は誰かから上着をもらったのか隠しているので見えないが、引き締まった体かと思っていたけれど、お腹がでっぷりとしていて驚いた。
「海賊たちは陛下に暴力をふるってはいませんが、全ての服を脱ぐように命令したのです」
乗組員として紛れていた騎士が、イディス様に報告した。
「おい、リックス! 早く助けろ! このままでは私の権威が損なわれるだろう!」
「もうすでに損なわれていると思いますよ」
お兄様が答えると、父は私に視線を移す。
「ダリア! 悪かった! これからはお前を大事にする! だから助けてくれ!」
調子の良いことを言う父に呆れてしまう。
助けるわけがないでしょう。
私は笑顔を作って答える。
「裸の王様というのは異国ではこういう意味があるそうです」
「……なんだ?」
「我が強すぎて批判、反対を都合よく解釈する人や、周りの人の意見を聞かない地位の高い人だそうです」
「なっ!」
父が顔を真っ赤にして叫んだ時、ユーザス王国の騎士隊の腕章をつけた男性が数人やって来て、父に話しかける。
「公共わいせつの罪でお話を聞かせていただきます」
「こ、これは違う! 私は無理矢理こんな姿にさせられたんだ!」
「詳しいお話は場所を移してお聞きしますので」
「わ、わかっているのか! 私は、こ、国王なんだぞ! お、お前たち、全員、しょ、処分してやるからなあ!」
連れて行かれる父は、強気なセリフを吐きつつも声を震わせていた。
自分が国王の座から下ろされることに気がついているのでしょう。
子供の入れ替えは公にされていないので、それ以外の多くの罪に、父は問われるはずだ。
しなくてもいいことをしたのは父だから、助けはしない。
でも、彼がどうなるのか罰が確定するまでは見届けようと思った。




