26 断罪パーティー ②
私が準備を整えた時にはイディス様はすでに着替えを終えて、私の部屋の隣にある空き室で待ってくれていた。
「お待たせいたしました」
「……いつもと雰囲気が違うね」
今日の私はイディス様からプレゼントしてもらった赤色のドレスを着ている。パーティー用のドレスを着たことはあったけれど、地味な顔立ちをしているから暖色系は似合わないと言って、ロインが贈ってくれるのはいつも寒色系のドレスだった。
寒色系のドレスが似合わなかったとは思っていない。でも、今日着ている深紅色のドレスに袖を通した時、自分の印象がこんなにも変わるものなのだと驚いた。
「おかしいでしょうか」
「そんなことない、似合っているよ。とっても綺麗だ」
「嬉しいです。ありがとうございます。イディス様は今日も素敵です」
綺麗だなんて言葉を言われたのは初めてだ。単純だから、社交辞令だとわかっていても笑みが浮かんでしまう。
「ありがとう。じゃあ、行こうか」
「はい」
イディス様にエスコートしてもらい、馬車で会場に向かう。遠慮したナナをイディス様の権限で同乗してもらうことにし、馬車が動き出してすぐに彼女に話しかける。
「今日のお兄様のパートナーはあなたなの?」
「はい。ロフェス王国の陛下にも許可はいただいております」
「他国の王太子のパートナーだから、自分だけで判断するわけにはいかないってこと?」
「そういうわけではないのですが、報告は大切なことですから」
「……そうよね」
報告とはまた違うかもしれないけれど、先に伝えておけば変な誤解を生むこともないかもしれない。
「イディス様、今日の私は姉を元婚約者絡みのことで責めるつもりです。好きだったのは過去のことで、今はそうではないことだけ覚えていてもらえますか」
「うん。わかっているつもりだけど、やっぱり言ってもらえると嬉しいね」
「言っておいて良かったです」
微笑み合っていると、ナナが大きな咳ばらいをする。
「お二人が仲良くなっていて本当に嬉しいです。ですが、今は集中してくださいませ」
「そうよね。ごめんなさい」
ナナに謝罪したところで、迎賓館にたどり着いたのか馬車が停まった。
迎賓館の入り口でナナと別れ、私たちは裏口から中に入った。父や姉はすでに大広間にいると、メイドが教えてくれた。婚約披露パーティーでは、ロフェス王国の陛下からお言葉をいただく予定だが、今日は前夜祭という名の断罪パーティーだ。
大広間はダンスホールほど大きくはないが、50人程度なら収容できる広さだ。
今回は周辺国やユーザス王国と関係の深い国の王族や重鎮しか集まっていないため、大きな楕円形のテーブルの席に着いて話をすることになっている。
控室で待っていてくれたロフェス王国の両陛下に挨拶し、予定の開始時刻よりも早いが、出席者が全員集まっているということなので、私たちは両陛下と共に大広間に足を踏み入れた。
父と姉の席は扉のすぐ近くだったので、姉が立ち上がって叫ぶ。
「ダリア! あなたには本当に悪いことをしたと思っているの! でも聞いてちょうだい! あれはロインが悪いのよ!」
公爵レベルでも緊張するような場というだけでなく、ロフェス王国の両陛下を立たせたまま、久しぶりに会った姉は周りのことなど気にする様子もなく続ける。
「私たち、仲の良い姉妹だったでしょう? 私があなたを裏切るわけないじゃないの」
「ロインの本性を知って誰かのせいにしたいのかもしれないが、悪いのはロインと命令したお前の母だ。ラムラのことは許してあげなさい」
父が眉根を寄せて言った。
お前の母……ね。
そう言われてみれば、父が母のことを名前で呼んだことはなかった。
聞いたことがあるのは『王妃』だとか『妻』、もしくは『おい』などだ。
父は母のことを愛していなかった。
このことにもっと早くに気づいていれば、父に母への愛情がないことに気づけたのかもしれない。
母はこの人に縋りついてどうするつもりだったんだろう。
私が家族に愛されたいと願っていたように、母も父に愛されたいと願っていたんだろうか。
だから、父が溺愛している姉のために自分の身を犠牲にしたの?
「ダリア?」
イディス様に声をかけられて我に返る。
……今はこんなことを考えている場合じゃないか。
私は大きく深呼吸してから、カーテシーをする。
「失礼しました。みなさま、これからお見苦しい場面をお見せすることになりますが、お許し願えますでしょうか」
こうなることは予想していて招待客には話をつけているので、着席している人たちはみんな、異論はないと首を縦に振った。
ロフェス王国の両陛下も無言で頷き、指定された席に着く。
イディス様は席には着かなかったが、一歩後ろに引いただけなので私に任せてくれるということなのだろう。
「ありがとうございます」
一礼してから、手を合わせて私を見つめる姉に話しかける。
「仲の良い姉妹だった時があるとすれば、あなたが私の元婚約者を誘惑する前までです」
「私は誘惑なんてしていないわ! ロインが私を襲ってきたの!」
「いい加減にしてください。あなたはあの日、私の所に賊が入ったことをもうお忘れですか?」
「そ……、それは、怖かったから覚えているわ。一人でいるのが怖くて、部屋に閉じこもっていたの。そこにロインがやって来て……」
「私は賊に襲われて気を失っていました。賊が捕まったから、あなたは部屋に帰れたのでしょうけれど、一人が怖い上に私と仲の良い姉妹だったと言うなら、どうして私の側にいてくれなかったのです?」
私の問いかけに姉は言葉を詰まらせ、怯えたような顔をして私を見つめた。




