21.5 私は悪くない
読んでいただき、ありがとうございます!
ラムラ視点になります。
ダリアが旅立ってから、十日以上が経った。
取り調べが始まってからは、お父様やお母様と話す時でさえ騎士団の監視が付いている。自分の部屋に一人でいる時だけが、私の心休まる時間だ。
私の人生はずっと順調だった。
多くの人に愛され、私が微笑むだけで幸せな気持ちになってくれていた。でも、今は違う。一部の人から避けられているし、騎士団の人からは冷たい目で見られている。
リックスの態度もそう。今までは私には当たり障りのない態度で接してくれていた。それなのに、今では蔑んだ目で私を見ている気がする。
どうして責められなくちゃいけないの?
私は全部、ダリアのためを思ってやったの。自分の身を穢したのもお父様に言われたから。そうすればダリアが幸せになるって言ったんだもの。
私はお父様……ではなく、お母様に騙された被害者なのよ!
もやもやした気持ちでいると、前触れもなくリックスが訪ねてきた。部屋の中に招き入れ、ソファに座るように言ったけれど遠慮された。ダリアが可愛がっていたメイドもまだここに残っているらしく、無表情で彼の後ろに控えている。
「姉上に報告しておきたいことがあります」
「何かしら」
やっと私に対する疑いが晴れたのかと期待した。でも、その話じゃなかった。
「イディス殿下とダリアの婚約が正式に認められ、近いうちに婚約披露パーティーが開催されるそうです。水面下では式の準備も進めているようですし、何かお祝いの品でも送ってください」
「ちょっと待って!」
言いたいことだけ言って去っていこうとするリックスを引き留める。
「イディス様はダリアを選ぶと言っているの? 私ではなく?」
問いかけると、リックスは呆れた顔で私を見つめた。
「姉上。あなたはイディス殿下との結婚を嫌がっていたのでしょう? あなたがサインした書類の件をなかったことにしたとしても、普通の人間が自分を嫌っていた人を選ぶわけがないではないですか」
「それは何も知らなかったからよ! 誰だって怪物のような見た目の人と結婚するのは嫌でしょう!?」
「ダリアは嫌がりませんでしたよ。そんな彼女だからイディス殿下はダリアを妻にすることに決めたのでしょう。彼の判断は間違っていないと思いますよ」
「リックス! どうしてそんな意地悪を言うの!? 私、こんな気持ちになったのは初めてなの! 姉の恋を応援してくれても良いじゃないの!」
泣きながら訴えると、リックスは眼鏡のブリッジ部分を押し上げて微笑む。
「姉上の恋は父上たちが応援しているでしょう? 私は妹が幸せになるように尽力することに決めたのです」
「酷い! 酷すぎるわ!」
泣き叫んでも無駄だった。リックスは言いたいことは言い終えたと、メイドを連れて部屋から出ていってしまった。
ダリアはずるいわ!
私にロインを押しつけて自分だけ幸せになろうとしているなんて!
――そうだわ。
ロインを使えばいいのよ!
ロインは私の敵かもしれないけれど、イディス様とダリアを結婚させたくない点については同志だわ。
ダリアはロインのことが好きだった。そんなに簡単に気持ちを捨てられるような子じゃないから、ロインに説得されれば、イディス様との結婚を諦めるかもしれない。
ダリアに裏切られた傷心のイディス様に近づき、私に夢中にさせて、私がサインをした紙を破棄すれば、私はイディス様の妻になれる。あんなに素敵な人の妻になれたら、多くの人が喜んでくれる。それは多くの人を幸せにできるということ。
ダリアだってロインと上手くいけば幸せでしょうし、ロフェス王国の国民もダリアよりも、美しい私が嫁いだほうが幸せになれるはずだもの。
たとえ、私のお腹の中にロインとの子供ができていたとしても生まなければいいだけ。
とにかくロインと話をしましょう。
この時の私はイディス様とダリアを結婚させたくない。
そのことばかり考えていた。だから、私がロインに襲われたと嘘をついて彼を怒らせていることをすっかり忘れていたのだった。




