21 決めつけた理由
別荘に二日滞在したあと、馬車で王都に向かった。別荘から王城までは三日かかったが、夜は宿屋に泊まったので船旅のような苦しさはなく、あっという間に日は過ぎた。
お父様たちやロインの取り調べは双方が主張を譲らず難航していた。物証がないため、どちらの証言も決め手に欠けるということで騎士団も判断が難しいようだった。
王城に着いたあとは、ロフェス王国の両陛下に挨拶をして、迷惑をかけたことについて謝罪をした。
両陛下は嘘をついたお父様たちが悪いだけで、私は何も悪くないと言ってくれた。
そして、しばらくの間は婚約者として過ごし、イディス様と交流を深めてから結婚を考えてほしいとのことだった。
お父様たちのことで揉めている状態だから、結婚の話をしている場合ではないのだと思う。
陛下は私がこの城に滞在することになったことを機会に、顔を隠すことをやめるようにと、イディス様に命令した。それと同時に、近いうちに行われる婚約のお披露目パーティーで公の場に素顔を見せることが決まった。
謁見の間から出て、メイドの先導で私の部屋に向かっている時、イディス様が尋ねてくる。
「君の母はどうして夫を庇うんだろう」
「推測でしかないですが、姉のためだと言われたのではないでしょうか」
「王妃陛下もラムラ王女を特に可愛がっていたってこと?」
「はい。お母様はお兄様のことを嫌いなわけではないようですが、可愛がっていたようにも思えません」
「リックス殿下がラムラ王女を可愛がらなかったからかな」
「そうだと思います」
嘘でもお姉様を可愛がっているふりをしていれば、お兄様はもう少し生きやすかったはず。それなのにそうしなかったのは、お兄様のプライドが許さなかったんでしょうね。
頷いた私を見て、イディス様が難しい顔をしたので尋ねる。
「どうかしましたか?」
「いや、続きは二人になってから話すよ。さすがに君の部屋で二人きりになるのは早すぎるかな」
「婚約者ですし、私はかまいません」
「なら、部屋で話そう」
微笑むと、イディス様は照れくさそうな笑みを浮かべた。
これから私が住むことになった部屋は、部屋の奥には暖炉とソファ。窓際には安楽椅子。天蓋付きの大きなベッドに書き物机。ドレッサーに本棚など、ユーザス王国にいた時の部屋よりも豪華だった。
「わあ!」
「気に入っていただけたようで良かったです」
私が歓喜の声を上げると、メイドは微笑み、素早くお茶を用意して部屋を出ていった。
二人並んでソファに座ったところで、イディス様が話し始める。
「ナナからの連絡では、国王陛下はリックス殿下のことも自分の息子ではないと言いだしたらしい」
「……どうしてそんなことを言い出したのでしょうか。お兄様の顔立ちは若い頃のお父様に似ていると言われていたのに」
驚いていると、イディス様は苦笑して答える。
「君の髪や瞳の色が違うということで揉めたという話はうちの両親も知っていて、当時、内密に調べていたのだと、旅の途中に父上から連絡がきたんだ」
「そうだったのですね。あの、調べたというのは私の母が浮気をしていないかをですか?」
「いいや。そうじゃない。逆だよ」
「……逆?」
「君の父親のほうを調べた」
「お父様を?」
どうしてお父様を調べたのかしら。私を生んだのはお母様なのに――。
「ダリアは頑なに王妃陛下の浮気を疑う国王陛下をおかしいと思わなかった?」
「思っていました。それは、お兄様も言っていましたね」
「うん。ということは、浮気を疑う何かがあるんじゃないかと僕の両親は考えたんだ。それはまあ、他国の王族も同じらしいけどね」
一度そこで話を止め、お茶で喉を潤してからイディス様は続ける。
「調べた結果、国王陛下はリックス殿下が生まれる1年前あたりから頻繁に外遊していた」
「ということは、自分がいない時期に浮気をしていたと思い込んだということですか?」
「そういうこと。どうしてそんなことを思ったかわかる?」
眉尻を下げているということは、良い話ではないわね。
頑なに浮気を疑う理由。
……まさか。
「自分も浮気をしていたからですか」
「そういうこと」
自分が浮気をしていたという後ろめたさがあったから、お母様も浮気をしていると決めつけたのね!
もし、本当にそれが理由だったとしたら、呆れてものも言えないわ!




