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1  裏切り行為 ①

 気がついた時には、私は自分の部屋のベッドに寝かされていた。ゆっくりと体を起こすと、頭の左側に痛みが走った。痛んだ部分に手を触れると包帯が巻かれている。

 ――そうだ。私は知らない男性に殴られて気を失ったんだ。


 壁に掛けられている時計を見ると、朝の6時になっていて8時間近く気を失っていたようだった。

 サイドテーブルに置いてある呼び鈴を鳴らすと、すぐに扉が開いてメイド姿の若い女性が中に駆け込んできた。


「ダリア様! 良かった! お目覚めになったのですね!」


 目を潤ませて私に尋ねてきたのは、数少ない私の味方であるナナだ。ナナは黒のメイド服に身を包み、シルバーブロンドの髪をシニヨンにし青色の瞳が印象的な美しい女性だ。

 

 ナナはロフェス王国出身の貴族ということもあり、両親から嫌われていた。

 彼女を雇ったのは、ロフェス王国の王族からの推薦があったからで、本当は雇いたくなかったからだろう。

 元々はお姉様の侍女になる予定だったナナだが、お父様の指示で私付きのメイドになった。このことについては密かにお父様に感謝している。


「心配をかけてしまったみたいでごめんなさい」

「ご無事ならそれで良いのです。こんなことなら夜勤に入っていれば良かったです」


 日勤のメイドや侍女が勤務するのは夜の9時までで、それ以降は夜勤担当と交代になる。私には夜勤担当は扉の前に立っている兵士しかいないから、首を横に振る。


「そんなことをしたら一日中働かないといけないじゃない。それにあなたが夜勤をしていたら、あなたも巻き込まれていたわ。夜勤担当のメイドや侍女がいなくて幸いだったわ」


 兵士がどうなったか気にはなるけれど、まずは私のことから確認してみよう。


「私が気を失って、かなり時間が経っているみたいだし、ナナのわかる範囲でいいから、何が起こったのか教えてもらえないかしら。 男に殴られたことだけは覚えているんだけど、それ以降の記憶がないの」

「ダリア様の部屋を守っていた兵士が何者かに襲われたんです。兵士を倒した男が、その後、ダリア様に危害を加えたのではないかと思われます」

「兵士は無事なの?」

「大怪我ではありますが、命に別条はないようです」

「なら良いけど……」


 私は腕をさすりながら、ナナに尋ねる。


「私は……何か、されたのかしら」


 寝間着に着替えさせられているので、賊に服を脱がされた可能性がある。聞くのが怖い気もしたけれど、大事なことでもあるから確認しておきたかった。


「ダリア様、ご安心ください。あなたが心配なさっているようなことはありませんでした」


 ナナは私の背中を優しく撫でながら続ける。


「すぐに他の警備の兵士が駆けつけて、賊を取り押さえたのです」

「賊は今はどうなっているの?」

「その場で舌を噛んだそうです」


 取り調べをするために拷問されるでしょうし、どうせ最後に処刑されるなら、今すぐ死んだほうがマシといったところかしら。もしくは、最初からそんな段取りだった?


 ……そうだわ。大事なことを聞き忘れていた。


「お姉様は無事なの?」

「はい。ラムラ様は賊に襲われる前に保護されました」

「……賊に襲われる前に?」


 賊は私とお姉様が話をしている時に現れた。なら、お姉様が何もされていないのはおかしい。

 いや、お姉様は賊とグルだった可能性が高い。そうでないと、鉄壁の警備がされているはずの城内に入れるわけがない。少なくとも手引きした誰かがいるはずだ。


「とにかく、お姉様は無事なのね」

「はい。ですが……」


 ナナは目を伏せて口を閉ざしてしまった。


「……どうかしたの?」

「いつかはわかることですのでお伝えしますが、昨晩のラムラ様はかなり怯えていらして、遅い時間ではありましたが、ロイン様を呼び寄せたのです」

「なんですって!?」


 勢い良くベッドから出ようとすると、ナナに止められる。


「いけません! しばらくの間は安静にしておくようにと、お医者様から指示が出ております!」

「でも!」


 嫌な予感しかしない。私の様子を見たナナは眉尻を下げる。


「ダリア様が目を覚ましたことは、他の者もわかっておりますので、ロイン様の耳にも入ることでしょう」


 言い終えたと同時に扉がノックされ、返事をするよりも前にロインが中には入ってきた。


「ダリア! 大丈夫か!?」


 ロインは白いシャツに黒のズボン姿で、自分の家でくつろいでいる時の彼と同じ格好だった。いつもは整っているストレートの髪が乱れていて嫌な予感が増す。


「……ええ。心配してくれてありがとう」


 まずは、彼にナナから聞いた話を確かめることにした。


「私はさっき目覚めたばかりなのに、どうしてこんなに早くにここに来れたの? 城の客室に泊まり込んで、私が目覚めるのを待っていてくれたの?」

「それは……」

 

 矢継ぎ早に質問する私から、ロインは目を逸らして言いよどんだ。するとナナが挙手する。


「私がお話ししてもよろしいでしょうか」

「私はかまわないけど」


 ロインに目を向けると、彼はため息を吐いて頷く。


「……許すが、真実を言えよ」

「もちろんでございます」


 ナナは厳しい表情でロインを見つめて話し始める。


「ロイン様はラムラ様に呼び出されたあとは、一晩中ラムラ様のお部屋にいらっしゃいました。その間にダリア様の様子を見にくることもありませんでした」


 嫌な予感は的中していたことがわかり、ショックで涙が出そうになるのを必死にこらえた。

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